超中二病(スーパージュブナイル)

第3章 舞台上にて踊る者

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

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 一方その頃。
 浦々笹波は車に乗っていた。だがそれは竜胆灯火が運転していたものでない。そもそも竜胆灯火が運転していた車は、懴忌によって真っ二つに切断され爆発した。
 新しい車、黒塗りの高級車を運転するのは黒ずくめの男。右城條区の部下。
「笹波ちゃん〜、そろそろ機嫌直してよ〜。何も君に危害を加えようとしてるわけじゃないんだからさぁ〜……むしろオレは君の味方なんだよ?」
 笹波に向かい合って座る右城條区が、笹波の機嫌をとろうと話しかけた。とても嘘くさい笑みを浮かべている。
 運転手を含め車内には3人。笹波と右城は後部座席に座っている。
「ふん、あなた達がしようとしている事は分かっているのよ」
 笹波は右城を蔑むような声で言い放つ。
「ほうほう……それは何かな?」
 右城は余裕の笑みを崩そうとしない。笹波はそんな右城を睨みながら静かに言った。
「それは――世界の革命」
 笹波が一言答えた後、車内につかの間の静寂が訪れる。
「く、くはははははっ!」
 堪えきれないといった様子で、右城が唐突に笑い出した。
「な、何がおかしいのよっ」
 笹波は一層不機嫌な顔をして右城を睨みつける。
「はっは……ごめんごめん。ただね、君は勘違いしてるだけさ……ただお父上は君の事が心配なだけなんだよ。子を思わない父はいないってやつだよ」
 右城はあっけらかんとして、笹波を諭すように語りかける。
「……あなたは、あなたはあの男の事を何も分かっていない」
「分かっているさ……ともかく今夜の便で君はお父上の元へ行くのだよ」
 深刻な笹波に対して、右城は軽い表情で笹波の言葉に真剣にとり合おうとしない。
「ふん、あなたも組織の犬なのだから何を言ったって無駄なわけね」
 だから笹波は右城に対して皮肉を言った。どうせ気にもしないだろうと思っていたが、意外な事に右城は少し黙り込み、
「……いいや、オレは違う。オレは……あんな奴らの」
 何やら言いにくそうに、たどたどしく笹波の言葉を否定する。
「何を言っているのよ。今だって連中の為に私を連れ回してるじゃない」
「オレは違う! オレは奴らの為にやってるんじゃない!」
「それじゃああなたは何の為にこんな真似をしているのよ?」
「そ、それは……お、オレは、オレは……」
 しかしすぐに言いよどむ右城。見れば小さく体が震えている。
「ふん、何も言えないじゃない。結局はあんた達はみんな一緒なのよ。いい? お父様が私を必要としているのは私の力が必要だからよ。所詮私はお父様にとっての道具にしか過ぎない。あなたもお父様に使い勝手のいい駒として利用されてるだけなの」
 笹波は勝ち誇ったようにして、右城の顔を見た。そして笹波はその顔を見て驚いた。
「お、オレは連中の仲間なんかじゃない。まして君の父親はオレにとっての敵だ!」
 その時の右城の顔は怒りに燃えているような、まるで大切なものを奪われたとでもいわんような、そんな表情だった。それを見て笹波は少したじろぐ。右城條区がなぜこんなに取り乱すかが分からないから。そしてなぜかその時、笹波は右城條区と以前どこかで会ったかのような、そんな懐かしいような印象を感じた。それもなぜかは分からない。
「ねえ、あの人達は私を使って何をしようとしているの? お父様の本当の目的は何? あなたは何か知っているの?」
 だから笹波は気後れして、右城に囁くように尋ねた。
 笹波の態度に気付いた右城は冷静さを取り戻し、またすぐに笑顔を作った。
「いや、詳しくは知らないさ。ただ君を連れてこいって命令を受けているだけだよ」
 残念そうに首を振って答える右城を見て、笹波は右城條区の説得を試みる。
「あ、あなたはそれでいいのっ? 何も分からないまま利用され続けてもいいのっ? あなたは……私の能力を目覚めさせる事になればどうなるか分かっているのっ?」
 笹波は人形のような顔を曇らせて右城に言い寄った。詳しい事情を知らない右城は、つい笹波の剣幕に押される。
「……そ、それでもオレは君を連れて行かなくちゃ行けないんだ。け、けれど……君はさっきからそんなに怯えて……教えてくれ、一体どうなるというんだい? そもそも君の能力とはなんなんだ……それは、世界の革命とやらに関係あるのかい?」
 右城はそれでも笑顔を崩さない。いや、無理に笑顔を張り付かせていた。
「世界の革命どころじゃないわよ……それは全部あいつらの嘘なのよ……だって」
 今まで不安そうな表情だった笹波がきっ、と右城の目を見据え、凛々しい顔になる。
「だって……何なんだい? 笹波ちゃん」
 右城の笑顔は引きつっていた。その顔にはもはや余裕は見られない。
「この世界にある、全ての存在に死が訪れるのよ」


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