超中二病(スーパージュブナイル)

第2章 激闘交錯

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7

 
「……それでパラソル。お前いったいなにしに来たんだよ」
 劇下は、彼が知る中で最悪の人物を目の当たりにして慎重に話しかける。
「つれない言い方だな〜。かつてのパートナーに会いに行くのに理由が必要かよぉ」
 パラソルは久しぶりに劇下と会えて嬉しいといった様子でニコニコしている。昔から感情を惜しみなく表に出す奴だもんな、と劇下は思った。
「パートナーか……確かにそんな時もあったが、俺自身不思議に思うよ。よくお前みたいな奴と行動を共にしたもんだな〜と」
「ひっどいな〜、ワタシ的にあの日々はとても楽しかったんだけどぉ。ま、でもワタシだって不思議に思うね。なんで劇下はこんなトコでくすぶってるんだろう〜って」
 パラソルは虹色の髪と、多色に映える瞳を輝かせながら首を傾げてみせた。
「何が言いたいんだ?」
「だ〜か〜ら、またワタシと一緒に大冒険の旅をしようってコトだよっ。劇下だってあの日々は楽しかったんじゃないかな? 戦争のコトだって忘れられたでしょ?」
 パラソルは子供のような笑顔で劇下の顔を覗き込んでくる。
「あ、ああ……確かにあの日々はかけがえのないものだったよ。けどな……俺にはもう新しい生活があるんだ。いつまでも美しかった過去という幻想を追い求めても、それは蜃気楼のように決して手には入れられないし、なによりその先に待ってるもっと楽しいことを見過ごしてしまうじゃねぇか」
 劇下はパラソルから逃れるようにして、視線を泳がせながら返答する。
「……へへ〜ん。相変わらずここぞというときは恥ずかしいセリフを堂々と言っちゃって。やっぱり劇下は劇下のままだね〜♪」
 パラソルは一層嬉しそうになって……なぜか劇下に抱きついた。
「そーゆーとこ、だぁい好きだぞっ」
「わっt、いきなり何するんだっ。い、痛てててっ! 俺は怪我してるんだってッ!」
「えへへ〜、別に〜。ぎゅってしたいからやってるだけ〜」
 そう言ってパラソルはさらに強く抱きしめる。
「いてて……加減しろってっ。お前はただでさえ馬鹿力なんだぞ。人間の体は脆いんだぞっ! お前も相変わらずだなっ!」
 劇下はやれやれと首を振る。それを見たパラソルが頬を膨らませる。
「む〜、本当はこんな美女に抱きつかれて嬉しいくせに〜。劇下はえっちだもんね〜」
 と言いながら、パラソルはぐりぐりと劇下に頬ずりを始めた。
「はぁあああ〜? い〜や、俺はそんなお子様体型に興味はないんだああああほぎゃあああ! 骨があああああああ!」
「今なんか言った? 劇下〜?」ニコニコ笑顔を崩さないままパラソルは劇下の体を締め付けた。骨が砕けんばかりのものすごい力である。
「嘘です嘘です! 冗談ですっ! ホントはめっちゃ嬉しいですっ興奮しますううう!」
「そう? じゃあワタシが一番好き〜?」
「好きです好きです大好きですうう!」
「久しぶりに会えて嬉しい?」
「ずっと会いたかったです! 幸せです! こんなに嬉しいことはありませんッ!」
「またワタシと一緒に冒険の日々に出発……」
「それは無理です」
「な、ん、で、よ〜っ!」
「ひぎゃああああああああ!」
 その後、こんなやりとりがしばらく続く。

「で、パラソル。俺を助けに来てくれたのは有り難いんだが、お前本当にいったい何の目的でこの街まで来たんだ? 旅の途中で立ち寄ったという感じでもなさそうだけど」
 パラソルに痛めつけられた体をいたわりながら、劇下はパラソルに尋ねる。
「え〜……だから〜ワタシは劇下がピンチなのを臭いで察して……」
「お前は犬かよ! まぁ、五感が常人離れしてるお前ならあり得る話ではあるけど……俺が聞きたいのはなんでこの街にいたかってことで」
「劇下に会いたかったから」
「ああ……もういいよ。じゃあそれで」
 劇下は昔からパラソルとはこんな調子だ。いつもパラソルのペースに巻き込まれてしまう。だが、そのパラソルの態度が忽然とシリアスなものに変わって、唐突に告げた。
「……劇下。もうこれ以上この事件には首を突っ込まない方がいいよ」
「この事件って……何のことだ?」
 劇下も声のトーンを落とし、静かにその真意を問いただす。
「そりゃ〜……この事件はこの事件だよ。なんとなくだけど分かるんだよ……なにかとてつもないことが起こるような気がするって」
 意味ありげな笑みを浮かべて、パラソルは無邪気に話す。
「とんでもないこと? それはさっきのデカブツと関係あるのか?」
「それは分からないよ〜……あくまでワタシの勘だからね〜」
 だがパラソルの勘は予言といっていい程に的中する。だからこそ嫌な予感がする。
「とにかく劇下は関わらない方がいい。忠告はしたからね」
 そう言うと、パラソルは身を翻そうとした。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。パラソル、お前はこれからどうするんだよ」
「うん。ワタシは用事があるからここでお別れ。でもね、劇下。ワタシは諦めないからな。だって劇下はワタシのものなんだからっ!」
「俺はお前のものになった覚えはないんだが……」
 何の用があるのかは聞かない。その方が身のためだということを知っていたから。
「それじゃあな劇下。ば〜い」
「ああ」できればもう会いたくないが……とは口が裂けても言えない。
 そしてパラソルは半ば廃墟と化した店を後にした。
「相変わらず騒がしい奴だ……あいつが関わると建物は必ず崩壊してしまうし、いつも俺が大怪我を負ってしまう……ま、今回は大分マシなほうなんだけどな」
 そして劇下は半ば廃墟と化した店内で、何かを探し始めた。


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