超中二病(スーパージュブナイル)

第2章 激闘交錯

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 懴忌が去った後、僕達を救ってくれた竜胆灯火という男に礼を言う事にした。
「ありがとうございます。おかげで助かりました」
「ふっ。礼はいらないよ少年。オレはたまたまここを通り過ぎただけにすぎん。それよりも少年よ、君のその勇気は賞賛に値する価値がある。自分を誇らしく思っていいぞ」
 先程の戦いをしていた人物とは思えないほどの穏やかな顔で竜胆灯火は言った。ふふ、そう言われると僕もなんだか嬉しい。でも、それより僕には気になることがある。
「あのぅ……それにしてもあなたは一体何者なんですか? さっきの殺し屋は英雄とか言ってましたけど」
 あと、世界最強だとかなんとか。スケール大きすぎるよ。普通に殺し屋退けてるし。
「それは一部の人間がもてはやしているだけだ。オレはただ己の理想の為に戦ったまで。そしてその理想の為にオレは、最強の力を手に入れなければならん」
 若干現実離れしすぎな内容なんだけど、まぁ……この世界だったらそれもアリなのかな。
「……それより、なぁ君達。自己紹介がまだだったな。名前を教えてくれないか? オレはもう分かってると思うが竜胆灯火だ。よろしく」
 なんで自己紹介……? ちょっと疑問に思ったけれどまぁいいだろう。正直、懴忌と同じくらい怪しい人物なんだけど命の恩人だ。名乗るくらいならいいか。
「僕は久我山玖難……見たとおり普通の高校生です。そして彼女が浦々笹波」
「よろしくお願いします」と言って、僕の横でお辞儀する浦々さん。竜胆さんもだけど何がよろしくなんだろう。
「そうか。浦々笹波さんだね……」
 竜胆さんは浦々さんの顔を見て、なにか思案するような顔をしてみせた。あれ? 僕の事は結構どうでもいい感じなの、もしかして。
 とか僕が少し悲しんでいると竜胆さんが口を開いた。
「笹波さん、一つ聞いていいか?」良く通る清々しい声だった。
「はい、なんですか?」浦々さんは戸惑うような声で答える。
「なぜ君は殺し屋に狙われていたのだ? あいつは何が目的だったのか」
 それは確かに僕も知りたいことだ。けれど……。
「ごめんなさい。私にもさっぱり分からなくて……」
 だろうな。予想してたとはいえ、この状況になっても言えないなんて、浦々さんはどんな秘密を抱えているんだろう。でももしかすると、本当に何も知らないかもしれない。思わせぶりな事ばっかり言ってる人間が、実は何も知らなかったってよくある話だ。
「そうか。知らないか」
 竜胆さんは精悍な目で浦々さんを見つめる。怪しんでいるようにも見える。
「それより、竜胆さん……私もあなたに聞きたいことがあります」
 と、今度は逆に浦々さんが問いだした。
「あなたは私を使ってどうするつもりなんですか?」と。
 ――え?
「な、何を言ってるの……。う、浦々さんっ、もしかしてこの人も……」
 一気に緊張が走った。竜胆灯火は連中の仲間……? 初めからグル……?。
「いいえ、違いますよ。玖難。竜胆さんは奴らの仲間ではありません、きっと。でも分かるんです……この人にも事情があるんだってことが」
 浦々さんは竜胆から距離を置いて身構えている。完全に竜胆を敵とみなしている。
 僕は竜胆さんを見た。竜胆さんは……静かに笑っていた。
「フフフフ、やはり世界の鍵となる人間はただ者じゃないってことだな……ああ、そうだよ。オレはこの間違った世界を本来あるべき姿に戻す。今度こそ『革命』を討ち滅ぼす。その為に君の力が必要なのだ。……だからその力を貸して欲しい」
 こ……この男、もしかしてあの戦争の生き残りなのか。だから『英雄』なのか? そして今もまだ夢見ているのか。こいつは……世界を転覆させようとしているのか?
「う、浦々さんっ」
 僕は浦々さんの手を握って彼女に振り向く。浦々さんも……笑っていた。
「ふふっ……うふふ。そんな事にこんな可憐な少女を巻き込もうっていうの? 馬鹿ね……答えは決まってるじゃない。そんなの、お断りよ」
 その言葉を聞いて僕は何故か少し安心した。でも今は安心なんてできない状況だ。
「そうか……やはりそう言うと思ったよ。だがオレにも譲れないものがある……ならば力づくだ。悪いが浦々笹波、オレと一緒に来てもらう」
 なんということ……まさに一難去ってまた一難。僕は目の前が真っ白になった。


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