超中二病(スーパージュブナイル)

第4章 越えて世界

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

1

 
 海に囲まれた開発区、スーパービッグサイト海上都市。そこの飛行場にある一際大きな建物。浦々笹波は部屋の窓から広い飛行場を眺めていた。
 ホールウィンド国際空港。
 深夜なので外にはほとんど人の気配がなかったが、一機のジャンボ機の周りはいくらかざわついているのが確認できた。
 恐らく笹波はこれからあのジャンボ機に乗せられて父親の元へと連れて行かれるのだろう。
 暗闇の中でぼんやり灯る飛行機の姿を、虚ろな瞳で見つめていると部屋の扉をノックする音が聞こえた。
「そろそろ出発の時間だ笹波ちゃん。準備はできているかい?」
 扉の向こう側から右城條区の声が聞こえてきて、そのまま部屋の中へと入った。
「……なかなか似合っているじゃないか、笹波ちゃん」
 随分派手に動き回っていたので笹波の体は大分汚れていた。なのでシャワーを浴びて、今は右城によって用意された派手なドレスに身を包んでいた。
「うん、これからお父様のとこに行くのだから身だしなみは整えとかないとね」
「ふん、どうだか。あの男が興味あるのは私じゃなく、私の中にあるものなのよ……あなたは何も知らないようだけれどね、このままじゃ取り返しのつかない事になるわ。あなたもただ利用されているだけなのよ」
 綺麗な衣装に身を包んだ綺麗な少女は、全てを諦めたような、暗い顔をしている。
「だからね、笹波ちゃん。そんな事は分かっているんだよ。……車の中でも言ったが、オレは君の父親に対していい印象は持っていない。こんな事を娘の君に言うのはどうかとも思うが……オレはあの男をいずれ出し抜いて、倒してやろうと思っているんだよ」
「倒す? それじゃあなぜ今はいいなりになっているの?」
「それはね……笹波ちゃん。君の為だよ」
「もっと訳が分からないわ……あなたはどうして私にこだわっているのかしら?」
「そ、それは……」右城は口ごもった。
「ふん、やっぱり答えられないようね」
 笹波が軽蔑するように右城を見る。右城は黙り込んだままだ。その姿はどことなく寂しそうに見えた。
「……とにかく出発だ。来て貰おうか」
 ようやく右城が一言だけ告げると、笹波を連れて部屋を出た。そのまま人気のない薄暗い廊下を渡って建物の外へと出る。
 外には懴忌、顎奇の残虐姉弟や武装した兵隊達がいた。先程部屋の窓から見たときよりも人工の光が随分と辺りを照らしていた。
「それでは行きましょうか、笹波ちゃん。オレの仕事はここまでだ……」
 右城は建物の入り口で立ち止まった。入れ替わりに懴忌が笹波の元へとやってくる。
「さぁ〜あレッツゴーだよー、笹波ちゃあん」
 けれど進もうとしない笹波。懴忌はその手を掴んで引っ張ろうとする。
「やめて、離してっ。私は行かないわよっ! ねぇ、右城條区! あなたは本当にこのままでいいの!? あなただって本当はこんな事したくないんじゃないのっ!?」
 笹波は右城に懇願の眼差しを向けながら、必死に抵抗しようとする。
「……」右城は俯いたまま何も答えない。
「さぁさぁ〜笹波ちゃ〜ん。我が侭はっ、いっけないっよ」
 懴忌は強引に笹波の手を引っ張り、ジャンボ機へと引きずっていく。
「ほらほら、お前らもっ乗り込め。……じゃあなっ右城條区ッ。今度また仕事する時があったらっそんときぁよろしくなっ」
 懴忌は手を振りながら進む。そして今まさに2人が機体に入ろうとした時だった。
 ――ジャンボ機の後方が吹き飛んだ。
「な――なにぃぃぃぃいいいい!?」
 その場にいる誰もが驚きを隠せなかった。右城條区も目をみはる。
「ば……爆発しただとッ!?」
 それは爆発だった。機体の後方からは炎と煙が立ちこめている。
 ジャンボ機に不備はないはずだ。爆発する要因などどこにもない。
 ならば、だとしたら――。
「よーぅ、お前らぁ〜。随分と色々と物語を盛り上げてくれたみてーじゃねーか……礼を言うぜ。これで俺も思う存分暴れ回れるわけだからよぉ!」
「ちょっ、ちょっと劇下さんっ。滅茶苦茶すぎますよっ、やりすぎですよっ!」
 煙の中から声が聞こえた。
 全員がその一点に注目する。よく目を凝らせば、そこには2つの人影があった。
「はっはっは〜っ。悪事はここまでだ、貴様ら! ノンアンコールショップの戯作劇下が来たからには、貴様らの物語もここでおしまいだぜぇ」
 戯作劇下と、久我山玖難の姿があった。


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