超中二病(スーパージュブナイル)

エピローグ あるいは久我山玖難の冒険の始まり

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 
 大破した戯作劇下の店の跡。今は工事中で立ち入り禁止だ。少し離れたところから工事現場を見守るようにして2人の男が並んで立っていた。一方は身だしなみの整った、まるで神父のような、いかにも清潔そうなコートを着た男。そしてもう一方はだらしなく探偵助手のような青いジャケットを着崩した男。一見すると対照的な2人に見えた。
「結局、今回もオレは何も大義を成すことができなかったわけか……」
 そのうちの一人、身だしなみの整った方、竜胆灯火は吐き捨てるように言った。
「気にすんな、灯火。お前はいつもおいしいとこは逃す運命なんだ、諦めろ」
 もう一人の、だらしない方、戯作劇下が慰めるように竜胆の肩に手を置いた。
「すまんな……って、いや……その励ましの言葉を気にするぞ! よく考えたら全然慰めになってないぞ!? それってオレはこれからも失敗続きだと言いたいのかっ?」
「ははは、今更何言ってんだよ〜。おいしいとこで逃すから、それが逆においしいんじゃないか〜。うらやましいぜ、まったく」
「オレにとっては全然おいしくないわっ! オレは芸人か!? 体張ったネタをやってるわけではない! うらやましいのならそんなものオマエにやるわっ!」
「いやいや。だって俺は最後の最後、いつもおいしいとこで決めるのだ俺流なんだぜ? そんなもの結構ですよ。あと、やっぱりお前は相変わらずツッコミが下手だな」
「……まったく、昔からオマエは変わらないな……」竜胆は小さく息を吐いて肩の力を抜いた。
「そうだよ。確かに俺達は色々と変わっちまったけど、ずっと変わらないものだってあるんだ……。それで――お前はこれからどうするつもりなんだ、灯火」劇下はボサボサの髪を片手でかき上げながら、隣に立つ竜胆に聞く。
「フフ、変わらないさ。オレはオレの野望の為に生きる。だがまずは真の世界最強を目指す事にする……今回の件で己の力はまだまだ未熟だということに気付かされた。一から出直そうと思う。しばらく旅にでも出るさ」竜胆はまるで工事中の建物を越えた先を見るように目を細めた。
「そうか……。でも、お前も今回けっこう暴れ回ったから連中に目を付けられているだろ。せいぜい気を付けろよ」
「言われなくとも分かっているさ、オレを誰だと思っている。そういう劇下こそこれからどうするつもりなんだ? みてのとおり住処は大破したぞ」
「な〜に、俺だって変わらないよ。また別の場所でのらりくらりとやっていくだけだよ。それにさ……これから先、少し騒々しくなりそうなんでな」
「フ……そうか。それではオレはこの辺で失礼させてもらうよ」
「なんだ、もう行くのか? 珍しいな。いつもみたいに俺をお前の野望とやらに誘おうとはしないのかよ?」
「……フン。劇下、オマエの考えている事は未だに分からないが、オマエの守りたいものというものが、ようやくオレにもなんとなく分かってきたよ。それが分かったから……やはりオレとオマエは相容れないようだ」
 そのまま竜胆灯火は戯作劇下に背を向けてこの場から去っていった。
 竜胆の姿が見えなくなって、戯作劇下は再び自分の店があった空き地を眺めた。
「そうだな。俺も……これから色々と忙しくなりそうだ」
 そして劇下もノンアンコールショップを後にした。
 2人の男の新しい出発の始まりだった。


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