ガンプラマスター昇太郎

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

プロローグ

 
 ――それは帰り道のことだった。

 中学の卒業式の時、その日僕はずっと眠たかった。
 新作のゲームが出たもんだからここのところずっと徹夜続きだったのだ。
 卒業前になると授業もあんまりなくて学校に行く機会も減って嬉しかった僕は、卒業式当日も早く終わらないかなぁ位にしか考えてなかった。クラスメイト達がやたらと悲しそうな顔をしているわけが分からなかった。普段は授業もろくに聞いてもいないくせに。
 そして卒業式の日。式の間も僕はゲームのキャラクター達の育成について考えていて、先生の話なんて全く聞いてなかった。クラスメイトの女子が涙を流しているのを、どこか遠い出来事のように感じていた。
 そして式が終わって教室に行くと担任教師が別れの挨拶をしていてみんなも感動してたみたいだけど、僕は早く家に帰ってゲームしたいなぁとしか考えてなかった。
 で。先生の長話も終わりいよいよ解散となると、写真を撮ったりしているクラスメイト達の間を縫って僕はさっさと教室を後にした。制服のボタンをあげてる人とか、告白してる人とかいたけど、僕は何も考えずまっすぐ家に帰っていく。
 校門を抜けて、僕の他に誰も制服姿の生徒が見当たらない道を歩いていると――僕の視界にとある人物が映りこんだ。
 それは、少女。他の学校の制服を着た少女が、僕と同じように卒業証書の入った筒を持って嬉しそうに笑っていた。
 桜の木の下だった。満開の桜の花が咲いている。少女は写真を撮っているのだろう。父親らしき人物が少女の手前でカメラをのぞき込んで立っている。
 僕は立ち止まっていた。たったそれだけの光景に僕はみとれていた。そして、僕は何かとんでもない間違いをしているかもしれないと思い始めていた。
 なんだ……この胸のざわめきは。
 そう思っていると、また別の制服少女が卒業証書を持って横から走ってきた。風に吹かれた長い黒髪で顔が隠れた少女。笑顔の少女と対照的な、暗そうな印象を受けた少女。
 少女はもう片方の手にフィギュアかなにか、おもちゃみたいなのを持ってぶつぶつ独り言を言っていた。
 なんだ? 危ない人か……? 不気味をとおりこして、僕にはその少女がどんどん可哀想な人に思えてきた。見ていたらとても切なくなってきた。
 その少女は写真を撮ってる笑顔の素敵な子や僕に目も暮れずに、近くにあった建物へと入っていった。
 その建物は、模型店だった。
 少女は卒業式が終わってすぐに、脇目もふらずに模型店へ向かって行ったのだ。
 僕はその瞬間に悟った。
 間違っていた――僕の今までの人生は、ずっと間違え続けていたのだと。


inserted by FC2 system