ガンプラマスター昇太郎

第1話 昇太郎、ガンプラを作る

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 そして放課後。俺は昨日に引き続いてHGガンダムの制作を続けることにした。
 ガンプラ部(仮)は認められなかったので、当然場所は旧校舎の3階の空き教室ですることになった。
 もしかしたら今日も白城静夜が教室にいるかもしれないと内心怯えていたが、幸いにもその空間には誰もいなかった。
 俺はほっとするのを師匠に悟られないようにし、師匠の工具を再び借りてHGガンダム制作にとりかかった。
「あー……腕と足ってそれぞれ同じのを2つ作らないといけないのが面倒だよなぁ」
「そうね。しかも足の部分なんてガンプラ組み立ての全行程において一番手間がかかると言っても過言ではないからね。挫けずに頑張るのよ」
 と師匠の激励の言葉を受けて黙々とニッパーで切ってデザインナイフで削ぎとって組み立てるの作業を繰り返すこと3時間。
「よし、これで両手両足まで完成した。だいぶ完成に近づいたな……」
 慣れたせいか、昨日よりもペースもだいぶ早くなっている。もう残すは、顔やら背中に付いてる黒いのやらだけ。
「凄いわね。あと少しで完成じゃない」
「へへ、師匠の言ったとおりだったよ。説明書どおりにやったら結構簡単に組み立てられたよ」
「でも顔の部分は細かいから注意して組み立てるのよ。特にアンテナなんて初心者が折りやすい部位ナンバーワンよ」
「そうだな……だから後回しにしたんだよな。緊張するな」
 俺はニッパーを手に、頭のパーツの攻略にかかろうとする――が。
「……けど。もう外も暗くなってきたことだし、今日はそろそろ解散しましょう昇太郎」
「あー……またこんな時間まで熱中してたよ。せっかくいいところだったのにな」
 と、俺が窓の外に目を向けたとき、視界がぼやけて頭がくらりとした。
 ずっと細かい作業をやっていたからか、ちょっと目が疲れてしまったようだ。焦点がうまく定まらない。
「大丈夫? ガンプラは目をつかう作業だから注意が必要よ」
 なるほどね。確かにこれじゃあ潮時だろう。俺は工具とガンプラを片づけた。
 そして昨日と同じように旧校舎から出た俺達は、途中まで一緒に帰ることにした。
「ねえ昇太郎……」
 と、少し離れたところを歩いていた師匠が囁くように言った。
「ん、なんです師匠?」
 師弟関係にあるからだろうか、時折俺は師匠に対して敬語になってしまう。
「昇太郎は、柴島さんのためにガンプラを作るのがうまくなりたいのよね」
「そうだけど……それがどうかした?」
 師匠の意図が分からなくて彼女の顔をのぞき込んだ。
「……ううん。別になんでもないわ」
 なぜか師匠は顔を逸らしてそのまま黙り込んでしまった。
 ああ……分かった。ガンプラ大好きな師匠のことだ。もしかして俺がガンプラに対して愛がないとか思っているんじゃないだろうか。俺のこと、不純な動機でガンプラを始めた愚か者だと思ってるんじゃないだろうか。
「安心してよ、師匠。俺はガンプラ作るの好きですよ。確かにちょっとオタクっぽくて暗そうな趣味だけど、気づくと時間が経つのも忘れて作ってられるくらい楽しんでますよ」
「……そう。なら、よかったわ」
 師匠は微笑んだ。が、その笑顔はどこかぎこちなく、空虚だった。
 その後とくに何も話すことなく歩いていって別れ道まで来ると、師匠は商店街の入り口付近に立ち止まって言った。
「昇太郎……あなたはオモチャについてどう思う?」
「それはガンプラのことを言ってるんです?」
「ガンプラも含めて全般のことよ。あなたはオモチャについてどう感じてる?」
 よく分からない質問だ。俺に何を期待してるんだろう。
「オモチャか。実は俺……こう見えて中学まではオタクだったんだ。だからオモチャはいっぱい持ってたな。フィギュアにゲームにアニメグッズ……今思えばハマり過ぎだったなって思うけど……でも、後悔はないんだ。あの時はそれで心が満たされてたんだ。俺にとってオモチャは乾いた心を満たすものなんだ。とっても綺麗な水のようなものなんだ」
「……そう。そうよね。あなたがオタクなのは大体知ってたけど、オモチャは人に潤いを与える美しいものでなければならないわよね」
 俺の答えを聞いた師匠は、1人で何かを納得するような素振りをみせると。
「ありがとう、昇太郎。それじゃあまた明日ね」
 そう言って背中を向けて、路地のほうへと姿を消した。
 残された俺は師匠の背中が見えなくなると、帰る方向とは別の場所へと足を向けていた。
 ……俺って、実は周りからオタクだって思われてるのか? ちょっとショック。

「あ、ばっ坂場くん。いらっしゃ〜い」
 俺が柴島模型店に入店するなり、呂律の回らない甘ったるい声が聞こえてきた。
 見ると、絶対今まで居眠りしてたと思われる柴島さんが、とろんとした瞳で口の端によだれを垂らしていた。客、少ないんだろうなぁ。
「く、柴島さん……その、暇だったからちょっと寄ってみたんだよ。し、新作とかあるかな〜って……あと、その……口のとこ、ついてるよ」
「新作? あ、そういえば新しいガンプラ入荷したみたいだよ。おばあちゃんがそんなこと言ってた。で、口……? わ。わわわっ」
 慌てて服の袖でよだれを拭った柴島さんは、ガンプラのある棚へと急ぎ足で向かった。
 てか前に見た店員のおばあさんって、ガンプラのこと詳しいのかな。仮にもプラモ屋の店員なんだから。というかそもそも俺、新作のガンプラとかに興味があって来たわけじゃないんだけど。つい口から出ちゃっただけなんだけど。
「ほ、ほら見てこの子。けっこう可愛いでしょ。最近の作品に出てくるやつみたいだよ」
 面だしされていたガンプラの箱を手にとって見せてくる柴島さん。ああ、近い。近いよ柴島さん。どきどきするよ。そしてこのロボット、俺ぜんぜん知らないよ。
「あ、あのさ柴島さん……ガンプラ大会って知ってる?」
 本当の目的というわけではないけれど、俺はどうしてもこのことを聞いておきたかった。
 白城静夜が出場しろと言った大会。黒路地師匠が敬遠していた大会。
「あ、ガンプラ大会っ。もしかして坂場くん、ガンプラ大会に出るのっ?」
 なぜか興奮した様子の柴島さん。
「えーと……まぁ、うん」
 ついつい成り行きで頷いてしまった俺。
「わぁ! そうなんだぁ、坂場くんも出るんだ! すごいねっ」
「え、『坂場くんも』ってことは……誰か他に出るの? まっ、まさか柴島さんっ?」
「ええっ。わたしは出ないよ〜。プラモデルあまり得意じゃないもん。えとね、幼なじみの男の子が急に出るって言い出したんだ。その子、普段はガンプラなんてプラモデルじゃないって言ってるのに、どういう風の吹き回しだろ。うふふふ……」
 ますます嬉しそうな顔をみせる柴島さん。なんか……俺はその人物に心当たりがあるような気がする。ていうか。
「あの……差し支えないなら教えてくれるかな……その人ってもしかして……白城静夜?」
「わっ? 坂場くん、静夜くんのこと知ってるんだっ?」
「ま、まぁそんなとこかなぁ……あはは」
 俺はから笑いで曖昧に答えた。
 や、やっぱりあいつのことだったのか。しかもなに……静夜くんだと?
「うん、そうだよ。白城静夜くん。静夜くんはね、わたしの実家がプラモデル屋だからプラモデルが好きなんだよ。そして静夜くんの夢はプロのプラモデラーになることなんだ。だからわたし、静夜くんを応援してるんだ」
 そう語る柴島さんの瞳はきらきら輝いていた。
 な、なんだ。なんなんだこの展開は……俺にはさっぱり分からないけどこれだけは理解した。
 白城静夜……許せんっ!
「……俺、ガンプラコンテストに出場します」
「え? うん……そうだよね。坂場くんも頑張って――」
「そして、優勝しますっっっ!」
 俺は店中に響きわたるくらいの声で叫んだ。
 この瞬間、白城静夜は俺のライバルとなった。
 俺はガンプラコンテストに出場する! そして白城静夜を倒して、紫島さんの心をときめかせるんだ!
 そして大会が終わったら、俺は……君に――。


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