ガンプラマスター昇太郎

最終話 昇太郎の一時間戦争

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3

 
 すぱーん、と。マスターガンダムの蹴りがガンダムの頭部を横切った。
「く、くっそぉおお……ゴッドガンダムさん……あとは頼みました! ――あ、アムロおおおおおおおっっっっ!!!!」
 マスターガンダムを投入してからの師匠の攻撃はすさまじかった。
 師匠はザクの代わりに入れたマスターガンダムで、体術のみを駆使し自由自在に俺のガンプラたちを翻弄させた。
 なんとかギリギリのところでマスターガンダムの攻撃を避け続けてきたが、また1機やられた。
 ガンダムの頭が吹き飛ばされたのだ。
「くぅ……たかがメインカメラがやられただけだ!」
 だけどメインカメラがやられてはもうガンダムでは戦えない。むしろゴッドガンダムの足を引っ張ることになる。
 俺はガンダムに銃を持たせたまま床に立たせておいて、ゴッドガンダムを後方に一旦引かせた。
「どうしたの、昇太郎っ。あと1機しか残っていないみたいだけど?」
 そういう師匠の手にあるのも、マスターガンダムのみ。くしくもゴッドガンダムとマスターガンダムの対決は、俺たちの師弟対決をそのまま象徴しているみたいだった。
 なら、むしろここからが本番といえるじゃないか。燃えてきた。なんだか燃えてきやがったぜ!!! 
「うおおおおおおっっっっ!!!! 師匠おおおおおおおおおッッッッッ!!!!!」
 俺は吠える。
「かかってきなさいっ、昇太郎ーーーーーーーッッッッ!!」
 師匠もそれに応える。
 俺は両手で持ったゴッドガンダムにパンチの構えをとらせて、マスターガンダムに突っ込む。
「甘いっ! 甘いわよ、昇太郎! そんなパンチが当たると思うのっ!」
 マスターガンダムが俺の攻撃を避けて、ゴッドガンダムにカウンター攻撃を仕掛けようとする。その時、俺は気付いた。
 いつの間にかマスターガンダムの右手が、3倍くらいの大きさになって赤く光っていた。
「なっ……これはっ!?」
 たしかDVDで観たような気がする。あまり詳しく知らないけど……これを喰らったらまずいぞっ!
「東方不敗流奥義……石破天鷲拳ッッッッッ!!!!!」
「う……うわああああっっっっっ!!!」
 俺はギリギリのところで必殺技の直撃をかわした。だがその衝撃はあまりに大きく、ゴッドガンダムの左半身に多大なダメージを負ってしまった。
 ほんとすごいや……師匠。ガンプラそれぞれの持ち味を活かして戦っている。俺もこのゴッドガンダムを師匠のようにもっと使いこなしたい……。
 ……ごめんな、みんな。俺がニワカなばっかりに……。
「馬鹿弟子。これでもう終わりね。とどめをさしてあげるわ。この、ダークネスフィンガーで」
 師匠はマスターガンダムに新たなポージングをつけさせた。やたらと時間をかけている。余裕の表れか、それとも……ああ、そっか……きっと師匠はあれがやりたいんだ。師匠と弟子のゴールドフィンガー対決みたいなやつ。でもニワカの俺にはよく分からないし、そんなことする資格ないし、多分台詞も間違えるし……それに、俺はまだ勝負を諦めていない。
 俺にはまだ――最後の手段が残されている。
「昇太郎ーーーーーっっ! いくぞ、これが東方不敗流……」
「し、師匠おおおおおおおおおおおーーーーっっ!」
 俺は師匠に向かって飛び込んだ。
「……へえっ?」
 正確には、俺のゴッドガンダムが、師匠のマスターガンダムに向かって飛び込んだ。
 思わず呆気にとられる師匠を無視して、俺はつっこむ。そして、ゴッドガンダムの残された力を振り絞って、マスターガンダムに後ろから抱きついた。
 だがしかし、些細なハプニングが発生した。マスターガンダムに抱きついた時の衝撃で俺は師匠の体にぶつかってしまって、2人とも床に倒れてしまった。
 ちょうどゴッドガンダムとマスターガンダムのように、俺と師匠が抱き合うような態勢になった。
「なっ……しょ、昇太郎……いきなり何を……っ。あわわわわ……」
 師匠は顔を赤くしてうろたえていた。すいません、師匠。でも勝負は非情なんです。これって戦争なんです。悲しいけれど。
「な……なにをするつもりなの、昇太郎……え、ええっっ。ええええっっっ!?」
 俺の下敷きになった師匠はひたすら困惑していた。
 ふふ……そうだ。俺の思惑は分からないだろう。ちなみに関係ないことだけど、師匠って……胸、大きいんだな。
「さぁ師匠……もう終わらせよう。一緒に、いこう……」
 命と引き替えにマスターガンダムを倒す。そのために俺は死んでもマスターガンダムをはなさない。
「え、ええっ!? な、なにを言っているのっ、昇太郎っ。イクってどこに……そ、そんな……わ、私はまだ、心の準備が……っ」
 師匠は急にしおらしい声になって、なんかちょっとドキドキしそうになったけど……まさかこれも、こちらの動揺を誘おうとする師匠の作戦なのか。
「しょ、昇太郎……そ、そんなに体をくっつけないで、わ、私……私……」
 戦意を喪失したのか? 師匠が目を閉じてぐったりと脱力した。そして体がびくんびくんと痙攣してる。呼吸も荒い……これは……これは……勝機だっ!
「し、師匠……いきますよ。俺のすべてをぶつけます……」
「……や、やさしくして……お願い。はじめてだから……」
 師匠の甘い吐息が俺の耳元にかかる。何が初めてなの? 俺はうっかり意識が飛びそうになったが……これが、俺のラストショット!
「――今だアムロ! 撃てええええええええ!!!!!」
「……えっ?」
 顔を赤くして瞳を閉じていた師匠が、驚いて後ろを振り返った。
 そこにあるのは、頭のとれたHGガンダムで。ちょうどゴッドガンダムとマスターガンダムを狙うようにビームライフルを構えていた。
「なっ……まさかっ……は、はかったわね昇太郎っ……」
 師匠はようやく俺の思惑に気づいたが……時すでに遅し。
「ズギュューーーーーッッッッッッ!!!!!」
 俺は銃声音を口から発した。そして、ゴッドガンダムごとマスターガンダムが地面に倒れた。
 俺は、この一年戦争に勝利した。


「……師匠」
「うん」
「ガンプラって、おもしろいな」
「……うん」
 師匠の顔は、ずっと赤いままだった。
 まるで窓の外に広がる空の色のようだと、俺は思った。


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