ガンプラマスター昇太郎

第1話 昇太郎、ガンプラを作る

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5

 
「昇太郎、ちょっと私についてきて」
 翌日の昼休み、黒路地師匠が珍しく俺の教室に現れた。
 クラスメイト達はチラリチラリと俺達の方を気にしてたみたいだけど、すぐにそれぞれの感心事へと戻っていった。けれど、柴島さんだけはリスのようなつぶらな瞳を興味深げに向けていた。
「で、なんの用? 黒路地……さん」
 さすがにここで師匠なんて呼ぶのは恥ずかしい。
 黒路地師匠もそのあたりは俺と同じ気持ちなのか、
「いいからきて」
 特になにも言及せず、さっさと教室をあとにした。そして廊下を歩きながら、背後でその後を追う俺に言った。
「これから一緒に職員室まで行ってもらうわ」
「しょ、職員室? なぜ? もしかして怒られるの? 昨日、勝手に旧校舎の教室使ってたのがばれたの?」
「違うわよ。私たちはこれから申請しにいくのよ」
 ずんずん歩く師匠の後ろ姿に、なんだか嫌ぁな予感がする。
「し……申請って、なんの?」
「ガンプラ部(仮)」
「が、ガンプラ部ううううう〜〜〜〜〜っ? しかも、かっこかりってっ!」
「まだ正式な部活動名が決まっていないから(仮)なのよ。部活にしたほうがガンプラ作りがやりやすいって昨日言ってたでしょ? だから実行に移すのよ」
「な、なるほど……にしても行動がはえーよ」
「こういうのは思い立ったが吉日なの。ほら、着いたわよ。しっかりしなさいよね副部長」
「わっ……俺、副部長になっちゃってるよ!」
 俺のぼやきを無視して職員室の前に立った師匠は、勢いよく扉を開いた。


「――却下」
 師匠のクラスの担任であろう若い男性教師は、師匠の話を聞くなり開口一番そう言った。
「な、なにがいけないというのですかっ!? 先生っ!」
 師匠はまるでわけが分からないと狼狽している。いや、そりゃ駄目だろうに。
 男性教師はやれやれとかぶりを振って答えた。
「黒路地……お前、成績はいいのに……ほんと残念な奴だ。いいか。まず第一にガンプラ部ってなんだ。つまりおもちゃだろう? おもちゃで遊ぶ部活ってどうなんだ?」
「いえ、先生。ガンプラ部ではなくてガンプラ部(仮)です」
 師匠がわざわざ訂正した。
「そんなのどっちでもいいんだ。で、次の理由。部員が2人だけってのも部活にするにはちょっと認められないな。部活創るには最低4人は必要なんだよ」
「私達2人、それぞれが3人分の力を持っているのです。通常の3倍なんですよ。だから6人いるのと同じですよ」
「いや、そんな屁理屈通るか。ガンプラ部だからって無理にそんなネタ仕込まなくていいんだって」
「いえ先生。だからガンプラ部でなく、ガンプラ部(仮)です」
「だからどっちでもいいんだってば。はぁ……黒路地。お前はもしかして手に負えない問題児かもしれないと薄々は気づいていたけれど、まさかここまでだったとは」
 男性教師は呆れて肩を落とした。てか先生もそれなりにガンダム詳しいんだな。
「お褒めに預かり光栄です」
「うん。誉めてないからな、黒路地。せめて部活にしたいんだったら、何か具体的な目的とか成果とかを示して欲しいんだ。他の部活動がやっているように行動で示すんだ。学生らしい健全な成果を出すんだ。そうすればおまえらの部活も認めてやらないこともない」
 と、男性教師は渋々といった様子で答えた。これでも妥協してくれた方なんだろうということはすぐ分かった。
「なに言ってるの先生! 時は一刻も争うんですよ! 私は――」
「そっ、そうですかっ。成果をあげればいいんですねっ。分っかりました、ありがとうございますーっ」
 尚も文句を言おうとする師匠の口を手で塞いで、俺は男性教師に礼をしてから師匠を引きずって職員室を後にした。
 去り際に見た男性教師は苦笑いを浮かべていた。


「はぁ……だれかさんのおかげで恥かいちゃったよ」
 職員室から出ると、俺は先輩を非難めいた瞳で睨めつけた。
 一方、黒路地師匠は俺の視線もどこ吹く風の様子で1人でぶつぶつ何事が言ってる。
「なによなによ……成果を見せろって、私にどうしろっていうのよ……」
 師匠は爪を噛みながら、えらくヒステリックだった。
 う〜ん。成果、ねえ……確かにガンプラ作る部に成果なんて期待されてもいったい……って。いや。
 ――あったよ、そういえば。
「ねえ師匠……ガンプラ大会って、知ってる?」
 俺は昨日出会った白城静夜の言葉を思い出していた。
 ガンプラ大会で勝負するという言葉を。
 そう、成果を残すことのできる大会。
「あっ。そうか。ガンプラ大会。あれなら……」
 やはり師匠もその大会のことを知っていたのか。一瞬、師匠の顔が明るくなった。だ、が――しかし、その明るい表情は本当に一瞬のものだった。
「い、いやっ……でも私、その大会には……興味ないわ」
 すぐに暗い顔になって、俯き加減になった。むしろさっきよりも暗い顔だった。もしかしてガンプラ大会という言葉でそうなったのか? それはまるで、そのガンプラ大会自体に後ろめたいことがあるような表情だ。
 白城静夜とガンプラ大会。……師匠とどう関係しているのだろう。
 分からないまま俺たちはそれぞれの教室に戻っていって、午後の授業を受けた。


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