ガンプラマスター昇太郎

最終話 昇太郎の一時間戦争

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 
 日曜日の午後。グラウンドでは運動部の連中がそれぞれの目標に向かって切磋琢磨に練習を行っている。
 そこから切り離されたように、ぽつんと建ちそびえる旧校舎。
 その3階のとある空き教室で、今まさに師匠と俺の戦いが行われようとしていた。
「ふふっ。戦いですってぇ? なにを言っているのかしら、坂場くん。あなたはもうガンプラ作りをやめたんじゃないの? 今更なにをしにきたのかしら?」
 泣きそうな顔から一転して、師匠は不敵に微笑を浮かべていた。
「ガンプラ作り――ですか。いや、その件については後でしっくり話せばいいとして……今回の勝負はガンプラを作ることじゃない。文字通り、ガンプラを使っての戦いだ」
 俺はHGガンダムとHGジムを手にとり前に掲げた。
「しょ……昇太……いや、坂場くんっ。あなた、まさか……っ」
 師匠は驚きを隠せず、声が震えていた。
「はは、その様子だとやっぱり興味アリアリな様子だな、師匠。そうだよ……俺のいう勝負の内容とは、MSの操縦士になりきりガンプラを動かして敵のMSと戦うんだ。もちろん相手のMSを倒した方が勝ちだ」
「あなたの口から伝説のガンプラバトルがでてくるなんて……どうしてそのことを……」
「思い出したんだよ。俺が変わるきっかけになった日のことを。そう……君だったんだよ、師匠っ」
 俺に影響を与えたのは、本当は柴島さんじゃなかった。俺を変えたのは黒路地師匠だったんだ。黒路地師匠がガンプラで遊ぶ姿に、俺は心打たれたのだ。
「なにを言ってるの?」
 当然、師匠はそんなこと知る由もない。
「……独り言さ。俺が五十嵐のところでバイトしてた時に彼が言ってたんだ。昔、黒路地師匠とよくガンプラで遊んでたってね」
「そうなの……ちっ。あの白ブタ、余計なこと口走って……今にみてなさいっ」
「ひどいな! お得意さまじゃないのかよ!」
「お得意さまだからよ。仕方なく付き合ってたの。ま……もう今はそんなことする必要もなくなったけどね」
 窓の方に視線を向けた黒路地師匠の横顔は、ほんの少し寂しそうに見えた。そう、彼女は寂しいのだ。だから俺がここにいるんだ。
「親の会社のために仕方なくやってたのよ……いろいろと。あの時は、それがみんなにとって嬉しいことだと思ってた……」
「白城のことか?」
「うん。でもお父さんも死んじゃって……私は仕方なくやってきたこと全部、なくしてた」
「…………」
 窓の向こうの、空の遠くを、じっと見つめていた師匠は不意に俺の方へ振り返った。
「ま、私としてはせいせいしたけどね。余計な面倒がなくなったおかげで私は自分のことに没頭できるから」
「でも……ほんとは、寂しかったんだろ。師匠は誰かと一緒にガンプラの楽しさを共有したかったんだろ」
「なんなの、その知った風な口振りは……不愉快ね、とても」
 師匠は鋭い視線を俺に送る。
「だ……だってそうだろ? じゃなきゃ俺にガンプラなんて教えないだろ?」
「だから……そ、それは会社のためよっ。嫌々やってたのっ。友達なんていらないしっ」
 興の師匠はやたらと分かりやすい反応をする。ちょっと……かわいいかも。
「また意地張っちゃって……実験なんてもうやってないんだろ?」
「うるさい。あなたは実験体Aよ。モルモットよっ」
「いや、別にそれでもいいんだけどさ……」
 よくはないか。俺は咳払いをして、「師匠は――」と、言葉を続けた。
「師匠は純粋に、ただガンプラが好きだから。誰かと一緒にガンプラで遊びたかった。それだけだろ。初めて会った時もそんなこと言ってたじゃないか」
「……だとしたら、なんなのよ」
 だとしたら――やることは決まっている。
「だとしたらもう能書きはいいだろう。ここからは戦いで語り合おう! さぁバトルを始めようぜ、師匠!」
「わ、私はやるなんて別に……言ってないし……」
「え? やらないの?」
「…………むぅ」
 師匠の体がうずうずしている。やりたがってるのは明白だ。
「……じゃあこうしようよ、師匠。俺がガンプラバトルで師匠に勝ったらまた俺にガンプラ作りを教えてくれよ」
 俺は面倒臭い師匠のためにとってつけた条件を提示した。
「じゃあ私が勝ったら……?」
「そのときは師匠の好きにしたらいいよ、どうせ俺が勝つんだから」
「なによそれ、その自信はどっからくるのよ……それに、それじゃあどっちみちガンプラバトルする羽目になってるじゃない。なんだかあなた、今日はずいぶん強引ね……似合わないわよ。きもっ」
 素直にガンプラバトルすればいいのに強情な人だ。
「……いやまぁ、師匠がやらないならそれでもいいけど。俺一人でやるからね」
 俺はガンダムとジムを左右それぞれの手に持って戦わせようとした。すると。
「ちょっ、ちょっと待ちなさいよっ」
「なんだ、師匠? 俺はガンプラ遊びしたいんだけど」
「こ……こんなところで、そんなもの振り回して遊ばれたらいい迷惑なのよっ」
「あ、じゃあ俺、他の教室で――」
「……まったく。仕方ないわね、昇太郎。いいわ。一人でそんな事されてちゃ見てるこっちが悲しくなってくるわ。仕方な〜く、私も付き合ってあげるわ。だって私は――あなたの師匠なんですものね」
「……師匠」
 俺が喜びに表情をほころばせると、師匠は照れ隠しか、さっさと自分の鞄の中を漁ると――そこから、ガンプラを取り出した。
「やるからには手加減はしないわよ、昇太郎」
 恥ずかしそうに師匠は言った。
 俺はにやりと笑った。
「ああ……いくぜ師匠。ガンダムファイト……」
「「――レディィィィィ!」」
 そして、師匠と俺のガンプラバトルが始まった。


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