ガンプラマスター昇太郎

第2話 昇太郎、技術を学ぶ

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

4

 
「すいません、師匠……俺のHGガンダムがこんなことになっちゃいました」
 放課後の旧校舎。すっかりガンプラ部(仮)の部室と化した空き教室。俺と師匠が当分の間、ガンプラ作りの拠点にすることにした教室で、俺は昨夜やすりでピカピカにしようと思ったガンダムのなれの果てを机の上に置いた。
「ああ……可哀想なRX78-2ちゃん。こんなに傷つけられちゃって、なんて酷い男なの……昇太郎っ。この鬼畜っ。悪魔っ! ……悪魔と言っても連邦の白い方じゃないわよ」
 相変わらずガンプラに対する愛が無限大な黒路地師匠は、まるで衝動物を愛玩するような手つきで初代ガンダムを両手で優しく持った。
「し、仕方ないだろ初めてなんだから……悪気はなかったんだ」
「ちっ……この馬鹿弟子め。いったい何のやすりを使ったの? 見せてみなさい」
 全身ひっかき傷がついた痛々しいHGガンダムを、哀れむような目で見つめていた師匠は、殺気のこもった目で俺を睨んだ。
 これですっ、と俺は心臓が縮みあがりながら紙やすりを師匠に渡す。
「って、これじゃあそうなるに決まってるわよ。ほら……よく見てみなさいよ、ふしあなさん。ここに400番って書いてあるわよね? あんだーすたん?」
「ああ。その数字は俺も気になってたんだ。製造番号的な? あるいは整理番号?」
「なんで整理券っ? 違うわよ、バカバカッ。数字の大きさで荒さが決まるの。数字が小さいほど荒いの。そして大きくなる毎に細かくなっていくの。荒いのだけ使ってもガンプラを傷つけるだけ。かといって細かいのだけ使ってもパーツの傷などは消すこともできないの。やすりはね、荒いのから細かいのまで全部使っていかなくてはいけないのよっ」
 まるで歌うようにスムーズな口調で説明する師匠。
「え、ぜ……全部って、もしかして400とか600とか1000とか、それらを順にやすりにかけてくっていうのか?」
 だとしたらなんて手間な作業なんだ……俺は愕然とした気持ちで師匠に尋ねた。
 師匠はあっさりと首を縦に振る。
「ええ。やすりは根気の作業なの。綺麗にしようと思ったらね、400から始めて2000番くらいまで使わないとね」
「にっ……2000までっ! 何回やすりがけしなきゃいけないんだよ……」
「う〜ん。5回くらいかしら?」
「んなあっ!? 5回っ!? 同じことを五回もおおおおっ!?」
 昨夜400番だけでも結構な時間がかかって、飽きそうになっていたのに、それを5回ってどんな苦行だ。俺は修行僧かよっ!
「やすりがけ程度でこんなに怯んでいるなんて、ガンプラマスターになる気あるのかしら……やはり基礎からみっちりとやっていくしかないようね。腕が……鳴るわっ!」
 師匠は澄ました涼しい顔のままカメラ目線で言った。……カメラどこだよっ!
「でも大会まであと1ヶ月ちょっとしかないんだぞ」
「それでも基礎を固めないことには、小手先の技術だけではガンプラ道はどうにもできないの……そういうことで昇太郎、まずはこれをやりなさい」
 そう言って師匠は、どうやってここまで持ってきたのか、床に置いてあった大きな段ボール箱を「う〜ん……しょっ」っと、机の上に載せた。
「師匠、これは何……って、ガンプラのパーツ?」
 ザクのものと思われる足や、ガンダムのものと思われる腕、さらには見たことのないMSの顔やら胴体やらがバラバラに段ボールの中にぎっしり詰まっていた。壮観でありシュールでもある光景。これからこれをどうするつもりだ?
「あなたにこれからやってもらうのは、ゲート処理とやすりがけよっ」
「ゲート処理とやすりがけって……まさか」
「そうよ。この段ボールにあるパーツ全てをピカピカの状態にすること。それがガンプラマスターに向けての……最初の特訓よ」
 師匠はババーンと口で効果音を立てて段ボールの中身を強調させた。
「そんな……こんなにいっぱい」
 てっきり俺は、一昨日のようにまた違うガンプラを組み立てるものだとばかり思ってた。なのにこの量のパーツを全部きれいにしろだなんて……。部位ごとに組み立てられてるとは言っても、ゲートなんかごっそり残ってる。やすりはもちろん、デザインナイフも必須だろう。
「何日かかってもいいわ。これを全て仕上げるのよ。そうすればあなたは次のステップに進むことができる! 乗り越えねば先へは進めない!」
 さぁどうする昇太郎――と、師匠は不敵な笑顔で俺に判断をゆだねた。
 んなもん聞いてどうするよ。聞くまでもねえ――。
「俺を誰だと思ってやがる……やるに決まってるだろっっ!」
 俺は半分やけくそ気味で答えた。


inserted by FC2 system