アウトキャスツ・バグレポート
第3章 伽藍方式
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満身創痍の折花と市川を発見した守代は、すぐにカエル荘に2人を連れていった。
幸いどちらも息はしているけれど、どちらも虫の息状態だった。
守代は部屋に籠もっていた巡了を呼び出して、2人がかりで市川と折花をベッドに運んだ。
部屋から出てきた巡了は、はじめ乗り気ではなかったけれど、市川と折花の状態を見るなりすぐさま救出にあたった。
「それで……本当に救急車は呼ばなくていいんだな?」
ようやく2人をベッドに寝かすことができた守代は、静かに横たわる折花を横目に、巡了に尋ねた。
「ああ。それはきっと彼らにとっても不都合なはずだ。あとのことは伽藍方式に任せた方がいいだろう。なに……心配はいらない。治療なら私がした……といっても応急処置程度だけどな」
「そ、それならいいんだけど……」
「ああ、だからもう私たちには関係ない。放っておけばいいさ」
自暴自棄気味に背中を向けた巡了に、守代はやるせない気持ちになった。
突然、意識を取り戻した折花が口を開いた。
「そんな悠長なことを……言ってる、時間は……ない」
「き……気がついたんですかっ、折花さんっ」
いつから意識を取り戻して守代達の話を聞いていたのだろうか。守代は立ち去ろうとする折花の手をとった。そしてうわごとのように言葉を紡ぐ。
「は、ハガクレ・チェバスサン……あ、アイツは今にも、あなた達を……殺しにくる」
「……なに?」
反応を示したのは、巡了だった。
折花は続ける。
「アイツはとんでもない化け物……アイツは能力は分からなかったけど……無敵だ。す……全てにおいて、最善の手を選択している……。まるでこっちの動きを予知しているようだった。か、かすり傷すら与えられなかった……あ、アナタ達には絶対に勝てない……」
折花がたどたどしく語る、ハガクレ・チェバスサンの恐ろしさ。全てにおいて最善の手を選択しているとは、どういう意味なのか。ヤツはどんな能力を有しているのか。
「あ、アタシ達は……い、命からがら逃げてきた……市川先輩がかばってくれたから、アタシのケガは先輩ほどじゃないけれど……でももう戦うことは……ごふっ!」
折花の口から大量の血が吹き出た。
「折花さんっ! しっかりして!」
守代が折花の手を握りしめたが――澤木折花は再び意識を失った。
「そんな……なんてことだ……そんなにも強いやつが僕達を狙っているなんて」
眠っている折花の傍に寄り添う守代は、うなだれた。
「…………」
だが、自分には関係ないといった風に窓の外を眺めていた巡了は。
「……もう用はないだろう? 私は出ていっていいよな?」
そう冷たく言い放って、部屋を後にしようとした。
「ちょっと待って……僕の部屋まで来てくれよ。話がしたいんだ」
守代が巡了を呼び止めた。
「なんだ。また私にお説教でもするつもりか?」
振り返った巡了は、不機嫌な顔で守代を睨む。
「ううん。違う……僕が君にとやかく言う権利なんてないよ。……実は、さっきまで僕も泣いてたんだ。君と同じように、この世界なんてどうなってもいいって思ってたんだ」
守代は情けない笑顔で巡了を見た。
巡了は黙って、守代の顔を見ていたが。
「……話ならリビングでいいだろ。どうせ鳳明里もいないんだから誰にも聞かれる心配もない」
巡了は無表情でそう言うと、そのまま階段を降りていった。
守代は部屋を出る前に折花の寝顔をみて、静かにドアを閉めた。
守代は誓った。もうウジウジ悩む時間は終わりだ。今からは前に進むと。だから見守っていてほしいと――。
守代はリンネに誓った。