アウトキャスツ・バグレポート

    1. 第1章 カエル荘の住人達

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     カエル荘の玄関前まで来た守代は、深呼吸して心を落ち着かせた。
     まず最初が肝心。ちゃんと上手く話せるだろうか。恐る恐る呼び鈴へと指を伸ばしていく。
    「…………ごくり」
     緊張でちょっとお腹が痛くなるのを感じたが、こんな事でくじけていられない。躊躇わずに指を伸ばす。
     そして小刻みに震える守代の指が呼び鈴ボタンを押す寸前まできた時――守代の目の前で玄関のドアが豪快に開かれた。
    「――はえ?」
     とっさの事に対処できなかった守代は、扉に張り倒されてしまった。
    「う、ぎゃっおう――!?」
     変な叫び声をあげて地面に転がった守代。
    「おやおや〜。どうしたんだい? 君は誰だい……って、もしかして……君が守代刻羽くんかい?」
     と、暢気な声を上げながら扉から姿を現したのは、見知らぬ銀髪の美少女だった。
    「う、うぅん……そ、そうだけど……」
     目が星になってる守代は、地面に倒れたまま肯定した。
    「そっか、やっぱり君が守代刻羽クンか。うん。なかなか可愛いじゃないか。ところで、そんなところでなに寝転んでいるんだい?」
     美少女は首を傾げて不思議そうな瞳を守代に向けた。その瞳は赤かった。
    「い、いやっ……あんたが扉を――って……あっ」
     守代が文句を言おうと少女の顔を改めてじっくり見たとき――守代は言葉を失ってしまった。彼の怒りは一瞬で霧散していた。
     なぜなら現れた少女はあまりに美しかったから。不覚にもみとれてしまった。
    「ん? なんだい? もしかして……緊張しているのかい? あははっ、初々しいねえ。と……そうだ、自己紹介がまだだったね。ワタシの名前は天之廻(あまのね)リンネ。このカエル荘の住人で、ただ1人の3年生だ。よろしくなっ」
     天之廻リンネと名乗った少女は、まるで天使のような屈託ない笑顔を浮かべた。
     守代はよろよろと立ち上がって、リンネをまじまじと凝視する。
     リンネの美しさは現実離れしていた。流れるような銀髪のロングヘアーはもちろんだが、顔の彫りも深くて、目もパッチリしていて、まつげも長く、月並みだが彼女の顔は西洋人形のようだった。そして体。細身の体だけど胸は大きく、一流モデルのようなプロポーション。そしてカラーコンタクトでもしているのか、瞳の色は血を吸ったように赤くて、見ていると吸い込まれそうになる。
    「…………」
    「……ほらほら。いつまでもそこに突っ立ってちゃそのうち日が暮れるぞ。もう1人の新入生はとっくに来てるのだぞ? 今夜は君達の歓迎会があるのだから……さささ、はやく中に入ろうじゃないか」
     守代がトリップしていると、リンネがその手首を掴んで寮の中へ引っ張った。
    「えぇ? あ、は……はい」
     手を握られた守代はどきりとし、話半分で返事した。リンネの手は白く細く柔らかかった。
     寮の中は結構広くて綺麗だった。玄関からは廊下がまっすぐ延びていて、部屋が途中にいくつかあった。玄関入ってすぐのところには2階へと続く廊下もあった。感想としては広い普通の一軒家といった感じ。ちなみに男子と女子はどう別れているんだろうか、と守代はちょっと疑問に思った。
    「……って、歓迎会?」
     玄関で靴を脱いで廊下に足を踏み入れた守代は、ようやくリンネの言葉に疑問を抱いた。
     守代の疑問にリンネは、口元に一本指を立てにししと笑って言った。
    「そうだぞ〜。実はサプライズが用意してあるのだ。君達をびっくりさせようと……」
    「――って、姉さん。それを言っちゃ全然サプライズにならないでしょ」
     と、リンネの声に被せるように別の少女の声が聞こえた。
    「しっかりしてよね。姉さんが言い出したことなのに、相変わらず抜けてるんだからっ」
     守代が声のする方に顔を向けると、そこにはまたも美少女がいた。
     階段を降りてこちらに近づくその少女は、リンネ程ではないにせよかなり綺麗だった。リンネは現実離れした美しさだが、こちらの少女は現実の範囲内に即したとびきり可愛い女の子といった感じ。髪も黒く身長も程々に低い。胸もそんなに大きくない。というか小さい。
    「あ……ああ〜っ、そうだったっ。うっかりしていたよ。あはははっ。そういうわけだ、いま言ったことは忘れてくれっ」
     リンネがポリポリと頭をかいて無邪気に言った。
    「もうっ……お姉ちゃんったらホントおっちょこちょいなんだから。でも……そこが大好きなんだけど……うふっ」
     リンネを見つめる黒髪の美少女は幸せそうな顔で微笑んだ。一瞬なんかちょっと禁断の世界を垣間見たような気がした守代。でも気のせいだと思っておくことにした。
    「えと……君は?」
     このまま2人のやりとりを見ているのもいいと思ったが、このままだと居心地が悪くなっていくだけのような気がして、守代は思い切って尋ねてみた。
    「ああん? まだいたのか? さっさと自分の部屋にでも籠もっていればいいのに」
     一瞬にして怖い顔になった黒髪の美少女は守代を睨んだ。
    「ひ、ひぃっ……性格が豹変っ!?」
     少女の急激な態度の変化に守代は心臓が止まりそうになるが、ここで舐められたら辛い3年間を送ることになる――と、即座に判断して強気に口を開く。
    「な、なんだよその言い方は……それが初対面の人間に対する態度なのか……」
    「ふん。それはこっちの台詞だ。お前こそ口の利き方がなっていないだろ。私はお前の先輩なんだぞ?」
     と、守代の文句に少女が鋭い目つきで反撃した。
    「え、そ、それは……」
     黒髪少女の気迫に、守代はつい言葉を失ってしまう。すると、ニコニコと2人のやり取りを見ていたリンネが口を挟んだ。
    「……と言っても、メグちゃんも今年から高校生で、実は刻羽クンと同い年なんだけどねー」
    「じゃあ先輩じゃねーじゃん!」
     守代は高らかにツッコミを入れた。そして何気にリンネから下の名前で呼んでもらえた事にドキドキしていた。
    「う、うるさいっ! 先輩は先輩だっ。たとえ歳はあんたと同じでも、私は前から姉さんと一緒にこのカエル荘に住んでたんだっ。だから新入りのあんたは私の後輩なんだっ。後輩は先輩に敬意を払うべきなんだぞっ」
    「……なんか屁理屈のようにも聞こえるんだけど」
     やたらと我が侭で面倒臭そうだ。守代が対処に困っていると、リンネが。
    「まぁまぁ。メグちゃんも高校生になるんだし、ワタシ以外の人達とももっと仲良くしていこうじゃないか。いつまでたっても姉離れしてくれないから、姉さんちょっと心配だぞ」
     心配してるようには思えない健やかな笑顔で言った。まるでヒマワリのような燦々とした顔だと、守代はポケーっと見ていた。
    「え……うん。分かった……私、姉さんに迷惑はかけたくないから、私みんなと仲良くする……。で、でも本当は……私、ずっとお姉ちゃんと一緒に……いたい」
     黒髪少女は、守代の時とは明らかに違う態度で、いじらしくリンネの服の裾を掴んだ。
    「はははは。メグちゃんはまだまだ子供なんだから。まぁいいさ。それじゃあ刻羽クンにも紹介しよう。このお姉ちゃん大好きっ子がワタシの妹――天之廻巡了(あまのねめぐり)だ。仲良くしてやってくれ」
    「ああ、はい……よろしくね」
     どちらも綺麗なのは綺麗だけど……姉妹にしてはあまり似てないよなぁ、と思いながら守代はぎこちない笑顔でお辞儀した。
    「ふん……」
     巡了は不服そうに小さく頭を下げると、そのまま廊下の奥へと駆けていった。
    「う〜ん。あの子はなかなか人見知りなんだよ。困ったもんだい」
     リンネは呆れるように肩をすくませた。
    「そうみたいですね……はは」
     人見知りどころか、むしろ嫌われているような気がする守代だった。
    「ま、悪い人間じゃないからそう悲観することはないって。きっと仲良くなれるよ。おっとっと……そうそう。守代クンの部屋はこの階段を上がった奥の部屋だ。しばらくゆっくりしていてくれ。では、ワタシはこれから仕事があるから」
    「仕事?」
    「ああ……ワタシは学生であると同時に、掛け持ちの仕事をやってるんだよ。プログラマー……ってやつだよ」
    「高校生なのにプログラマー……すごいですね」
    「はっはっは、忙しくて毎日てんてこまいさ」
     リンネが豪快に笑うと、
    「姉さんっ。今は仕事じゃなくて歓迎会の準備でしょっ。市川も全然手伝わないから、大変なんだよっ」
     どっか行ったはずの巡了が廊下から顔を覗かせていた。
    「ああ、そっかそっか。いま行くってば……それじゃ、またな」
     リンネは軽く手を振ると、巡了の方へと歩き出した。
     その直後、心地よい香りが辺りに漂うのを守代は感じた。
    (というか……賑やかな人だなぁ)
     守代はリンネの後ろ姿の銀髪が見えなくなると、恐る恐るといった足取りで階段をあがっていった。
     そして階段をあがりきった先に彼が見たものは――。
    「あ、あのぅ……は、はじめまして」
     緊張した面持ちで立つ女の子。
    「え? えと、はじめまして……」
     いきなり挨拶された守代は、とりあえず挨拶を返した。
    「あっ、そ、そのっ。わたし、名前は鳳明里と言いましてっ、4月から高校生になりますっ。えーと……ふっ、ふつつか者ですがどうぞよろしくお願いしますっ、先輩っ」
     ショートカットに眼鏡をかけたいかにも地味そうな女の子は、守代に向かって深くお辞儀した。
    「あ、いや。僕も君と同じで今日ここに来たばかりなんだ。同じ一年なんだから普通に話して大丈夫だよ」
     眼鏡の少女の低姿勢におっかなびっくりの守代は苦笑いを浮かべて言った。
    「あっ……そうなんですか……。あ。じゃあ、あなたがもう1人の入居者なんですねっ」
     明里は守代に対して敬語のままだったけど、さっきよりは緊張がほぐれた表情になっていた。
     それにしても――天之廻姉妹を見てすぐだから余計に感じてしまうかもしれないが、鳳明里はなんというか、いかにもどこにでもいそうな少女という感じだ。まぁ、比較するのは申し訳ないと思うのだが。
    「ああ、うん。僕の名前は――」
    「――守代刻羽くん、だ〜よねっ?」
     と、守代の台詞を奪って声が聞こえた。
     守代と明里は驚いて声のした方に振り返った。
    「こんにちわっ、刻羽くん。アタシの名前は澤木折花(さわきおりか)だよっ」
     そこにはダンボール箱を抱えた少女がいた。
    「えーと、こんにちわ……守代刻羽です」
    「アタシは2年生だから、つまりあなたの先輩ってことなんだよっ。アタシの事を敬いなさいよねっ。冗談だけどねっ」
     ハイテンション気味な少女は早口に述べた。ツインテールで肌が焼けた、いかにもクラスの中心にいるんだろうなって感じの明るく元気そうな少女だった。
    (てか、またしても女の子……)
     この寮、どんだけ女子比率高いんだよと守代は思った。
    「部屋の中の荷物はあらかた整理しといたよっ。ちゅ〜か、どんだけあるんだよぉ〜明里ちゃ〜んっ」
     澤木折花と名乗ったその少女は、わざとらしく辛そうな顔を鳳明里の方に向けて愚痴をこぼした。
    「ご、ごめんなさいぃ〜……なっ、なるべく荷物減らそうと思ってたんですけどっ、あれもこれもとしているうちになんだか増えちゃって……ご、ご迷惑をおかけしちゃって……」
     明里は泣きそうな顔になって折花に何度も頭を下げていた。
     状況から察するに、どうやら引っ越しの手伝いをしてもらっているらしい。
    「あ……、いや。そんなに謝らなくても……じょ、冗談だってば明里ちゃん。アタシもどうせ暇だし……ねっ?」
     明里の謙虚な姿勢に、折花がちょっと引いていた。
     そして守代は……またしても放置されてるような気分だった。
    「あ、あのう……」
     置いてけぼり状態になっている守代はおずおずと口を開く。
    「えぇ、なぁに?」
     折花がたれ目気味の瞳を守代に向けた。
    「あ、えと……さ、澤木先輩は鳳さんの引っ越しのお手伝いをしているんですか」
    「うん。そうだよ〜。荷物が多いからねっ。女の子1人じゃ大変だろうしねぇ〜」
     その明るさはどこからくるんだろうという口調だった。
    「お……お手数をおかけして申し訳ないですぅ……」
     対して明里のこの気弱さ。よほど気の弱い性格をしているのか、体を小さくして俯いていた。
    「いやいや〜。これから同じ屋根の下で過ごす仲じゃないか。遠慮するこたぁないよっ。刻羽くんも手伝うって言ってるからよっ」
    「ええっ? ぼ、僕も手伝うんですかっ?」
     突然こっちにふられても困る守代。そしてリンネに続いてまたしても下の名前で呼ばれた。
    「当ったり前だよ〜。女の子だけに重い荷物運ばせるのは男として情けないんだよぉ?」
    「で、でも僕も荷物たくさんあるんだけどなぁ……」
    「それは明里ちゃんのが終わってからやったらいいんだよ……1人で」
    「ひっ、1人でっ!? 僕には誰も手伝ってくれないんだ!?」
     同じ新入生なのに、扱いに格差があるのを感じられずにはいられない守代だった。
    「す、すいません。守代さん……。そ、そういうことなので、よろしくお願いします……」
    「鳳さんもそこは否定しないんだっ!?」
     こう見えて明里も意外とノリがよさそうな性格をしているようで、守代はこの先が思いやられた。果たして自分はこの人達から拒絶されずに馴染めるのか。なんてことを考えていたら。
    「さっきからうるさいなぁ〜……とボクは気になってたんだよ。そうしたら……なぁんだ。簡単なことだったよ。ようやくもう1人の新入りも来てたっていうわけなんだね。うん、ボクの読みは当たっていたわけだ」
     階段の方から、まるで独り言を言っているような声が聞こえた。それは男にしては高い声だけど、しかし女性の声というよりも、少年の声といった感じで。
    「やぁやぁ、会いたかったよ会いたかったよ守代くん。やっとボクの他に男の子が来てくれたよ。……うん。ボクはこの1年、天之廻姉妹とそこの折花に振り回されっぱなしで肩身の狭い思いをしていたんだよ。君が来たことで少しは男子勢に発言力が増えれば嬉しいんだけどね。でも鳳さんも来たから女子4人と男子2人で、未だに圧倒的な戦力差はあるんだけど……うん。ここはボク達の結束力でなんとかしようじゃあないか」
     階段を昇りながら、まるで歌うように、川の流れのように台詞を放つ男子。その少年ははひょろひょろと痩せた、いかにも草食系といった少年だった。
    「えと、あなたは……?」
     一見すると少女と間違えてしまいそうな見た目の少年に、守代は尋ねた。
    「ああ、失礼失礼。紹介が遅れてしまったよ。ボクとしたことが肝心な部分はいつも伝えきれずにいる。うん。ボクの名前は――市川右近(いちかわうこん)。折花と同じく今年から二年になる、君の先輩だよ。とりあえずこの1年間、カエル荘にいる男子は君とボクだけだよ。だから仲良くしようね。仲良くしてよね」
     人畜無害、爽やかな表情で市川と名乗った少年が答えた。
    「あ……よろしくお願いします」
     自分と同じ男子でしかも優しそうで、ちょっと喋り方は変だけど、まともそうな人物の登場に内心嬉しい守代だった。
     すると、折花が笑顔のまま、穏やかならない声で市川に訊いた。
    「ところで右近くん〜。明里ちゃんの荷物運びも大方終わったんだけど、女の子2人が荷物を運んでる間、あなたは下で何をやっていたのかな〜?」
     折花の周囲の空気が一瞬にして凍りついた――ような気がした。守代は折花の笑顔が怖かった。
     すると、ついこの瞬間まで余裕の笑顔を浮かべていた市川の表情から色が消えた。
    「う、ええっ? ああ……それはねぇ。ほほほほら、ボクは肉体労働が苦手だから下で休んでいたんだよっ。荷物整理なんて面倒なこと君達で勝手にやってくれればいいって思ってたんだ。これは得意不得意の問題だよ? ボクには荷が重い仕事なんだ。だから君達が終わった頃を見計らってボクは――ってえっ!? い、いだだだだだだあああああああっっっっ!!!! 腕がああああああっっっ!」
     市川の台詞が言い終わる前に、折花が目にも止まらぬ速さで市川の背後に回り込んでその腕を締め上げていた。
    (もしかして市川先輩……あなたまで)
     守代はなんだか嫌な予感がした。
    「ふん。右近くんは相変わらず真っ黒な腹をしているんだよっ。制裁が必要だねえッ!」
     折花はなおも関節技をきめていた。
     守代の予感はあたった。
    「いっ、いだいっ! いだいっ! 許して折花っ! 洒落にならないよっ!? このままじゃボクの腕があああああああああっっっっっ!!!! うっ?」
     壮絶なやりとりを見ながら守代は、このカエル荘には変人しかいないことを確信するに至った。
    「明里ちゃんも刻羽くんも気を付けるんだよ? この男に気を許しちゃ後悔するよっ」
     折花は市川に関節技をきめたまま、新入生の2人にニコリと笑顔を向けた。
     市川は気を失っているのか、体がだらんとしてピクリとも動かない。
    「あ……はいぃぃぃ」
     その光景に圧倒されているらしい明里は、震える声で返事した。
     いっぽう守代は、
    「ええと……あ。それじゃあ僕も引っ越しの荷物の片付けとかあるから……はは」
     苦笑いを浮かべてじりじりと後退していく。
    「ん〜そう。そうだね。じゃ後で呼ぶかもしれないからそれまで部屋で休んでいなよ。あっ。そうそう、あまり下には行かない方がいいよ。いまちょっと忙しいらしいからねっ」
     ぐったりしている市川の腕を掴んだまま、折花は意味深に微笑んだ。歓迎会の事を隠しているつもりなんだろう。もう守代は知ってるんだけど。
    「そうですか。部屋で荷物整理しときますから大丈夫です」
     守代はあえて知らない素振りを決め込んで、廊下をまっすぐ歩いて自分の部屋と思しき場所まで行った。部屋の前にはダンボール箱がいくつも置かれていた。
     守代はとりあえずダンボール箱を全部部屋の中へと入れた。部屋はそこまで狭くなくて、ベッドもテレビもあった。
     歓迎会までの暇つぶしにはちょうどいいと、守代はダンボール箱からゲーム機を取りだしてテレビに接続して、ゲームに興じることにした。
     カエル荘の住人はみんな変わり者ばかりだけど、でも自分はその中にいてもつまらない男のままで変わらないのだろう。みんなと馴染めずに一人で過ごしていくのだろう。だってそれが拒絶体質の自分の在り方だから。
     ゲーム画面を瞳に映しながら、守代刻羽はそう感じた。


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