喪女につきまとわれてる助けて

第2話 休日のデート――をするカップルを撲滅大作戦

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

1

 
 僕は相変わらず灰色の高校生活を送っていた。
 それもこれも全てはあの先輩のせいである。名前を思い出したくもない、不気味な先輩。
 誰にも相談できないまま、僕の心は日に日にすり減っていく。というか誰かに相談したところであの人を止められるとは思えない。
 いや……いやいや、こんなに思い詰めていて駄目だ。気持ちを切り替えなくては。だって今日は休日じゃないか。休日の日まであの人のことを考えてどうする。
 この日だけはあの人から逃れられる事ができる僕の数少ない安息日なのだ。そんな貴重な一日まであの人に支配されてちゃいけない。
 今日はゆっくり休んで、日頃の疲れを癒すことにしよう!
 あの人のことを脳裏から消し去って元気を取り戻した僕は、自室のベッドから立ち上がり、窓の方までいって一気にカーテンを開け放った。
「久遠寺ぃいいいいいいいい〜〜〜〜〜〜〜」
「ぎゃあああああああああああ!!!!!!」
 カーテンを開けた瞬間、トカゲのようにベッタリ窓に張り付く悪魔のような少女を見てしまった。
 それは1学年上の先輩、篠之木来々夢さん。名前も思い出したくもないその人本人だった。
「そ、そそそ、そんなとこでなにやってんですかあっ!?」
 僕は涙目になりながらも篠之木先輩に尋ねる。というか腰が抜けて立てない。
「寝起きのお前の姿を見に来たに決まっているだろうが〜〜〜。それよりもここを開けてくれぇ、久遠寺」
 窓越しの篠之木先輩が甘えるように、懇願した。
「…………」
 けれど僕は動かない。その理由は純粋。ただ先輩を家に入れたくないというそれだけの願い。
「開けるのだ、久遠寺」
 僕を見る目にただならぬ殺意のようなものを込めて先輩が言った。
「……はい」
 すごく迷ったけど、大人しく従っとかないと後が怖い。僕は窓まで行って開け放った。
 はぁ〜……これで僕の安息日も消えてしまった。 
「あのう……それで先輩。今日はどういったご用件で……」
 自暴自棄に近い気持ちになりつつ、僕は先輩に来訪の意図を尋ねた。
「部活動、休日編だ」
 なんでもないようにサッパリと言った篠之木先輩。
「え、ええっ。そんなの聞いてないですよぉ……休日編ってなんなんだよぉ。なんで休みの日にまでそんな事するんですかぁ……」
 僕はもう泣きそうだった。ていうかちょっと涙がでていた。
「何度も言ってるだろ。最近、性を乱す謎の人物・オールハートイーターが現れている。その者を早急につかまえなければならないのだ」
 そういえば言っていた。同時に何人もの異性と付き合っているという、恋愛中毒者。風紀を著しく乱している生徒がうちの学校にいるのだとか。
「そ、そもそもその情報は確かなんですかぁ……本当にそんな人がいるんですか?」
 先輩の妄想かなんかという可能性も大きいと思う。
「風紀委員長から直接聞いたのだから間違いない。実は風紀委員でも問題に上がっているようだ。取り締まりを強化するとか意気込んでいたぞ」
「だったら、別に僕達がつかまえる必要なんてないんじゃ……」
 風紀委員に任せておけばいいのに……。
「こ、この馬鹿者がああっ!」
 と。いきなり拳が飛んで来て僕の顔面にヒットした。僕は吹っ飛んだ。
「うぎゃあ」
 痛みよりも、なにがなんだか分からない恐怖に怯える僕に、篠之木先輩は。
「見損なったぞ、久遠寺! キューピッズたる者がなんと志の低いこと! 恋愛中毒者を粛正するのが我らの使命なのだ! 風紀委員なんぞに先を越されてたまるものか!」
「う、うう……」
 僕は頬を押さえて声にならない声をあげた。先輩に僕の事には構わず話し続ける。
「いいか、久遠寺。オールハートイーターを風紀委員よりも私達が先に見つけ出すのだ。さすれば私達の存在を大きくアピールできるし、同志が増えるかもしれん」 
 いや、もういいよ……。やりたければ1人でやって欲しいよ。なんで僕まで巻き込むんだよ。
「……どうした? 渋い顔をして。腹でも壊したか?」
 いや、あなたに殴られた顔が痛いんですよ。
「べ、別になんでもないですよ……あ、お腹。そ……そう。お腹、お腹を壊したんです。だから残念ですけど今日は……」
「そうか。なら今日はこれを持って来て正解だな。腹を壊した時のための薬! ミミズとカエルを乾燥させて――」
「メッチャ元気です! さぁ行きましょう!」
 僕はゴソゴソとバッグの中をあさる篠之木先輩を慌てて止めた。
 というわけで僕は不本意ながらも篠之木先輩と出かけることになった。
 僕は急いで着替えて歯を磨き、出発の準備をする。なぜ急ぐのかと言うと、篠之木先輩を僕の部屋に1人で待たせていたら何をするか分かったものじゃないし、つけいる隙を少しでも少なくするためだ。
 でも結局――僕の着替えの服をこっそり隠したり、下の階に親がいるのにわざと変な甘い声をあげたりして、僕の寿命がまた何年か縮んだと思う。
 それでもなんとかようやく外出の支度も終えて、僕と篠之木先輩は外へと出た。


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