天使がきても恋しない!

    1. 第3章 天使 対 悪魔

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     しばらく歩いて、到着したのはゲームセンターだった。
    「わ……わっ。なんだここは……? すっごく楽しそう……」
     店中に響き渡る音楽。あちこちから聞こえてくるメダルの音。目を奪われるクレーンゲームの豪華な賞品達。一心不乱に格闘ゲームに熱く興じる人達。駅近くにあるゲームセンターは、人でいっぱいだった。
    「なんだ。レヴィちゃん、もしかしてゲームセンターに来るのは初めてか?」
    「だからレヴィちゃん言うなって……は、初めてで悪いかよ」
     レヴィアンは顔をむすっとさせて言った。
    「や。悪くはないけど……で、ここで具体的になにするつもりなんだよ?」
    「ふふ……そんなの決まっている。ワタシは悪魔だぞ。人々を不幸にするのが悪魔の仕事……ならば、奴らを不幸にさせるには……つまりアイツらが熱中しているゲームを滅茶苦茶にしてやればいい……」
     う〜ん……さすが悪魔。考えることがあくどい。だが……にしては、スケールがちゃっちい気がするのは何故だろう。
    「くっくっく……そうと決まればゲームを邪魔すればいいわけだが……」
     と、レヴィアンはクレーンゲームで遊んでいるカップルを見つめた。どういうゲームか知らないみたいだから様子を探っているのだろう。その目は真剣そのもの……っていうか、なんかクレーンゲームに興味津々みたいな目をしていた。
     ちなみに――僕はクレーンゲームよりも、カップルの方ばっかり見つめていた。もちろん怨嗟の視線的な意味で。ありったけの呪いを視線に込めて。
    「って、いま貴様からかなりの悪エネルギーを感じたけど!? な、なにがあったのだ我が下僕っ!? っていうかワタシを超えたっ!?」
     なんか隣でレヴィアンがびびってた。
    「あーいや……気にしなくていいよ。それよりレヴィ……よかったら1回クレーンゲームやってみたらどうだ?」
     むしろレディバグは悪ではなく正義サイドにあると思うんだけど、悪魔に説明したってしょうがないから僕ははぐらかす。
     すると、レヴィアンの表情が明らかに明るくなって。
    「……えっ? わ、ワタシが!? い、いやっ……でもワタシは別にあんなのっ……やりたくないし」
     強がっているけど、滅茶苦茶興味ありそうだった。
    「まぁまぁ、1回くらいいいじゃん。ほら、ゲームを台無しにしてやるには、まずゲームについて調査することが大事だと思うよ。お金なら僕が出すしさ」
     と、僕が100円玉をレヴィアンに向けて差し出すと。
    「う……うん。貴様がそこまで言うなら……やってやってもいいぞ」
     渋々と、しかし顔はニヤニヤさせて超スピードで100円玉をかっさらった。


     それからレヴィアンは、店外に設置された動物のぬいぐるみがとれるクレーンゲームを一心不乱にプレイし続けていた。
    「れ、レヴィちゃん……そろそろ諦めた方がいいんじゃないの……僕のお金がそろそろピンチなんだけど……」
     もう20回くらいやってるよ。
    「だ、だって……あとちょっとで……あとちょっとで取れそうなんだもん」
     レヴィアンはクマのぬいぐるみを取ろうと必死でクレーンを動かしていた。が、取れる気配は全く見えない。見た感じ簡単設定ぽい配置になってて普通だったら誰でもすぐにでも取れそうなのに……なんてヘタクソなんだ。このままじゃ僕の財布が空になってしまう……。
    「分かったよ。クマのぬいぐるみが欲しいんだろ? じゃあちゃっと僕にやらせてよ」
     業を煮やした僕はレヴィアンをクレーン筐体からどかして僕が立ち向かった。
    「えっ……べ、別にワタシはぬいぐるみなんていらないけど、ただここまでやって取れないのは悔しいからそれで……」
     いいわけするレヴィアンを無視して僕はコインを投入してクレーンを操作した。
     ――そして、クマのぬいぐるみはあっさり取ることができた。
    「わ……やったぁ! クマさんだぁ! クマさんのぬいぐるみだぁ!」
     景品受取口からぬいぐるみを手にしたレヴィアンは、両手で抱きしめて小躍りしていた。
     その無垢なる姿に僕がときめいていると、すぐ後ろから声が聞こえた。
    「き、清貴さん……あなた……なに間抜けな顔でよだれ垂らして呆けているのかと思ったら……まさか、よりによって悪魔なんかとこんなこと……ふ、ふ」
     僕は間抜けの顔のまま表情が凍り付いて、ゆっくりと振り返った。
     ラヴラドル・ラブ・ライクがいた。
    「あ、いや……これは」
    「ふ、ふふ……不潔ですうううう!!!! このロリコンめえええええええ!!!!!!」
     ラヴが叫びながら猛スピードで駆け出して行った。
    「ま、待てっ。僕はロリコンじゃない!!!! 誤解なんだあああああああ!!!!!」
     僕は手を伸ばしてラヴを止めようとしたけど――ちょっと待て。
    「……べ、別にラヴにどう思われようがいいじゃないか……むしろ誤解されてた方がこっちにとって好都合だし」
     なのに……僕は胸の奥がザワザワするような、そんな痛みか不安か分からない何かを感じていた。
     レヴィアンの方に顔を向けると、彼女は嬉しそうにクマのぬいぐるみを抱きしめていた。
    「えへへへ〜、ありがとっ。お兄ちゃんっ」
     …………まっ、いいかっ!


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