天使がきても恋しない!

    1. 第一章 小さな恋の物語

  • ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

    2

     
    「お待たせしました。こちらコーヒーとイチゴパフェになります。どうぞごゆっくり」
     ファミレスの店員が注文の商品を届けにきた。僕は黙ってそれを受け取り、天使は、
    「ありがとうございます、店員さん。人々の笑顔の為に日々お仕事頑張っているのですね。とても立派です。どうかあなたに神の祝福がありますように」
     およそ今まで見たことないようなリアクションをしてみせてる。さすが天使。前代未聞の感謝に店員さん完全に引いてるし。あ、逃げてった。
     さすが愛の天使。
    「……それで、え〜と、ラヴラドール・レトリバーだったっけ? 僕はさっきからずっと理解が追いついてないんだけど……」
    「いや、名前違います! 惜しいけど全然違います! 私の名前はラヴラドル・ラブ・ライクですっ!」
     なんだ、こいつツッコミもできるんだな。さすが天使。
    「……で、話を聞かせてくれよ。お前はいったいなんなんだ? さっきの奴はなんだ? どうして僕は襲われたんだ? なんか普通の人にはスライムが見えてないみたいだったけど? っていうか、いちいち挙げてたらきりがないから、一から全部教えてくれ」
     窓際のテーブル席に向かい合って座る僕とラヴ。
     外はすっかり暗くなっていて、冷え込んでいるようだった。
     幸い、僕の父親は出張中だったし、出版社で働く母親も今日は帰ってこないというので、帰りがどれだけ遅くなっても大丈夫だ。
    「あらあら、地上の人間はせっかちとは聞きますが……もう少しゆとりを持つことも大切なんじゃないでしょうか。おおかかな心を持って、忙しいときだからこそ一旦お茶を飲んでですね……」
    「って、そんな事はどうでもいいよ! 質問に答えろってのっ」
     ただでさえ僕は自分のポリシーを曲げてまで女と喋っているんだ。無駄話はしたくない。
    「むぅ。なかなかに手強い人ですね、あなたも。まぁいいですわ……それこそ私のパートナーに相応しいというものです」
     ヒラヒラの服を着ていた時は瞳の色は、服とお揃いのピンク色だったのに、今は碧眼になっていた。見つめていると吸い込まれてしまいそうな青と緑の中間色。
     ふん……と僕は目を逸らした。だが。
    「うわ……」
     逸らした先に、見てはいけないものを見てしまった。
     大学生っぽいカップルが、「ぼく、一人じゃ食べれないでちちゅ〜」「ふえ〜……しょうがないでちゅねシンちゃんは〜。はい、あ〜ん」「おいちーでちゅ〜」とかアホみたいなやりとりしてる光景が目に入った。
     低脳だ。公然わいせつ罪だ。瞬間的に、僕の頭が真っ白になった。
    「あ、清貴さんどこに行くんです?」
     ラヴの呼びかけを無視して僕は真っ直ぐカップルの元に向かう。
    「ん? なんだお前? オレらに何か用かよ」
    「きゃ〜、シンちゃんかっこい〜」
     僕を見上げるカップルはいかにも馬鹿な顔をしていた。
     いいだろう、だったら僕がお前を修正してやる!
    「いい年こいてパフェも一人で食えないのかッッ! そうかッ! だったら僕が食べさせてやるよおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!」
     僕はテーブルの上に置いてあったパフェを掴むと、男の顔めがけてぶちかました。
    「うっっっっっっぎゃああああああああああ!!!!」
    「きゃああああああ!!! シンちゃあああああああああんっっっっ」
    「おっ、お客様ぁあああああああああああああああ!!!!!!」
     真っ白な顔になって泣き叫ぶ男。狂乱する女。駆けつける店員。
     そして――。
    「な、ななななにやってんすかーっ、清貴さんっ、ににに逃げますよっっっ」
     とっさにやって来たラヴが僕の腕を掴んで、店の外に出ていった。食い逃げになるから、店を出る際にお金は僕がちゃんとレジに置いといたよ。
    「……って、そういう問題じゃないですよっ。なにしてんすか、清貴さんっ。いやマジで」
     あまりに驚いたのか、ちょっと性格変わったラヴが凄い形相で僕を睨み付ける。
    「ああー……僕、カップルを見たらつい自分が抑えられなくなるんだ。これもレディバグの宿命っていうのかな。まぁ、君に言ってもこの業は分からないから気にしなくていいよ。あ、でも一応説明しとくけどこれは決して嫉妬とかじゃないからね? ほら、現代って若者の性の乱れが目立つでしょ? だから僕が公然わいせつ罪とか不純異性交遊とかの取り締まりをしようと、個人的に慈善活動をこうしてだね……」
    「いや、それ嫉妬じゃないっすか。あなた悪魔そのものですよっ。マジびびりますよ。天使を目の前によくやりますよ。ていうか天使のパートナーとしてあるまじき行為ですよっ。まぁいいです。これから私がじっくり清貴さんに愛の素晴らしさを教えてあげますからねっ。パートナーとしてっ」
    「いや……て、ていうか僕はパートナーじゃないしっ。そんなん知らんしっ!」
     女に対して優位であるべき僕は、気圧されないないように強気に対応する。
    「……ちっ、勢いに任せて清貴のハートフォーリンラブ作戦は失敗か」
    「お前こそ本当に天使か。……ていうか仮にパートナーになったとして僕に何をさせる気なんだ? 同じように魔法少女になれと言うのか? あほくさ」
    「……分かりましたよ。だったら説明しますよ。私のこれからの人間生活の死活問題となってくる話ですから面倒くさがってても仕方ないです。では場所を変えて話の続きをしましょうか」
     というわけで。ラヴは僕を連れて別のファミレスへと入っていった。
    「いや、別にもういいのに……」
     天使なのにラヴは自分中心だなぁ。見習いと言っていたとはいえ天使として自己中ってどうよ。ああ……天使はそういえば自己中なんだね。愛を無理強いするんだよね? ぷぷぷ。くだらね。
     ファミレスのテーブルに着いた天使かペテン師か分からない少女はしかし、顔だけは本物の天使といっていいくらい整った笑みを浮かべ話し始めた。
    「私達天使見習いはですね、天界にある天使の組織から地上に派遣されて、世界中に愛を広めるという任務をこなさなければいけないのですよ」
     そんなシステムがあるなんて天国も結構大変なんだね。
    「ほうほう、なるほどねぇ……できれば信じたくない話だけど、あんなもの見た後じゃ半信半疑にも信じてやるよ」
     僕は融通の利く人間だから真っ向から全てを否定するなんていう愚はしない。だけど胡散臭いこの女のことは信じない。
    「童顔な顔してるくせに清貴さんは結構口が悪いですねぇ」
    「余計なお世話だ。ていうか……地上に愛を広めるってなんだよ。布教活動でもするのか?」
     愛なんて僕から1番遠い言葉じゃん。関わる相手を間違えてるんじゃないのかい?
    「う〜ん、ちょっと違いますねぇ。私達天使見習いは世界を愛で満たします。具体的に言うと治安維持みたいなものですかねぇ。困ってる人に手を差し伸べたりとかそんなのです。あとは時折地上に現れる悪魔を退治することですかね」
    「あ、悪魔?」
     ラヴの口から物騒な言葉が出てきて僕は怪訝に眉根を寄せる。だけどラヴは何でもない風な顔で、イチゴパフェをがっついてた。
    「むぐむぐ・・…さっき清貴さんを襲ってきたスライム。あれは悪魔の使い魔さんです。悪魔は地上を恐怖と混沌に満たそうと悪さしてるのですよぉ」
     元々がたれ目気味だからだろうか、ラヴはなんだかやたらと面倒くさそうに説明しているように見られた。
    「そうなのか……あと、他にもお前みたいな奴がいるみたいな口調だけど、他にそういうの何人くらいいるんだ?」
    「ふわぁ〜あ……さぁ、具体的な数は分かりませんけど、担当するテリトリーがあるからこの周辺には私以外には天使見習いはいないでしょう……あ、ちなみに天使見習いってのは言葉の通り天使の見習いで、この任務で一定のノルマを達成すれば天界に戻り、晴れて天使になることができるのです。いわばこれは試験みたいなものですよぉ」
     というか、たれ目とか関係なしに、明らかに面倒臭そうにしてるし。もしかしてこれが彼女の本性なのか。しょせん女というのはかくいう生き物なのかっ!?
    「……色々大変なんだな、お前も」
     心の中で侮蔑しながらも僕はとりあえず適当な相槌を打つ。到底信じられないような話ではあるけれども。
    「イエスイエスそうなのですよ〜大変なのですよぉ。ノルマ達成しないと天界に帰れないし、天使にも昇格できないのですよ。だ〜か〜ら、パートナーである清貴さんの力が必要なのですっ」
     ラヴは僕の手を取って、キラキラ目を光らせながら訴えかける。
     もちろん女にそんなことされた僕はすぐに手を振り払った。一瞬ドキリとしたのは多分気のせいだ。
    「いやいや、だから肝心の説明がまだだって。なんで僕がそのパートナーに選ばれたんだよ。ていうかパートナーのシステムがまず何かを僕は知りたい」
    「あらあら。せっかちですと頭の血管が切れてしまいますよ、清貴さん」
     わざとらしい慈悲みたいな感じの笑みを向けてラヴは、とりあえず落ち着きましょうとパフェをおかわりした。
    「どんだけ食うんだよ。しかもまたいちごパフェ」
     やれやれと僕は両手を挙げる。
    「てかお前、お金は持ってるのかよ」
    「はて、お金……ですか? すいません。私、現世に降臨したばかりでまだ世の中のルールを熟知していないのですが……お金って何でしょう?」
     ラヴは何も知らない無垢な子供のような瞳で僕を見た。
    「って、嘘だ! 絶対知ってるだろ! 店に入ってスムーズに席に着いていちごパフェを店員にすらすらオーダーできるような奴が金の概念を知らない訳がないだろっ!」
     これは相当俗世に染まってるだろ。店員呼ぶときちゃんと呼び出しボタン押してたもん。
    「ほらほら、清貴さん……大声を出すと周りの方達にも迷惑がかかってしまいますよ。もっとおおらかな心を持ちましょう」
     ラヴは彫刻のように整った顔を綻ばせて慈しみの顔で城崎を……。
    「いや、おおらかな心はもういいよ! つーか、お前の笑顔は悪意だらけだもん! 笑顔が余計にたち悪いわ! いいからパートナーの件についてはよ話せ!」
     こいつのペースに合わせていたら全然話が進まない。これだから女は。
    「やれやれ。天使の微笑みを無効化するなんて……あなたただ者ではありませんね? さすが選ばれし者。仕方ないです。では話します……私達天使見習いはですね、下界に降りる際にその力のほとんどが失われてしまうのですよ。それは人間世界に溶け込んで活動する為でもありますが……とにかく、ほとんど人間と変わらない位にまで低下するのです」
     ようやくラヴは本題に入ったようだ。僕はミルクティーを飲みながら耳を傾ける。
    「でも悪魔を退治する場合そのままだと勝ち目はありません」
    「ああ……もしかして、さっき魔法少女みたいな格好をしていたのはその為なのか」
     かなり痛々しかった格好。あと台詞とか動作も。もう全部だ。
    「ええ、そうです。戦闘形態になることで本来の力の何割かを発揮することができるのです。まぁ力を使うにはエネルギー源が必要なのですけれどね」
    「ふ〜ん、そうなのか。大変だな」
     でも変身する事にも意味はあったんだなと感心した。本来の力を取り戻す為の変身。
     わざわざあんな恥ずかしい格好をする意味はまだ分からないけど、もしかしたら僕が想像もつかないような深いわけがあるかもしれない……。
    「あんな格好させられてるのはね、ほら。人間界でいま、魔法少女って人気あるでしょ? だからそれに乗っかろうと偉い人が思ったみたいですよ」
    「すっげーどうでもいい理由だった! しかもやっぱそれ魔法少女だったんだ!」
     というか理由なんてないに等しい。僕の中で天使の高潔なイメージがゲシュタルト崩壊していく。
     するとラヴが、幻滅する僕に対して拗ねるように頬を膨らませて言った。
    「人間界のニーズに応えるのって大事なのですよぉ。それに変身するメリットはありますぅ。一般人にはその姿は見えないですし……あ、天使姿の時の私は普通の人間には見えないのですよ。エーテル体で体が覆われているんですよ。ちなみに同じ理由で魔物も普通の人には見えません。城崎さんは特別だから、魔法天使姿の私も魔物も見えたのですよ」
     いや、そもそもエーテル体がなんなのか知らないけどさ。……面倒だからいいや。
    「……僕が特別って、そのパートナーとかいうやつか?」
     僕の知らないところで勝手に決められていたという、パートナー。
    「う〜ん。それとは話が違うのですが……実は魔物は見ようと思えば誰でも見ることができるのですよ。要は気付くことができるかどうかの問題です。見ようと思う気持ちがあるか。五感のチャンネルを対象に合わせているか。ま、そういうことですね。心霊写真とかそういうもんだと思ってて下さい」
    「つまり霊感が強い人には見えるとか、そういうものか」
     すごい曖昧だけど。
    「まぁ、そんなところです。で、ここからが重要なのです。私達見習い天使が魔法少女に変身して本来の力を取り戻すためには多大なエネルギーが必要なのです。その力こそが――愛の力なんですっ」
    「愛……だって?」
     愛という言葉を聞いた瞬間、表情が暗くなるのが自分でも分かった。
     ラヴと出会った時からそうなんだけど……これまでよりもさらに一層嫌な予感がした。
    「はい、愛です! その為のパートナーなんです! 私達が派遣される先はあらかじめ、ヴィーナス機関という組織が念入りに調査をして決定するのです! 私はその機関の構成員ってことになりますねっ」
     鼻をふんふん鳴らして得意げに語るラヴ。
    「ヴィ……ヴィーナス機関て……中二病にもほどがあるだろ。にしても組織ね……天界にもそういうのがあるんだな。んで……そこが念入りに調査して決定、ねぇ……それで、そのパートナーの判断基準はなんなんだ?」
     何にしても僕が選ばれるなんてその調査に問題があることは明かなんだけど。
    「その決定方法はズバリ……派遣される天使見習いと、派遣先の方との相性! つまり2人が相思相愛の関係になれるかどうかなのですっ!」
     声高らかに宣言したラヴ。瞬時――その空間は静止した。
    「……え〜っと。相思相愛?」
     硬直しながらもなんとか僕は一言発する。
    「はい。相思相愛です」
     天使見習いは得意の慈愛に満ちた笑顔で答える。
    「え〜と……誰が相思相愛?」
     その笑顔に僕はさらに尋ねる。
    「だから、あなたと、私が」
     ラヴが僕と自分を指で交互に指して答えた。
    「えっ……ええっ?」
    「私と――あ・な・た(はぁと)」
     はぁと。
    「なっ、なっ、なっ、なああああああああああんだっっっっっってええええええええっっっっっっっ!!???!?」
     あまりのインパクトに僕は周りの事も気に関せず、飛び上がって叫び声を上げた。
    「ちゅ……ちゅーかその調査やり直せっ。問題しかないじゃん!」
     なんかもうとんでもない展開の連続で何も考えられなくなった。
    「まあまあ……またそんな大きな声を上げて……。ほら、ここじゃなんですし、とりあえずあなたの家に行って、そこでゆっくり話をしましょう」
     ラヴも立ち上がって、硬直する僕の手を取った。なんかさりげなく恋人みたいな感じに指からませてきてるし! なにそれ! パートナーってそういうことなの!?
    「いや、ちょっ……やめろって! 勝手にそんな事決めるなって!」
     僕は艶めかしく握ってくるその手を必死で振り払った。
    「だって私達は相思相愛の仲じゃないですかぁ。なにを今更ぁ」
     ぽっと頬を赤く染めて、可愛い顔の少女は恥ずかしそうに目を逸らした。そしてお腹に手をやってさすっている。
    「いやいやいや! 違うからね! お前がどう思ってるか知らないけど、少なくとも僕は違うからね! むしろ僕達ほとんだ他人と言っていい関係だからね! なんでお腹に赤ちゃんいるみたいなアクションしてるか分からないんだけども!」
     いったい僕達の間に何があったという設定なんだ!? ちょっと勘違いしてるかもしれないけど、実は僕達初対面なんだよ!?
     それに僕にはそんな相手を作るつもりは毛頭ないし資格もない。
     そうだ。たとえ誰が相手であれ、僕には完全に関係のない話なのである。なぜなら――僕にとって愛とは、もはや憎むべきもの以外に他ならないから……。
    「とにかく他をあたってくれ。君には悪いけど僕には縁のない話だ。残念だけど僕は君にも愛にも興味はないんだ」
     僕の秘技・ラブブレイカー。クールに愛を引きはがし解体。レディバグとしての48あるうちの一つの技さ。
    「もうっ……何を言わせるんですか。それでも私は……あなたにぞっこんなんですよ。清貴さんも今はその気がなくても……きっと私の事を好きになります。だって私は愛の天使なんですよ? この世のどんな男性でも私の事を好きにしてみせる自信はありますよ。だからほら、早くお家に案内して下さいよぉ……子作り、します?」
     と言ってラヴは僕にべったりくっついてくる。ていうか――意外と大きな胸が、僕の腕にぽにょぽにょ当たってるんだけど。
    「ちちちちょっ……ふざふざふざ巫山戯るなって! 展開すっ飛ばし過ぎだって! 誰が子作りなんてするかっ! 念入りに調査したかなんだか知らないけれど、僕は絶対にお前とそんな関係になる事はないよ! そ、それは絶対にあり得ない事なんだ! だ、だって僕は……僕は愛を捨てた女殺しなのだからあああっ!」
     ガバッと両腕を広げて、僕の考えた最強のレディバグのポージングを決め、高らかに叫んだッ。
     そして、またもや周囲の空気は凍り付いた。
     はっ……しまった! つい僕は自分の本性を現してしまった。でも今のは結構格好良くなかった? え? 駄目?
    「えーと……その……」
     カッコイイポーズのまま我に返った僕は、自分の発言に思い切り後悔して、みるみる顔が赤くなるのを感じた。
     だ、駄目だ。もうこの空間に堪えきれない。視線メッチャ感じる。めっさ引かれてる。
     この格好良さは凡人には伝わらないんだッ!
     しかし、ラヴだけはなぜか期待と興奮の眼差しを僕に向けているように見えた。
     なんだ……この思わせぶりな笑顔は……。しかし、今はラヴどころじゃない僕は――。
    「ぼ、僕は絶対に愛なんかに心を奪われないからな! 愛なんて信じないからなああああああああ!!!!!」
     完全にテンパった僕は捨て台詞を叫びながら、ラヴのイチゴパフェ代をレジに置いて店を飛び出していった。
     そして、夜の闇へと消えていく僕の姿を、ファミレスの窓越しにじっと見つめていた見習い天使ラヴは――。
     慈愛に満ちた顔で、無慈悲に非情に不気味に微笑んでいた。
     一瞬振り返った時、僕は確かにそれを見たのだ。


    inserted by FC2 system