天使がきても恋しない!

    1. 第3章 天使 対 悪魔

  • ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

    1

     
     ラヴから話を聞いたあと夕食のカレーライスを食べさせて、「私……今日は帰りたくない」とか意味不明なこと言ってる彼女を無理矢理帰らせると、僕は自室に行ってノートPCの電源を入れて、今日も日課であるレディバグ団の元に訪れた。
     やっぱ夜はレディバグタイムに決まるよな。
    『こんにちわっと』
     軽快なリズムで僕、参上。
    『あ、キヨさんじゃないっスか! こんばんわっス!』
     お、誰かと思えば最近入団したノンケ君じゃないか。
    『ああ、キヨくん今日も来たな。おつとめご苦労』
     そして団長もいつものように来ていた。
    『こんばんわ。団長、ノンケ君。それにしても今日も人数少ないですね』
     そうだ、本来今の時間はレディバグ団のゴールデンタイムなのだ。
     なのにたった3人しかいないとはいったいどうなっているのだ。
    『それがっスね、どうもみんな退団したみたいなんでスよ……』
     ノンケ君がモニター越しから伝えた言葉は、僕に衝撃を与えた。
    『な、なんだって……辞めただって?』
     かつてはあんなにいた仲間達。共に世の女達に立ち向かおうと誓い合った猛者達。なのにみんな……。
    『ああ、どうやら本当のようだ。みんなどういう心境の変化があったか分からないが、噂によれば……天使に救われた、って言っているのだ』
    『て、天使に救われた……ですって?』
     僕は驚愕する。そしてすぐにラヴの顔が頭に浮かんだ。天使って、レディバグ団を壊滅状態にまで追いやった者って、やっぱそういう事だよな……?
    『そうだ。なんでも愛に目覚めたとか、自分から女に歩み寄り始めたとか、あまつさえ彼女ができたなど、そんな現象が多発しているのだ』
    『な、なんていうことなんだ……』
     僕は確信する。間違いない、これはきっと天使の仕業だ。ラヴラドルの仲間が愛のために暗躍しているに違いない。人間界の日常にみだらに干渉してくるなんて、本当に……なんて余計な事をしてくれるんだ。
    『でもおかしいっスよね? なんでこんな急にみんなが心変わりしたのか。なんか怪しいっスよ。きっと女の罠っス、やつら手段を選ばない卑劣な奴らっスから!』
    『で、でもノンケ君っ……そんな早合点はいけないよ。状況を正確し判断しないと』
     僕は気が気じゃなかった。そうだ……ラヴは事前に僕の事を調べていたんだ。だったらレディバグ団の事も既に調査済み……。なら、愛に敵対する彼らの存在を知った彼女達のとる行動は……。
    『確かにキヨ君の言うことにも一理あるが、やはり俺もその現象には何か裏が隠されていると感じているのだ。俺は別に本人が自分の気持ちで、本気に愛に目覚めて考えた結果この団を抜けるのはいいと思っているのだ。だからキヨくんもノンケ君もこの団をいつ抜けたっていいのだ。だが……もしもそれが仕組まれた意思なら、ただ心を弄ばれているだけなら……俺は団長としてその悪を決して許さないッ』
    『だ、団長……僕達は絶対抜けません、一生団長についていきます!』
     僕もノンケ君も、団長のこういうところに憧れてレディバグ団に入ったのだ。
    『ふふ、ありがとう――そういうわけだから俺は本日付で、この謎の存在を便宜上男性殺しと呼ぶことにした。男の心を狩る者が果たして誰なのか分からんが、男性殺し(マン・イーター)を我々の敵と見なし、以後この概念を駆逐する事に全力を尽くす。我々の崇高なる理想の為に!』
     団長のこんな姿を見るのは久しぶりだ……彼は怒っている。団長が久しぶりに非常事態宣言を発動させるなんて。これは……戦争になるぞ。
    『レディーバグッ! レディーバグッ!』
     ノンケ君は団長の演説に打たれレディバグコールを繰り返している。
     このまま天使とレディバグの戦争に突入するというのか?
     僕はどうすればいいのか分からない。ただ僕は、その光景をやけに遠くに感じていた。

    inserted by FC2 system