女はすべて俺の敵!

トラウマ

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

   

 
 それはいつの事だったか。俺が俺のアイデンティティーを――大いなる力を――手に入れることになった原因である出来事。
「僕と――付き合って下さい」
 当時、俺には好きな子がいた。その子は可愛くて、明るくて、クラスのみんなから好かれていた。そんな人間だった。だから俺はある日、思い切ってその子に告白した。
 だけど――。
「支倉くんさぁ、君、自分の立場分かってるの? どうして私が君みたいな人間なんかと付き合わなきゃいけないのよ」
「え?」
 それは予想外の言葉だった。俺は自分の耳を疑った。誰にでも優しいあの子がこんな事を言うわけはない。こんなこと。
「正直気持ち悪いのよ、支倉くん。私……前から知ってたんだよ? 支倉くんが私の事好きなの。だって支倉くんいつも私の方ジロジロ変な目でみてるんだもん」
 俺の好きだったあの子がこんな事を思っていたなんて……俺の事をこんな風に思っていたなんて。こんなの……嘘だ。
「そ、そんな……君が、そんな……」
 俺は声にならない声を上げた。まともな思考が不可能になる。
「はあ? なにそれ? まるで支倉くんが私の事なんでも知ってるみたいな言い方。きゃはは、支倉くんがいったい私の何を知ってるっていうのよぉ?」
「…………」
 俺は頭が真っ白になって、もはや何も言うことができなかった。俺の知っている世界がガラガラと音を立てて崩れていった。
「とにかく、もう私に近づかないで。もう私に話しかけないで。私……支倉くんのこと嫌いだから――ううん。あなたの事、なんとも思ってないんだから」
 そして――その子は去っていった。文字通り俺の前から姿を消した。
 あれから彼女とは二度と会うことはなかった。それは遠い日の出来事。
 そしてその時から、俺の孤独な戦いが始まった――。


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