働かずに生きる、と彼女は言った

第4話  社会復帰更正プログラム

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幕間小劇場C 〜救世主〜

 
 レオ姉の友人である、莉菜どのが久しぶりに我が家に訪れた。
 ――はっきり言って、アタシは彼女が苦手だった。
 莉菜どのはレオ姉の親友だと自称しているが、アタシにはどうも莉菜どのは、レオ姉の事を親友というよりも、むしろ神様みたいに見ているような気がした。そんなのはレオ姉が可哀相だ。
「やぁ、仄ちゃんじゃないか。久しぶり。大きくなったねぇ」
 しかし2年ぶりに現れた莉菜どのは、アタシの知っている莉菜どのよりずっと大人っぽくなっていて、最初現れた時は誰だか分からなかった。
 突然アタシの部屋に入ってきた不審者に対し、アタシは警戒を強めた。
 失礼だが、お前誰だ?
「って、ひどい! あたしよ! 仄ちゃんのお姉さんの親友の小久保莉菜よっ! そしてその言い方の方があたしは失礼だと思うのだけれどっ!?」
 ……ああ、そういえばレオ姉の知り合いにそんな奴がいたようなと、アタシはようやく莉菜どのの存在を思い出す。
「もう、仄ちゃんも人が悪いなぁ」
 それよりも莉菜どの、突然現れてなんの用だ?
「いやぁ〜、用ってわけじゃないんだけどね。ちょっと今日は玲於麻と一緒に遊びに行こうかと思って来たんだ」
 アタシが知っている時とは違う、莉菜どのの笑顔。しばらく見ないうちに随分大人っぽくなったものだ。
 ふ〜ん。そうか……。と、アタシは興味ないフリをする。本当はちょっと妬ましい。
 すると莉菜どのは、まるでアタシの思っている事を理解してるかのように言った。
「ねぇ仄ちゃん。よかったらさ、仄ちゃんも一緒に遊びに行かない? 楽しいよ?」
 その笑顔は怪しくさえ見えた。何か裏がありそうだった。
 ――嫌だ、断る。アタシは忙しいんだ。アタシは莉菜どのを軽くあしらった。
「はは……仄ちゃんは昔から変わらないねぇ。あたしは仄ちゃんと仲良くなりたいんだけどなぁ」
 アタシは別に莉菜どのと仲良くならなくていい。
 アタシはベッドの上に寝転がって莉菜どのに背を向けた。
「――安心して、仄ちゃん」
 背後で、莉菜どのが言った。
 ……なにがだ?
「あたしが玲於麻を元に戻すからね。あなた達の完璧なお姉さんに治してあげるからね」
 背中に聞こえてくる莉菜どのの声は、まるで何かに取り憑かれているみたいだった。
 そんな事しなくてもレオ姉はレオ姉なのに……元に戻すとかそんなものないのに。
 それなのに莉菜どのは。
「きっと全てが元通りになるわ。玲於麻はあたしに任せて。今日あたしは、玲於奈を社会に復帰させるわ」
 莉菜どのは、1人で勝手になにかに誓っていた。アタシは怖くて振り向けなかった。
 アタシは思った。莉菜どのはレオ姉の事なんてこれっぽっちも考えていない。自分の中にあるレオ姉像を完璧に保ちたいだけなんだ。
「……それじゃああたしは行くから。仄ちゃん、玲於麻がよくなったら、今度はみんなで遊ぼうね?」
 そして、莉菜どのは静かにアタシの部屋から出て行った。
 アタシはベッドから起き上がることもできなくて……。
 そして、いつの間にかそのまま眠ってしまっていた。


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