働かずに生きる、と彼女は言った

第1話  働かない彼女、登場

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幕間小劇場@ 〜萩窪家の面々〜

 
 というわけでこんにちわ。アタシは萩窪家の三女――萩窪仄だ。
 知っての通りアタシ達は子供4人で生活しているわけだが……正直に言おう。
 兄者……つまり萩窪貴翔が言ってる事は全っ然っ当てにはならないぞ。奴は人を見る目がないし、馬鹿だから信用しない方がいい。
 じゃあいったいぼく達は何を信じればいいの――と思ったあなた。安心しなさい。
 ここで、とっても優しいアタシが、正確な自己紹介を1人1人してやろうと、なんとも心配りあるコーナーを開設したのだ。
 ではさっそくだが紹介を始めよう、まずは何を置いてもこのお方――萩窪家長女にして、我が家のトップ。萩窪玲於麻。通称、レオ姉だ。
 腰まで届く流れるような長い髪に、日本人離れした顔立ち。そして長い手足にスレンダーな体。この物語の真の主人公と言っても過言ではないし、事実レオ姉が主人公だ。
 レオ姉は妹・弟にとても優しくて、いつもアタシ達の事を考えてくれているのだ。19歳なのにとてもしっかりしている。萩窪家が毎日楽しく穏やかに過ごせているのは間違いなくレオ姉のおかげだし、いなくなった両親の代わりを一手に引き受けてくれてる菩薩のような慈悲深い存在なのだ。
 それをあの恩知らずの兄者は、ちょっとレオ姉が働きたくないっていうだけで、鬼の首を取ったように責め立てて……きっと兄者は萩窪家のトップの座を狙っているに違いない。下克上しようと企んでいるのだ。
 だけど大丈夫。アタシがレオ姉を守る。生まれた時からアタシの面倒を見てくれたレオ姉にいまこそ報いてみせるのだ。
 というわけでレオ姉には欠点がまるでなくて、完璧そのものだけど……最近ちょっと社会的にまずい立場なのかなっていうごくごく些細な悩みを抱えています。
 それじゃあ次。萩窪家次女にして、双子の片割れ。そして萩窪家のエロ担当――萩窪樹新。
 馬鹿双子の女の方だと思って頂いて結構だ。そんなに詳しく述べる事はないと思うけれど、それだと紹介にならないので仕方なく述べよう。
 なぜか姉者は双子の弟・貴翔が大好きらしくて、なにかある事にしょっちゅう抱きついている。兄者は嫌がっているが、実は満更でもないんじゃないだろうか? 双子同士で気持ち悪い奴らだ。
 そして――意外に思うかもしれないが、姉者はああ見えて優等生だ。というか、姉者は馬鹿のくせに、何故か学校の成績は優秀なのだ。簡単にいえば、勉強はできるけど頭はよくないってやつだ。
 馬鹿にはありがちなもので、運動神経はピカイチ。何のスポーツをやっても全国レベルかって位にすぐに上達するし、運動部からは常に助っ人を頼まれていつも駆け回っている。
 交友関係も広くて、萩窪家イチ明るくてムードメーカーで……まるでアタシと正反対の人間だ。……胸もでかいし。
 ああ、なんだかすごく陰鬱としてきた……。
 ごほん……次。
 萩窪貴翔。双子の片割れだけど樹新と比べて何の特徴もない、ちょっと残念な人。萩窪家で唯一の男性だ。顔は双子というだけあって、けっこう樹新と似ている。
 アタシに対してはやたらと甘くて、それがやけに気持ち悪い。レオ姉には反抗的な態度をとってるけど――どうやら反抗期真っ最中なんだろう。子供だな。
 性格は優柔不断で、すぐに人の意見や状況に流されてしまう困った人間だ。今も変な人に影響を受けているらしく、どうなる事やらアタシは気が気ではない。まったく……世話のかかる兄だ。
 ……ではお待たせしたな。いよいよアタシの番だ。
 アタシが萩窪家の三女。萩窪仄。
 レオ姉ほどではないが、聡明で美人で……ちょっと身長が低くて胸も小さいかもしれないが、まだまだアタシは成長中なのだ。そのうち、レオ姉くらいのモデル体型になって、姉者くらいのボインボインになる予定。
 性格的にもアタシは申し分ないぞ。アタシは馬鹿姉者とは違って物静かで、むやみに体を動かしてエネルギーの無駄遣いもしない、エコな人間だ。
 趣味は読書で、人付き合いは少し苦手だが、それは単にアタシの周囲にいる人間が馬鹿ばかりなのがいけないのだ。
 アタシの精神レベルに合う人間がいないから、だからアタシは仕方なく読書で教養を深めている。
 しかし――学校の成績はいい方ではない。樹新の逆だ。アタシは頭はいいけれど、学校の勉強はしないのだ。
 それは単に勉強ができないのではない。あくまでアタシの意思で勉強しないのだ。はっきり言って学校の授業なんて社会において役に立つとは思えない。
 学校を卒業したら何の価値もなくなるものにアタシは無駄な力を注いだりはしない。
 ……いや、決してこれは言い訳とかじゃないんだぞ。アタシは――
「って、あれー? 仄ーっ。さっきから1人で何ぶつぶつ言ってんのーっ?」
 ……げ、姉者。ど、どうしてここに。な、なんでもないぞ。邪魔だからどっか行ってろ。
「なんかある事ない事いろいろ言われてた気がするんだけど〜」
 ……勘のいい奴だ。まるで野生動物だな、姉者は。
「そんなとこで1人でぶつぶつ言ってないで、たまには外に遊びに行ったらいいのに」
 この馬鹿姉め……っ。そんな友達がいないから1人でぶつぶつ呟いて……いや、そうじゃない。そこらの普段何も考えずに生きている人間と一緒にいる方がアタシにとって不健全だ。こうしている方がよっぽど健全なのだ。
「あははは。そんな事言ってるから仄はいつまでたっても友達ができないんだよ〜。それに偉そうなこと言ってる割に、最近までおねしょ――」
 って、わあああああああああ!!!! そ、それは言うなーーーっ! こっ、この馬鹿姉ええええええええええ!!!!
「うわぁっ! 仄が怒った〜〜〜〜っ! きゃああああ〜〜」
 待てーっっっ! 馬鹿姉ーーーーっっ!
 わっと……そっ、そういうわけで今回はここまでだっ。またなっ。


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