ヒーローズ

prologue

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

モノローグ

 
 幼い頃、憧れていたものがあった。
 それは今の時代絶滅したと言ってもいい、熱くて素直で真っ直ぐな男だった。
 正義の味方とは少し違う。だけど悪とも違う。ヒーローと言えるようなものじゃないかもしれない。ただ、それでも自分を信じて、迷わないかっこよさが好きだった。見ていていつも心が晴れ晴れした。だからきっと、それこそが正義なのだと思った。それがヒーローなのだと思った。
 しかし――具体的にその憧れの対象が誰を指しているのかは知らなかった。忘れてしまったのではない。初めから知らなかったのだ。だったら一体それは誰なのか。いや、そもそもそんな人間なんていないのかもしれない。実在している人間でなく、特撮やアニメで見たキャラクターなのかもしれないし、或いは具体的な存在すらどこにもなくて、ただそういった記号を持った複数のキャラクターが混合してできた、自分のイメージによって創りあげられた脳内だけの存在なのかもしれない。
 きっとこれは男の子が持つ、普遍で不変の憧れの理想像なのだろう。少年の願望の象徴なのだろう。そう思った。だから形なんて必要ないのだ。
 いずれにせよその正体は分からないのだから、もはやそれはどこにも存在しないと言っても過言ではないのだ。
 だけれども、一つだけ確かに言える事は――かつて彼はその存在に対して確かに憧れを抱いていたし、そしてその幻想を追いかけていたのだ。





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