ヒーローズ

終章 終わりなき終わり

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 
 光のトンネルを抜けてフォルス・ステージへと降り立った碧之と煤利は、目の前に広がっている光景を見て絶句した。
 そこは以前碧之がストレィに連れ去られて来た森の中で、すぐ前には小屋。丁度今立っている場所が、前回現実世界へ戻る際にトンネルのあった場所だった。だけど、そこは前回とは大きく様子が異なっていた。
 周りには大勢の人間。その人間達が森の木々を伐採していた。逃げ惑う獣や鳥たち。至る所から炎と煙が上がっている。遠くの方から争うような声が聞こえてきた。
「ひどい……これはどうなっているんだっ?」
 碧之は顔を歪める。
 ストレィは言っていた。この美しい森を守りたいと、壊されたくないと。
 けれどストレィが好きだったその森は、もはや――滅びようとしていた。
「悪趣味ね。どうやら戦いはもう始まっているみたい」
 煤利も憤りを隠せない様子だ。
 2人はその場で立ち止まったまま、苦渋の顔で森の様子を窺っていると、やがて2人が通ってきた光のトンネルは消えた。そして、その直後――。まるでタイミングを伺っていたかのように小屋の扉が開いた。
「あ……」
 碧之は目が釘付けになった。
 もしかしてストレィなのかもしれない。少しの間だけだったが、この小屋でストレィと過ごした時間を碧之は思い出した。
 だけど、小屋の中から姿を現したのは当然ストレィではなく――。
「なっ、あ……あなた達、いったい何者ですかっ!? どっ、どうしてこんな場所に!? まっ、まさかレジスタンスっ……」
 12歳くらいの小さな女の子だった。随分とゴージャスなドレスに身を包んでいる。
 女の子は茫然と碧之と煤利の方を交互に眺めて、そして再び碧之の顔をじっくりと見つめて、何かに気付いたように目を大きく見開いた。
「……って、あなた!? ま、まさかクウガさんですかっ!?」
 女の子は驚愕の表情を浮かべて叫んだ。
「え? ……っていうかオレ?」
 なぜか碧之の名前を知っている少女。派手なドレスに身を包んで、長く伸ばされた金髪がロールしている。まるで王女様みたいな出で立ちだった。その王女様が碧之の元に走り寄ってくる。
「知り合いなの? 宮臥」
「いや、全然」
 碧之も煤利も状況が分からず、ぽかんとしている。
「や、やっぱりそうだ。写真で見た顔にそっくり! やっぱりあなたクウガさんだ! クウガさん戻ってきてくれたんですね!」
 碧之の元まで来た少女は、その手を取って興奮気味にはしゃいだ。高級感溢れるとてもいい香りが碧之の鼻腔をついた。
「あの、オレここに来るのは初めてなんだけど、誰かと勘違いしてるんじゃ」
 全く持って身に覚えのない話だったけど、名前まで同じなのが不思議だ。碧之が難色を示していると少女の顔色はますます変わっていった。
「そ、そうか……記憶をなくしているんだったわ……。そうだ! さ、さっそくお祖母様に報告しないとっ!」
 少女は碧之の手を握ったまま小屋の中へ連れて行こうとする。
「ちょ、ちょっと待ってくれよっ。どういう事だよ! 説明してくれよ!」
「だいじょぶ。事情は分かってますから。説明は後。とにかくついてきて下さい!」
 少女に手を引かれて碧之は無理矢理小屋の中へと引きずられていく。
「それじゃあ宮臥。私はここで待ってるから頑張ってきてね」
 煤利は腕を組みながら、引きずられていく碧之を冷めた目で見送る。
「っていうか一緒に来てくれないのかよ! 見てないで助けてぇ!」
「ほら、2人でのこのこ行くよりも万が一の時に備えて一人はここに残っておいた方がいいでしょ。何か重要な話があるみたいだし、心置きなく話してきなさい」
 燃えるような髪をたなびかせながら煤利はそっけなく答えた。成程そういう考えがあったのか、と引きずられつつ碧之は納得した。
「……っていうか面倒くさいし」
 ぽつりと煤利は言った。
「本音出ちゃったよ! しっかり耳に届いちゃったよ!」
 引き返そうかとも思ったけれど時すでに遅し、碧之は小屋の中に連行されて、そのまま扉は閉ざされた。
「お祖母様っ、外で宮臥さんを見つけました! 本物です、救世主さまですよ!」
 王女みたいな少女は粗末な小屋の中に入るなり叫んだ。小屋の中には、これまたゴージャスなドレスを着た1人の老婆。老婆は少女の言葉に衝撃を受けた顔をしている。
 そして老婆は唖然とした顔で、うわごとを言うように言葉を紡いだ。
「ああ……あなたは、本当に……クウガさま……ですのね。救世主さま……」
 何気に老婆はとんでもない台詞を放った。
「あなたは……? というか救世主?」
 勿論碧之はこんな派手な格好をした老婆なんて知らない。そして勿論救世主でもない。
「おうおう。こんなに老けてしまったら顔を見ても分からないでしょうなあ」
 老婆は破顔した。顔の皺がくちゃくちゃになった。多分この人は女王とかそういう身分の高い人間なのだ、と碧之は直感的に悟る。老婆の笑顔にはそう思わせるものがある。
「お祖母様、救世主さまは記憶をなくされているみたいです。混乱されていますわ」
 いつの間にか、老婆の隣には碧之を小屋に連行したドレスの少女がぴたりと佇んでいた。似たような格好をしている2人。きっとこの子は老婆の孫なのだ、ならこの子はやっぱり王女様なのだ、と碧之は思った。
 老婆は慈しむような目を碧之に向けたまま懐かしむように語る。
「それに比べクウガさまはあの頃とちっとも変わりませんねぇ……いえ、少したくましい顔つきになっておりますわね……それに体も大きくなってます。ですが、クウガさまはクウガさまのままです。ほほほ、なんだかあたくしまであの頃に戻った気持ちになりますわ。今でも昨日の事のようにありありと覚えていますよ……あの冒険の日々を……」
 老婆は遠い目をして視線を窓の外へと向けた。
「人の話をちっとも聞いていませんね、お祖母様」
 派手なドレスの少女はやれやれといった感じで頭を振った。
「そ、それよりも教えて下さいっ。なぜオレの事を知っているのですか?」
 耐えきれなくなって碧之は説明を要求する。さすがに高貴な人物を前にして、碧之も敬語を使わざるを得なかった。しかし――、
「まあまあ、随分大人しくなりましたねクウガさん。あなたはもっと豪快にして大胆、直情的で直進的なお方だったではありませんか。遠慮なさらずもっとフランクリーに話して構いませんのよ」
 老婆は、まるで碧之とは旧知の仲であるかのような口ぶりだ。いや、少なくとも老婆にとっては旧知の仲なのかもしれないが。
「そ、そうっすか……で、どうしてあなた達はオレの事を知っているんだ?」
 遠慮なく言葉を正す碧之。ストレィを救出しに来たのに、なぜこんな事になっているのだろうとため息を吐きたくなった。
「それは、あなたが以前ここを訪れた事があるからですよ」
 老婆は眼を細めて笑みを浮かべながらも、いたって真面目な顔で言う。もしかしてこの老婆はボケているのではないのだろうかと碧之は思った。
「そ、そんなのオレは知らない。覚えていない」
 動揺気味に碧之は否定する。
「それは、あなたがこの世界を去る時に、ここでの記憶を全て失ったからです」
 煤利が言っていた――現実世界のプレイヤーがフォルス・ステージで死ねば、フォルス・ステージの記憶を全て失って現実に帰還するというルールがあることを。
 ならば碧之はもっと前からフォルス・ステージの事を知っていて、行き来していたのだろうか? だけど今それを確かめる術はない。とりあえずはこの問題を後回しにした。
「わ、分かった。まあオレがここを訪れた事があるってのは信じてもいいけど……救世主てのはなんなんだ? オレは何をしたんだ?」
 その事が分からない。煤利と別れた後に出会った風雲は言っていた。カロン国には伝説があると。その伝説は救世主が再びカロン国に訪れるという内容だ。
「クウガさま。あなたはこの世界を終わりから救ったのです」
「終わり……?」
 そのような事も風雲は言っていた気がする。
「しかし、その影響であなたはこの世界の記憶を全て失って現実世界へと戻らねばならない状況に追い込まれたのです。そして、あなたは現実世界へと戻られました」
 それは知らなかった。老婆はまだ続ける。
「ですが破滅は終わったわけではないのです。いま再び危機が訪れようとしてます」
 老婆は遠い目をして長い息を吐いた。疲れが溜まっているように見えた。
「それで……かつてオレが世界を救った話っていつの事なんだ?」
 風雲の話が正しければそれは――。
「それは――50年以上前の事になりますねえ」
 やはりそうだった。
「あの時のあたくしは、まだ花も恥じらう乙女でした……丁度この子と同じくらいの歳でしたねぇ」
 老婆は隣に立つ少女を見つめた。
 老婆がなにやら勝手に回想に入ったみたいなので、碧之は頭の中で話をじっくり整理することにした。この世界での50年といえば、ざっと見積もれば現実では2年ぐらいの経過だ。その頃に碧之は既にこちらの世界を訪れていたというのか。まだ中学生の頃だ。
「……とにかく、久しぶりにあなたにお会いできてあたくしは光栄です」
 回想が終わったのか、老婆は満足したように微笑んだ。だけど碧之には何が何だか分からない。そもそもここに来たのはこんな老婆と話すためではないのだ。
「ちなみに……アンタはいったい、誰なんだ?」
 まだ老婆の名前を聞いていなかった碧之。すっかり老婆のペースに翻弄されていた。
 老婆は思い出したように笑い声を上げて、咳をして、姿勢を正して、厳粛に言った。
「おっほっほ、これはあたくしとしたことが失礼しました。自己紹介がまだでしたね……ずっとクウガさんに再会できる事をお待ちしていました。あたくしは、カロン国女王、ニルマーニ・ヴァイ・カロン。こちらにいます子はあたくしの孫、ネローニアですわ」
 老婆は丁寧にお辞儀した。その横では少女――ネローニア――も礼儀正しくペコリと頭を下げていた。
 カロン国。それはセイヴァ達レジスタンスが戦っている相手であり、現在ストレィを捕らえているという国。そして目の前の老婆は、その国の統治者。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ……そ、それじゃアンタ達がカロン国の連中で……つまり今、この森を滅茶苦茶にしてるのって……」
 碧之は頭が真っ白になる。思考回路が上手く働かない。
「……ええ、そうです。我が国の軍です。だけど仕方ありません……あたくし達も不本意なのですよ。彼らが抵抗さえしなければこんな状況にはならなかったし……それに、世界の進歩に多少の犠牲は必要ですのよ」
 老婆は悲しそうな顔をして言ったが、けれどもそれは何の悪気もないような顔だった。少なくとも碧之にはそう思えた。
「そ、そんな勝手なことってあるかよ! 進歩進歩って、ただ自分達の欲望を満たしたいだけじゃねえか! そんな自己中心的な理由で壊していいものなんて何もないだろ!」
 だから碧之は叫んでいた。それはフォルス・ステージの碧之の性格だからとかじゃなかった。碧之宮臥として叫ぶ。
「な、何を言ってるんです、あなたはかつてあたくし達を救ってくれたではありませんか……さあ、もう一度あたくし達カロンをお救い下さい。手を貸して下さいっ」
 老婆――カロン女王は激しく狼狽える。碧之の反応が予想外だったようだ。
「手を貸すってのはつまり、セイヴァの組織を潰せって事だろ」
 碧之は低い声で言う。
「そ、そうです……彼らはこの世界の脅威となっています。だから救世主であるあなたは彼らを打倒しなければいけないのですッ」
 カロン女王は開き直ったようにまくし立てる。だけど、碧之の信念は変わらない。
「残念だが……オレは救世主じゃないし、たとえ救世主であってもオレはこの世界を救う救世主だ。オレは……アンタ達を救いに来たんじゃねえ」
 その言葉にカロン女王と孫のネローニアは一瞬身をすくませる。
「では……あなたはあたくし達の敵となるのですか? あなた達もテロリストに手を貸すと言うのですか? あなたがテロリストより先にあたくしに会っていたらきっとこうはならなかったはずです。だってあなたは以前はあたくし達の救世主だったから! それだけの違いで、今度はあたくし達の敵となってテロリストに荷担するのですね!?」
 カロン女王は感情的に叫んだ。自分の歳を忘れたかのように。まるで少女のように。
「……そうじゃない。オレは誰の味方でもない。オレはオレのやりたいようにやるだけだ。そこに立ちふさがる誰かがいるなら、オレはどんな壁だって乗り越えてやるさ」
 碧之は自分の姿をなぞられていた。自らが憧れる幻想に。どこにも存在しない存在に自分を重ね合わせて。だからもう、碧之には迷いなんてなかった。
 碧之の答えに対して、カロン女王はがっくりと肩を落としてうなだれた。しかし。
「ふ……ふふ……」
 うなだれたまま、次第に肩をわななかせて微笑し始めた。
「……なにがおかしい?」
 碧之は警戒心を持ってくぐもった声で訊く。
「無駄ですわ。もう止められません……テロリストはほぼ壊滅状態です。それに今頃はもう、世界の中心で扉が開かれようとしています。彼が全てをやってくれています。まもなく世界の真理は彼によって開かれます。あなたが今更何をしたところで間に合いませんわ。あなたがいなくてもあたくし達だけで世界は救います……あは、あははは……」
 カロン女王は焦点の定まらない瞳で碧之を見つめて、壊れたように笑った。
「お、お祖母様……」
 隣ではネローニアがその様子を見て怯えていた。
 しかしカロン女王の言葉を聞いた碧之は、怯むどころかむしろ高笑いしたくなった。こんな、とってつけたようなシチュエーションにゾクゾクした。これはつまり、クライマックスの舞台が整ったと言うことなのだ。もうこれはオレに阻止しろと言ってるようなものだと思えた。倒すべき敵がいてくれるのだ。だから――碧之は叫ぶ。
「んなの、やってみなくちゃ分かんねーだろ! だって……オレは救世主なんだろ? だったら――奇跡くらい起こしてみせるさ」
「く、クウガさま……」
 カロン女王はピタリと笑いを止めて、情けない顔をした。
「そんじゃ……あばよ、女王様」
 そして、碧之は身を翻して小屋の外へと出ようとする。
「くっ、クウガさまっ! どこへっ!?」
 カロン女王は顔を情けない顔を歪ませながら碧之を呼び止める。
「当たり前だろ、いっちょ世界を救いに行ってやるよッ。その、彼の元になッ!」
「そ、そんな……場所も分からないのにっ」
「分かるさ。いや……分からないがオレの魂が体を動かしてくれる。本能が進め進めとオレに叫ぶ。だからオレは突っ走る!」
「なっ……ま、待っ――」
 碧之は扉を開けて小屋の外へ出た。
「おかえりなさい、宮臥」
 そこには煤利がいた。
「ああ、ただいま……って、え?」
 煤利に目を配らせた後、周囲の異常に気付いて碧之は驚いた。
「貴様ら……何者だっ」
 小屋の周りには、2人を取り囲むように西洋甲冑のような鎧を着た大勢の兵士の姿。
「ちっ……くそ! なんだよ、これは!」
 兵士達は今にも襲いかからんとする勢いであった。軽く十数人はいる。
「どうやら私達、取り囲まれたようなの。どうする宮臥?」
 煤利は燃えるような瞳を宮臥に向けて平然とした表情で尋ねる。
 だが――そんな質問、宮臥にとっては愚問だ。
「そんなこと分かってんだろ。行くぜ、相棒ッ」
「ひゅ〜、かっこいぃ〜」
 2人は背中を合わせて構えをとった。
 そして同時に――剣やヤリを持った兵士達が一斉に襲ってきた。
「だッ、あああッッ!!」
 碧之は一番近くにいた兵士を殴る。兵士の体は大きく飛ばされ、後方にいた兵士達も巻き込んで森の中へ弾き飛ぶ。これが上位世界の力の差。
 それを見た兵士達は碧之の力におののいたが、今度は煤利に向かって突撃を始めた。
「ふんっ……私がこの男より弱いと判断されるなんて……最低の屈辱だわッ」
 煤利は高く跳び上がる。その姿は華麗で、煤利に見とれる兵士さえいた。そのまま煤利の体は落下し――着地したと思った瞬間、煤利の近くにいた兵士達が次々と倒れた。
「――無限無銃拳」
 ポーズを決めたまま、煤利は呟いた。
「なっ、なんだこいつらは……化け物だぁ……」
 残った兵士達はすっかり戦意喪失していた。武器を地面に落としておろおろ混乱している。
「ふん、こんなの準備運動にもならなかったわね……さぁ行きましょうか、宮臥」
 兵士達に目もくれずに、赤い髪を振り払う煤利。
「ああ。行こうぜ」
 最終決戦の地へと足を向けようとする2人。すると――。
「まっ、待って下さい、クウガさまっ!」
 小屋の中から呼び止める声。そこから姿を現したのはカロン女王。
「女王さま……」
 碧之は立ち止まってカロン女王に視線を向ける。
「くっ、クウガさま! 行かないで下さい。あたくしは……」
 彼女にもはや女王としての威厳は感じられなかった。そこにいたのはただの1人の老婆。いや……かつて少女だった儚い夢追い人。
「悪いな、女王様。今回のオレはアンタの救世主にはなれないみたいだ」
 碧之は憐れむように老婆を一瞥した後、背中を向けてこの場を去った。

 カロン女王を残して2人は森の中心地にある、湖へと走る――。
 そうだ。世界の中心地、白い遺跡の中心部。湖に沈むあの遺跡に全てがある、碧之は確信していた。あの場所こそがラストに相応しい舞台だ。
 燃え上がる炎の中、木々の間を高速で走る。ところどころで争う人々の姿があった。きっとカロン国の兵士とセイヴァの組織の人間だろう。時々、碧之達に攻撃を加えようとする人間がいたが、2人はそれをものともせずに軽く払いのけながらひたすら走った。誰よりも速く、光のように。
 そして――碧之と煤利は辿り着いた。森の中心にある湖。奥深くに沈んでいるものは白い建造物。この世界のあちこちにあった遺跡群の中心地。
 湖を囲むようにして立っている人物達がいた。
「ハァッ……はッアッ。遅っせぇ〜んだよォお、下僕がぁアア」
 贄冶刀烏夜こと、セイヴァ。両手それぞれに剣を持つその姿は満身創痍で、立っているだけでやっとだという状態だった。
「おや〜、あなたはぁ……?」
 セイヴァに対峙するように、湖の反対側に立つ旅人――風雲。仙人のような格好でへらへらした笑顔を浮かべていた。
「…………」
 風雲の傍には体を縄で縛られて、苦しそうに倒れているストレィ・ショットの姿。どうやら気絶しているようだ。
 そしてセイヴァと風雲の間。湖の中から顔を出し、禍々しく唸っている怪物がいた。それは――以前煤利と共に戦い、碧之がこの世界を放浪する原因になった――ヘビのような巨大な怪物。
「ふしゅううううううううぅぅぅぅるっるるるるぅぅぅぅ……」
 その光景に碧之は思わず笑いたくなる。これはまさに――おあつらえ向きのシーン。
「よう、戻ってきたぜ……オレが今から救世主になってやるよ」
 やはりゲームならこういう展開がなくっちゃな。
 碧之と煤利は拳を構えて拳銃を構えた。


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