アクター×アウター 〜演じる彼女と目立たぬ彼女〜

第2章 演者

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

3

 
 芹奈が立ち去り、誰もいない歩道橋の上に1人取り残された鳴海。
 鳴海も反対側の階段を下って、帰り道を歩いて、そして誰もいない公園に立ち寄った。
「…………」
 気まぐれで立ち寄った公園。鳴海は適当にブランコに腰を降ろして、ぐるぐる揺られていた。
 何も考えずにぐるぐるぐるぐる。当然何も答えが見つからないままどれ位時間が経っただろうか、日が傾き始めた頃になって鳴海が立ち上がろうとしたら――。
「ちょっと待たれよ」
 すぐ横から、透きとおった女性の声が聞こえてきた。
「……え。待たれよ?」
 声の主を確認しようと横を向いて、鳴海は驚いた。
 いつの間にか隣には、鳴海と同じように、ブランコに乗った1人の少女がいて、
「少し話を聞きたいのだがよろしいか?」
 と。ジャンプしてブランコから飛び降りた少女。彼女は鳴海と同い年くらいの女の子なのだが――驚くべきはその格好。全身真っ黒の、スーツ姿だった。
「その……何ですか」
 茫然としながらも鳴海もブランコから降り、あからさまに怪しい少女に用件を聞いた。
「最近この辺りで起こっている事件について少し調べているのだが……連続首絞め事件だ。聞いたことないか?」
 少女はまるで男のような話し方で尋ねてきた。
 連続首絞め事件……その話なら鳴海も聞いていた。
 夜道を1人で歩いていると突如現れて首を絞めるという通り魔の事だ。
 被害者は老若男女無差別に襲われていて、学校の教師達も夜は出歩かないようにと注意していた。
「まぁ一応、噂話程度にだったら知ってるけど……」
 でも鳴海は今、それどころじゃない状況なのだ。芹奈との関係をこれからどうしていくか、それだけだった。
「……フン。やはりそんなところか。まぁ仕方がない。霧宮(きりみや)も引力の弱い、脇役的人間を狙って声をかけているのだからな。物語の内側に入らないように気を配るというのも難しいものだ。まったく」
 少女は意味不明な事をぶつぶつ呟いていて、鳴海には何の話なのか全く理解できなかったけど……なんとなく馬鹿にされているような気がした。
「あ、あのう……話が終わったんならもう行っていいかな……?」
「ん? ああ、もう行っていいぞ。貴様も夜道には気を付けろよ。貴様みたいな人間は被害者くらいの役回りがピッタリ当てはまってるからな」
 やはり意味の分からないことをのたまう少女。
 あまり関わっちゃいけない人物だなと、鳴海は公園を出ようとすると。
「ところで――もう一つ聞いてもよいか?」
 少女は突然思いついたように瞳を大きく開いて、鳴海を引きとめた。
「え、なに?」
「貴様は霧宮を見てどう思う? 霧宮は目立っていないよな? 特徴的ではないよな?」
 ひょっとして霧宮というのは自分自身の事を指しているのだろうか。だとしたら相当に変わり者だなと鳴海は思って、素直な感想を伝える。
「いや……思いっきり特徴的だと思うんだけど」
「んなっ……なんだとぉっ!? 目立たぬように黒のスーツまで着用しているというのに! 言葉遣いだって無個性で地味な感じを演出しているのにっ! 特徴を付けさせない為に感情だって常に押し殺しているというのにぃいい!!!!???」
「いや、なんかツッコミどころがいっぱいあって、どう言えば分からないけど……かなりキャラ強いと思うよ……」
「なっっ? なななななっ!? 霧宮のどこが悪いというのだっ!? いや、それともこの物語の研究がまだまだ不足していたかっ……一度キャラを考えなおさなければっ」
 よく分からないけど、少女はもの凄くショックを受けているようだった。あと、その服装も言葉遣いもバリバリ個性的じゃん鳴海は思った。感情思いっきり剥き出しにしてるじゃんと思った。でも――この少女とこれ以上関わるのは危険だと判断した鳴海は。
「……あっ、でもよく見たら結構地味って感じがするよっ。無個性で特徴も全然ないみたい。いや〜、君って印象薄いな〜。全然存在に気付かなかったよ〜。うっかりしてたら姿まで見えなくなりそうだよ〜」
 鳴海は適当なことを言ってその場をしのごうとした。
 でもさすがにあからさま過ぎたかなぁ、と少女の方をチラリと伺うと。
「え、えぇ〜。そ、そうかぁ? 霧宮ってそんなに印象が薄いかぁ〜。はっはっは。そうかそうか。そりゃそうだろう。外側に立つ者として当たり前の事だからなぁ。ははははは〜」
 もの凄く上機嫌そうだった。単純だ。
 だが普通、印象が薄いとか没個性とか言われたら傷つくはずなのに、この少女は何を考えているのだろうかと、鳴海は不気味に思う。
「あ、あははは……それは良かったね……」
「で、少年。ちなみに霧宮のどの辺が地味だと思う? 貴様の意見を聞かせてくれ」
「は、はい〜っっ?」
 少女はまたも鳴海を困らせる面倒臭い質問をぶつけてきた。
 そもそも少女は地味じゃないからそんなん言えるわけない。
 困り果てた鳴海は、
「えと、あっ。そろそろ塾の時間だ! それじゃさようなら、存在感ゼロの人!」
 はめてもいない腕時計を見つめる動作をして、そのままダッシュでその場から逃げ出した。
 後ろから少女の呼び止める声が聞こえてきた気がするが、少女の存在に気付かないフリをして、ただただ走った。
 勿論こんなやり取りは、芹奈から手渡された原稿には書かれていない。
 しかしこの打ち合わせされていない日常は、とても非日常でとても刺激的でエンタメティックなイベントだった。


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