アクター×アウター 〜演じる彼女と目立たぬ彼女〜

第一章 開幕

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

幕間劇

 
 千本ヶ谷(せんぼんがや)学園。中等部と高等部で編成されたこの学園は、巨大なマンモス学校である。
 生徒数は中等部高等部を合わせて三千人近くいる。
 これだけ多い人数が一度に集結する学園だから、当然その数を収容できるくらいに建物は大きくて、そして数も多い。
 人が多ければ噂話などの類も多い。
 そして他のどの学校にも存在するように、この千本ヶ谷学園も例に漏れず七不思議というものが存在する。
 その1つが『開かずの生徒会室』。それは名前の通り、生徒はおろか教師に至っても存在を把握していない部屋があるといった話だ。その部屋は、普段使われている生徒会室とは別の、隠されたもう一つの部屋であるという話だ。
 この伝説が生まれたのは、きっとこの学園の広大な敷地と巨大な建物群によるところと、生徒会メンバーが普段から、生徒会室にあまりいないことからできた噂だろう――というのが、伝説の正体の見解だった。
 しょせんは学校の都市伝説。七不思議が真実である事など、ゼロに等しいのだ。
 ――そしてここは、学園の中にある、とある一室。
 一般の生徒はこの部屋の存在を知らないし、教師達も知らない。この部屋は限られた人間のみが入る事を許されている。
「――生徒会のために!」
 薄暗くて、やたらと広い部屋の中に立つ3人の生徒が、声を合わせて一斉に叫んだ。
 そして部屋の真ん中にある大きなテーブルを囲んで、3人は椅子に座った。
「なんだ。集まったのはたった3人なのか……首絞め事件などという物騒な事件が起こっているというのに。まったく」
 長身で長髪の彫りの深い美男子――この学園の生徒会長を勤める奏上大賀が、まず口を開いた。
「そうね……きっとそんなのは、取るに足らない些細な事件だからよ」
 副生徒会長の橘陽菜が優雅な動作で長い髪を払って言った。
「ですが――取るに足らない些細な事件だとしても、さすがに3人というのは酷い話ですねぇ。首絞め事件……そんなにどうでもいい事件だって事なんでしょうかねぇ」
 童顔で、小柄。真っ直ぐ揃えた前髪。そしてネックレスや指輪など、体中のいたるところに付けたアクセサリーの数々が特徴の人物が、まるで女子のような高い声をあげる。
 彼の名前は川切落花(かわぎりらっか)。
 一見すると女子のようにも見えるが、れっきとした男性で、生徒会で会計を勤めている。
「川切よ、だからと言ってこのまま放置しておくワケにもいかないだろう?」
 まとめ役である生徒会長・奏上大賀が、余裕をもった口ぶりで川切をたしなめた。
「何か対応策を考えない限り、被害は拡大していくだけでしょうね」
 と、橘陽菜は言って、そして意味深げに奏上の方を見て、
「もし彼女にきっかけを与えた人物がいたとしたら――どうするの?」
 との発言に、奏上はしばらくの間黙りこんで、やがて不機嫌そうな顔をして言った。
「当たり前だ。彼女から手を引いてもらう……ただちにな」
「……それでも嫌だと言ったら?」
 陽菜の言葉に、奏上は不敵に笑みを浮かべた。
「ふふ……何を言う。その為の決闘だろ?」
「わぁ。さすが生徒会長さんだぁ」
 横から川切が茶々を入れるように口を挟んだ。
 陽菜は、何か言いたそうな顔をしたけれど黙ったままでいた。
「動向に注意しよう……何が彼女を変えたのか。誰が彼女を変えたのか……」
 組んだ手の上に顎を乗せた奏上が、険しい顔をしてじっと、真っ直ぐ前を見つめて言った。
 ――秘密の部屋で、秘密の密会は行われる。
 そう。七不思議の1つ、誰も知らないもう一つの生徒会室は存在していた――。
 限られた者しか入れないこの部屋では日々、生徒達や教師陣には知られてはならないような会議が秘かに行われている。
 やがて本日の会議が終わって、奏上大賀が立ち上がると、橘陽菜と川切落花もそれに習って起立した。
 奏上が、
「全ては――」
 掛け声をあげると、
「世界を我々の手にするために!」
 3人は声を揃えて合唱した。
 そして今日の集会が解散し、陽菜と川切が出て行くと、部屋には奏上大賀1人が残された。
 誰も知らない秘密の部屋の中で立ち尽くす彼は、誰にともなく小さく呟いた。
「……芹奈」


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