コミケ探偵事件録

第4章 夏コミ3日目

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

6

 
 会場はコミックマーケット始まって以来、前代未聞の事態に陥った。
 企業ブース内のトイレで発生した毒ガス。
 場内は大混乱となり、男女問わず建物にいる全ての人間が我先にと出口へと向かう。
 人が人を押しのけ、人が人を倒し、人が人を罵倒する。
 それはまさに、例の同人誌に書かれていたとおりの光景だった。
 僕の耳に、館内放送の声が繰り返し流れているのが微かに聞こえてくる。
『ただいま館内で非常事態が発生しました。コミックマーケット参加者の皆様は係員の指示に従って、慌てずに、落ち着いて、すみやかに避難して下さい。繰り返します……』
 しかし、もはやスタッフがどうにかできる状況じゃなかった。むしろ使命を放棄して逃げているスタッフすらいる始末だ。
 さっきまで近くにいたヤス子さんとも、この騒ぎではぐれてしまっていた。
 僕は彼女の身が心配だったけど、それよりもまず自分の身が大事だった。
 僕は決死の思いで外に出た。真夏の真昼時の灼熱の炎天下。だけど今はそれが天国に思えるくらいの爽快感と開放感だった。
 見渡してみれば、騒ぎは西館全体に広がってるらしく――下の方でももの凄い騒音が聞こえてきた。
 この分だと東館でも同じ事態になっているに違いない。いや……このビッグサイト全体が未曾有の状況に巻き込まれているだろう。
 人がたくさん転げ落ちていく階段を、僕はなんとか無事に降りて、ビッグサイト入り口の広場まで来ると。
「おーい、鷹弥、鷹弥ーっ」
 大げさな動作でぴょんぴょん飛び跳ねながら、僕に手を振る伊乃の姿が見えた。
「って……い、伊乃っ? お、お前いつの間に……てか今までどこにいたんだっ?」
 伊乃を見た瞬間、僕はすぐに彼女の元へと走る。それこそ人の波をかき分けていくように。
「現場にいたよ。企業ブースのトイレに」
 僕の心配もよそに、伊乃はあっけらかんと答えた。
「そ、そっかお前も見てたのか……」
 僕はなんとなく悲しい気分になった。きっと、伊乃も屍体を直接見るのは初めてだろう。
 これが、探偵という仕事につきまとう呪い……。
 しかし今は感傷に浸っている場合じゃない。僕達が安藤先輩と同じ道を辿る事になる。
「色々言いたい事はあるだろうけど、今は少しでもここから離れるべきだ! さぁ!」
 と、僕が伊乃の手を引っ張るが――しかし、伊乃は動かなかった。
「い、伊乃。どうしたんだ……?」
 僕は伊乃の行動に戸惑う。僕達の周りでは、大勢の人達が駅の方へ走っている姿があった。
「うん……。確かに私達はすぐにでも行くべきだよ。でも鷹弥――行く場所は、そっちじゃないよ」
 そう言って、伊乃はビッグサイトの建物の方を見た。
「な、行くってどこに……まさか?」
 僕は建物内から滝水のように人が次々とあふれ出てくる様子を見ながら尋ねる。
 あの会場内に戻ると言うのか? 毒ガスが蔓延し、十何万もの人間が死の恐怖に怯え本能のままに狂っている、あのパンデミックの中心に。
 伊乃は――珍しくいやにシリアスに、シニカルな声で言った。

「もちろん――犯人のところだよ」

「…………な、なにっ? はっ犯人っ? お前、犯人が分かったのかっ? でもっ。ちょっ、ちょっと待てっ……でもっ、でも今はそれどころじゃっ! 分かってんのかよ、毒ガスだぞっ、毒ガスッッッッ」
 僕は伊乃の唐突な衝撃発言に冷静さを失った。
 けれど、しかし――自分の命が危険な時に犯人もへったくれもない。何を考えてるんだ。
 なのに。伊乃はいつものような顔で、いつものような笑顔を僕に向けたから……僕は少し冷静になった。
「落ち着いて……鷹弥。そもそもね、これは毒ガスなんかじゃないよ」
 その声は母親が赤ん坊をあやすような、とても穏やかなものだった。……って。え? なんだって?
「……な、に。ど……毒ガスじゃ、ない?」
 僕はまたまた驚かされる。驚かさせられすぎてポカンとなった。
「そうだよ。考えてもみてよ。小説に書かれていた毒ガスはものすっごく致死性の高いものだったでしょ? でもさ、鷹弥は見た? ――毒ガスで倒れた人を」
「あ――」
 見ていない。というかそもそも致死性の高い猛毒なら、あの時トイレにいた僕は死んでいてもおかしくないはずなのにこうしてピンピンしてる。
「そうだよ。たぶんあのガスは色をつけただけの……たぶん制汗スプレーだと思う。ま、そんな非現実的なことそうそう起こらないよ。……そういうワケだから会場内は全然大丈夫。兄さんにもそれは伝えたから、警察とスタッフさんが騒ぎを収め始めてると思うよ」
 収めている、と言ってる割にこっちは世界最後の日みたいなことになってるぞ。てかそもそも警官の姿が見えない。
「は、服部さんは何か言ってたかっ? ここには警察官が全然いないじゃないかっ」
 僕が問い詰めると、伊乃は「あぁ、そっかぁ……鷹弥は知らないはずだもんね」と、事情の分からない僕に、警官のいない理由を説明する。
「いやぁ……犯人は賢いよ。実はね、鷹弥。警察の人達はね、ついさっきまで東館で発生した不審火に気を取られてたんだよ」
「え? 不審火っ? なんだそれっ!?」
 そんなの、いま初めて聞いた。
「うん、スタッフが東館の外に設置してあるゴミ箱から煙が出てるのが見つかってね。もしかしたらそれが毒ガスかもしれないって事になって、兄さんや警察の人が大勢集まって調べたら……ただのタバコの不始末だったんだよ」
「タバコ……まさか……それは犯人のトラップ? 東館に警察を集めるための」
 やっぱり僕の推測は正しかった。犯人の本当の狙いは西館にあった。
 東館で発生した紫煙。きっかけ。それは――ただのタバコの不始末。でもそれが……それこそがきっかけなんだ。小説に書かれた通りだったんだ。
「鷹弥も気付いてたんだね。さすが私の助手。それなら話が早い」
 じゃあ私達も行こうか――と、伊乃はまるで、滝を昇っていく魚のように人の洪水の中を進んで行った。
「って、ちょっと待てって! それでもこの大混乱の中むやみに動くのは危険だって! 怪我するぞ!」
 僕は暴走する伊乃に追いつき、その肩をつかむ。
「ねぇ、鷹弥。今回の一連の事件……仮に夏コミ事件て事にしとくけど、おかしな事がいっぱいあったよね? 無茶苦茶でバラバラな事件の中で――その中心にあるのってなんだと思う?」
 伊乃は僕の制止も聞かず、人混みの中を逆流していく。
「え? 中心? なに言ってるんだ……今は――」
「今回の事件のポイントはね……これまで起こった事件の中で、犯人が本当にやりたかった事は何なのか――ていう点だよ」
「それって……犯人の目的?」
 気付けば、僕は伊乃の話に飲み込まれていた。
 そして、僕達はビッグサイトの建物内に入っていた。もう後戻りはできない。
「そう、目的。犯人の目的は1つで、つまり他の事件は全てカモフラージュなんだよ」
 無秩序だった事件の数々。ただ僕達が翻弄するのを楽しむ事だけを目的としているように見えた出来事の連続。でもそこには犯人の目的があった。それは……?
「それは……このパニックを引き起こしたかったんじゃないのか?」
「違うよ。だって毒ガスは嘘だったんだもん。これもカモフラージュのひとつに過ぎなかったんだよ。これまでの事件の中で1つだけ異質なものがあるよね?」
 伊乃は沢山の人とぶつかりながらも、東館へと続く廊下を渡っていく。僕もついていく。
「まさか伊乃……それは」
「そう。安藤虎兎殺人事件――。これだけが他と比べて異質なんだよ。起こりえない事が実際に起こったんだよ。一見するとその直後の毒ガスに目が行きがちだけど、逆にそれが安藤虎兎殺人事件をごまかすためって主張してるようなもんだよね」
「じゃあ全て、安藤先輩を殺害するためにあったっていうのか? 昨日と今日の同人誌も、一連の事件も」
「……うん。まぁ、少なくとも殺人事件を成立させるために他の事件があったのは確かだね……」
 なぜだか歯切れ悪く答える伊乃。気になったけど、伊乃はさっさと次の説明に入った。
「じゃあまず昨日の同人誌について。私達のこれまでの行動がずっと書かれていたのは、同人誌の内容に信憑性を持たせるためなの。たぶん相当努力して私達の行動を調べ上げて漫画を描いたんだろうね。でもその努力が実った結果、私達はいやでも同人誌に注目する事になった」
 なるほど……僕達が謎の同人誌を恐れるようになったのは、僕達の今までが正確に描写されてたから。逆にいうとそれがなかったら、あんな同人誌誰も相手にしなかった。
「問題は次なの。――私達の未来について描かれていたこと。これはミステリーだよね。でもね、予知なんて絶対に不可能なの。ということは……あれは予知じゃない。全て予想。でも予知として描いたんだから、描いたものはその通りにしないといけない。だから犯人は私達の傍にいて、私達を小説のとおりの行動に持っていくように仕向けていただろうね。そうじゃないとせっかく築いた信憑性を損なうことになるから」
 これが昨日の同人誌の正体。僕達の信頼を得るための内容。でも……そうだとしたら1つ気になることがある。決定的な失敗が。
「それじゃあ伊乃……切断事件は一体なんだったんだ? あれこそ実現してないだろ?」
 あれこそ昨日の同人誌の中身で一番のハイライトだったはずだ。なのに、あの事件だけが見当はずれだった。最後の最後で全くの嘘だった。色んな意味で異質だった。そして、あの事件のせいで僕はみんなに迷惑をかけることになった。
「実はね鷹弥。あの事件こそ殺人事件のカモフラージュのためにあったんだよ。カモフラージュその1だね。……鷹弥、あの事件が起こった事によってその後、何が変わったか分かる?」
「え……変わったことか? あの事件のせいで僕は突っ走ってしまって、そして服部さんに……あっ」
 昨日と今日で、決定的な違いがあった。
「そうだよ。兄さんは上の人達からの信用を失って、警官の人数を減らされたでしょ? だから今日は少ない警官の人数で警備にあたっていた」
「……僕はまんまとはめられたのか」
 まさか僕達は犯人の手の内で踊らされていて、そして僕は服部さんをおとしめる為に必死になっていたなんて。
「それにまだあるよ。兄さんの信用を落とすのと同時に、犯人は自身の信用も落としたんだ。そうすることで犯人は3日目に動きやすくなるでしょ?」
 犯人の信用がなくなる事で行動の幅が増える……。
「そうかっ。もし昨日の同人誌の内容が完全な予言だったら、毒ガス事件にも真実味が沸くことになる。そうなれば警察上層部だって黙っていない。絶対に夏コミの警戒は厳しくなるし、いや……そもそも確実にコミケ自体が中止になっていたはずっ」
 くそっ……最初の同人誌の狙いは、初めから警官の人数を減らすことと、自分自身の信用を落とすことだったのか……。
「そして今日の同人誌の内容だね。これはさっきも言った通り、安藤虎兎殺人のために用意されていた。警官達の注目を東館に集めて、殺人事件を西で起こし、そして毒ガス……」
「ちょ、ちょっと待って伊乃っ……」
 僕はそこに疑問点があったので伊乃の説明を遮った。
「犯人の目的が殺人事件にあるなら……安藤先輩を殺した時点でもう目的は達成されてるんじゃ? その後に毒ガスを噴出させて注目を逸らす必要なんてないんじゃ……」
 犯人が逃げるためとか? いや、そんな事しなくても無数の人の中に姿を隠すことは簡単にできるはず。僕達がトイレに行った時も既に犯人は逃げた後だったみたいだし……。
「ううん、毒ガスに意味はあるんだよ。注目を逸らせる事は多いに意味があるんだよ。覚えてる、鷹弥。安藤虎兎が倒れていた時のことを。その時の姿を」
 僕は思い出す。あの時の忌々しい光景を。仰向けになってこちらに顔を向けていた。ショッキングな状況。その姿の異質だった。
「あ――安藤先輩はコスプレ衣装に身を包んでいた……あれ? なんでコスプレしてたんだ? 服部さんが荷物を調べた時、そんなものはなかったし……いつ着替えたんだ。どこから調達したんだっ」
 いや、それとも……犯人が用意して、安藤先輩を殺した後にそれを着せたのか? 安藤虎兎のコスプレ。これにどんな意味があるのか。
「ねぇ、鷹弥。そのコスプレ衣装ってどんなだったっけ」
 伊乃は誘導尋問のように僕に問い尋ねた。
「あ、えと、ドレスだ。純白の豪華なドレスで、胸にナイフが突き刺さってた。ドレスが血まみれになってたっ。でもなんで女装なんかっ……」
 僕は周りに人が沢山いるにも関わらず声を大きくして伊乃に訊く。
「安藤虎兎がコスプレしてたのには意味があるんだよ。そして、それがこの事件のトリックになってるんだ」
「事件のトリックに……?」
「そう。そしてここからが難しいんだよ……なぜ犯人は安藤虎兎殺人事件を起こしたか。なぜガスをまいたのか。私が思っている事が正しかったらこの事件は……たんなる喜劇でしかないよ。いや、ブロードウェイミュージカルかな。いや、どっちかっていうと宝塚かな。なんだろ」
「い、いや……なに言ってるんだ……?」
「もうすぐ分かるよ。あともう一つのポイントは――どうやって犯人は今日、机の上に同人誌を置いたのか、だよ」
 伊乃がそう言った瞬間――急に人波の混雑が収まり、視界が広くなった。
 長い廊下を渡りきって、僕達はようやく東館に入ったのだ。
 東館の方は服部さんや警官も大勢いたおかげか、西館と比べて混乱は少なく、人の数もだいぶ少なくなっていた。
「で、でも伊乃……。今日のお前少し無茶しすぎだぞ……どうしてここまでやるんだよ」
 ようやく少し落ち着いて、僕は立ち止まり声を落として言った。
 事件のことももちろん大切だけど、でも僕はそれよりも伊乃の方が大事なんだ。
「…………」
 僕につられるように伊乃も立ち止まり、彼女は僕の目を見ようとしないで、顔を逸らしていた。
「僕は怒っているんだぞ、伊乃」
 僕は両手で伊乃の肩をつかみ、頭1つ分低い伊乃に視線の高さを合わせる。そして彼女の顔をまっすぐ見た。
 伊乃はびくりと一瞬体を跳ねさせてから、さっきまでとはうって変わった自信のない声をあげた。
「だって、だって私は……」
 その言葉は濁った川のように消滅した。
 だから僕が、代わりに口を開ける。
「……分かってるよ、お前が月子ちゃんのために頑張ってるってことは。でもな……それでお前が危ない目に遭ったら本末転倒だろ。そんなの月子ちゃんだって望んでないし……それに、僕も許さないぞ。僕は……お前を失いたくないんだ!」
 僕はつい感情にまかせて胸のうちのものを吐き出してしまった。
 しばらく時が止まった。僕はただ、じっと伊乃を見つめる。
 伊乃は顔を伏せて、申し訳なさそうに声をあげた。
「鷹弥……私は、私だってホントは怖いの。さっきだってホントは鷹弥と一緒に家に帰りたいって思ってたの。そしていつもみたいにダラダラと、とりとめのない話をしたかったの。……でも、私は逃げたくなかった。ここで私が逃げちゃったら、それで私のこの事件は終わっちゃう……この探偵物語は破綻して、探偵物語として成立しなくなっちゃう。それじゃ私は探偵失格。探偵じゃない私に月子を見つけられるわけない……。だから私は……名探偵として戦わなきゃいけないの」
 伊乃の鼻をすする音が聞こえた。その小さな肩はひくひく震えている。
「…………」
 僕は何も言えなかった。僕は――情けなかった。
 こういう時に何も言えないのなら、僕が伊乃をどうこう言う資格なんてないのに。
「……ごめん。私の勝手な我が侭に鷹弥を巻き込んで。鷹弥まで危険に巻き込んじゃってる。私、やっぱり弱いな」
 伊乃の瞳から、一筋の涙が頬を伝ってこぼれ落ちた。
 僕は、口を開いた。
「伊乃。昨夜言ってたよな……昔の話。ミステリアスムーンの話」
「え……? いきなりどうしたの、鷹弥……」
「――ミステリアスムーンはどんな謎でも解決する。いつも最後には笑って勝つ。でも、ミステリアスムーンが勝つのは最後なんだ。事件の謎を解くための全てのフラグを手に入れないと終わらせられないんだ。それまでミステリアスムーンは何も分からないし何もできない最弱の存在。だから途中で、いつも失敗ばかりする。でもミステリアスムーンは1人じゃない。いつも傍に頼もしい相棒がいる。心が折れそうになった時はいつも相棒が支えてくれる。そして相棒は解決に導く何かを与えてくれる。それでミステリアスムーンは無敵になって、最後はハッピーエンドで物語は終わるんだ」
 僕達がまだ小さかった頃、僕がいつも話していた物語。僕が創ったヒーローの話。
「た、鷹弥……覚えてたんだね」
 僕の瞳をまっすぐ見つめる伊乃は、笑顔だった。
 当たり前だ。
 だってあの頃は僕と伊乃と月子ちゃんの3人がいて、最高の時間だったんだ。僕達3人で1つの、最強のミステリアスムーンだったんだ。
 忘れるわけないだろう。
「……行こう、伊乃。そして僕達で一緒にこのふざけた物語を終わらせよう」
「――うんっ」



 一時は阿鼻叫喚と化したコミケ会場だったが、その混乱は徐々に収束しつつあった。
 今やビッグサイト内に残っている人間はほとんどいない。
 みんな避難したのだろう。
 今はまるで、3日前の設営日に来た時のような静謐な空間へと姿を変えていた。今日が夏コミ最終日だとは思えない程に静かになったビッグサイト。
 僕と伊乃は東館のホールに入った。
 そこは伽藍堂としていた。人の姿は数える程しかいない。セミの声も届かない静謐なる空間だった。綺麗に並べられていた机や椅子は乱れに乱れている。地面には無数の同人誌がそこら中に落ちている。
 まるで台風が通った後のようだった。混乱の様子がありありと思い浮かぶ。
 僕と伊乃は机や椅子をかき分けながら進んで行く。
 そして僕達は自分達のサークルスペースに辿り着いた。今朝、謎の同人誌が置いてあった机は倒れていて、周辺に今日販売する予定だった本が散らばっていた。
「なに、どうしたの?」
 そこにいた人物は、僕達に声をかけてきた。
 伊乃はその人物に指差して、答えた。
「犯人はあなただ――」


 ヤス子さん。


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