僕の邪気眼がハーレムを形成する!

始まりの日

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

プロローグ 覚醒

 
 世の中がひっくり返るくらいの劇的な変化というものは、いつも突然発生する。
 5億年以上前のカンブリア紀の初期。それまで生物達がほとんどいなかった地球に、ある時なんの前触れもなくほぼ全ての生物体制が出そろった。いわゆるカンブリア大爆発。
 コペルニクス的転換。地球が太陽の周りを回っているという地動説を唱えるまでは、地球が宇宙の中心であると多くの者が信じ込んでいた。今まで正しいと信じてきたものが一瞬にして覆された。
 20008年9月15日。アメリカの投資銀行リーマン・ブラザーズが突如破綻した。それをきっかけにして世界中が一気に不況へ陥り、日本経済の景気後退がますます加速した。
 そして2011年3月11日に発生した未曾有の大震災。
 今までの常識を一変させるような事件――それは誰もが予見できない。それは誰もが感知できない。
 ただ1つ……変化そのものである本人を除いては。

 それは授業中のことだった。
 窓の外に広がる夏の透きとおった青空を見ていた僕は、突然目に痛みを覚えた。
「――っ!?」
 なんの前触れもない痛み。眼球がズキズキする。
「……ぃて」
 わけの分からない痛みに思わず目を押さえる僕。
 教師も周りのクラスメイト達も気付いてないけど……先生に言って保健室に行くべきだろうか。痛みに堪えながら僕は悩む。
 が、しかしそうしている間も痛みはますます激しくなり……これはもしや病気か?
「うううぅぅ……」
 思わず呻くほどの痛み。これは本気でやばいかもしれない。
 すると――美人だけど性格がきつい、婚期を逃した四十路女教師の立川先生が僕の異変に気付いたらしく、
「どうした、柳木? 体調が悪いなら保健室に行ってきなさい」
 怪訝そうな目つきで僕の方をじっと見つめる行き遅れ教師。
 ここは立川先生の好意に甘える事にしようと、僕は席を立ち上がる。
「そ……それじゃあちょっと行ってきます」
 と、立ち上がったのはいいのだけど……その瞬間。なぜか唐突に、目の痛みが治まった。
「え、あれ……」
 むしろ、今までの痛みがまるで嘘だったかのように、眼球自体に心地よささえ感じる。
 僕は立川先生の顔を見たまま、謎の現象にしばし茫然としていた。
「突っ立ったままどうしたんだ、柳木。今日はもう家に……はぁぁぁぁっん」
 ――突然のことだった。立川先生の奇声。
 そして僕と目を合わせていた先生の鋭い瞳が、なぜかみるみるとろんと垂れ下がっていき、発熱したかのように顔が赤く染まっていった。
「……はぁ、はぁ、はぁ」
 なんだか呼吸まで荒くなってる。これは僕じゃなくて立川先生が保健室に行くべきじゃないの? と思った。
「ざわざわざわ……」
 と、クラスメイト達も不審そうに立川先生を見ている。
 立川先生の身にいったい何があったのか。
 美人だけど四十路で、婚期を逃して、密かに男子生徒を狙っていると一部から噂されている現国教師の立川先生。
 その彼女が僕の目をみつめたまま、自分の人差し指をくわえ、およそ今まで僕が聞いた事のないような色っぽい声で――、
「うふふ……なんて可愛い坊やなのかしら……食べちゃいたいわぁ〜」
 体をくねくねさせながら、僕に対して言った。
 教室に流れていた時間が止まった。

 ――それが僕が邪気眼に目覚めた瞬間で。
 そしてその時の立川先生の姿が頭から離れない僕は、しばらく悪夢にうなされる事になった。


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