僕の邪気眼がハーレムを形成する!
回想
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
夏の日
ぼくはその一歩を踏み出すことができなかった。
きっと彼女はぼくを待っているはずだった。朝、いつものようにぼくが起こしに来るものだと信じているに違いなかった。ぼくに会えるのを楽しみにしているはずだった。
でも――ぼくの足はどうしても動かない。
ぼくはこれまで、どんなふうな顔をして彼女に会っていたのか、どうしても思い出せない。
この瞬間もうぼくは、今までのように彼女と接することができないと分かった。
それは大げさなことかもしれないけど、気にしすぎなだけかもしれないけど……彼女がいなくなったことで重荷がなくなったと思ってしまったのは――本当なんだ。
だからぼくは1人で坂道を登っていった。セミの声とギラギラに照りつける太陽を背景に、歩いた。
そして彼女の家から遠ざかっていくぼくは、ふと足を止めて後ろを振り返った。
その時、ぼくは幻をみた。
ぼくが選ばなかった分岐点を進むぼく。彼女を起こしに玄関のチャイムを押しにいくぼく。
だけどその姿は、すぐに陽炎となって消えていってしまった。
それは、とても暑い夏の朝だった。