僕の邪気眼がハーレムを形成する!

第5章 仲間

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 もう終わりだ。
 リア充部は崩壊。僕の信用と好感は、皮肉なことに僕の邪気眼の副作用によって地に落ちた。没落。
 やっぱり僕なんかがいくらもがいたところで誰も助けてくれないし、何も変える事はできないんだ。
 午後の授業を茫然と過ごす僕。窓の外を眺めると、白い鳥が飛んでいるのが見えた。夏の青空に浮かぶ夏雲の色に混じように飛ぶ鳥。……なんとなくその姿に僕は憧れる。
 僕は何にも混じることができずに、大切な何かも見つけられずに、ただいびつな色を放っている。それでも、僕ならきっと何でもできるって根拠のない自信をもって、全部中途半端で。
 できなくて当然なのかもしれない。自分のことを何も分かっちゃいないのだから。
 僕が欲しかったもの、大切にしたかったもの、なりたかったもの。
 気付けば、本日の授業全てが終了したことを告げるチャイムが鳴っていた。
 今夜12時に僕は氷河苫との決戦を迎える。僕は未だ勝算もなく、まったく準備ができずにいた。
「おーい、九郎。どうしたんだ今日は? なんだかいつにも増して全然元気ないぞ」
 前の席から野太い声が聞こえてきたと思ったら、クラスメイトの贄丈哉だった。
「ああ……うん。ちょっと今、トラブルを抱えてるんだ。僕1人では解決することが難しいトラブルを……」
 しかし1人で解決するしかない。邪気眼を使って無理矢理協力者を作るという手もあったが、そういう事に邪気眼を使うのはもう嫌だった。少なくとも、この戦いだけはそういう手を使うのは躊躇われた。だから、僕は1人で立ち向かう。
 そろそろ帰ろうかと、僕は席を立とうと思ったら、贄が言った。
「なに言ってんだ、お前? そんなの簡単なことだろ?」
 贄が不思議そうな顔をして僕を見る。迷っていた僕が馬鹿だったと言わんばかりの間抜けな顔だった。でも、僕にはとてもじゃないが浮かばない。
「そ、それは……?」
「いや――助けてもらえばいいんだよ」
 本当にそんな問題、些細なことだと言わんばかりの、そんなキッパリした声だった。
「で、でも助けてもらうって、そんな人がいないからっ――」
「水くさいなぁ〜。オレがいるだろ?」
「あっ……」
 僕は言葉に詰まった。贄丈哉。僕は彼の事をうっとしいと思っていた。いつも馴れ馴れしく話しかけてくる彼を避けていた。僕には……彼の心が分からなかった。
「な、なんでお前はそこまで僕の事を……」
 以前1度だけ誤って邪気眼をかけた事があるけど、もう効果は切れているはずだ。どうしてこんな僕を気にかけてくれる。僕に手を差し伸べるのは何故だ。何のメリットがあるんだ。
「――だってオレ達は親友じゃねえか」
 その一言で、頭の中にあったモヤモヤしたもの全てが霧散していくのを感じた。
「贄――実は相談があるんだ」
 僕は、贄に助けを求めた。

 ――贄の協力により、僕の頭の中で氷河苫の『固定』の邪気眼を破る秘策が組み上がる。
 そして秘策を万全のものにするために、僕はある仕掛けを施すことにした。それを成功させる為には彼女の協力が必要だ。
 だから僕の足は次に、長田野あすかの元へと向かっていた。
「長田野さん……ちょっと話があるんだけど、いいかな?」
 僕はケータイをいじっている長田野さんに話しかける。
「……ん? なによ?」
 僕に声をかけられて不機嫌そうに長田野さんは顔を上げた。
 クラスの男子を馬鹿にしている長田野さん。ちょっと怖いイメージのある長田野さん。邪気眼がない頃の僕だったら好きこのんで近づくことなんてなかった長田野さん。
「実は僕、君に頼みたいことがあるんだ」
 僕は勇気を振り絞って声を出す。今の僕はあの頃の僕そのものだ。
 あるいは邪気眼を使えば、いつものように簡単に話は進むかもしれない。
 だけど今、邪気眼を使うのは嘘だ。僕は決して使わない。使わずに仲間を集めだす。
 長田野さんはしばらく僕の顔を怪訝そうに見ていたけど、やがて口を開いた。
「一応聞くけど……アタシに言ってんのよね? アタシが誰だか知りながら」
「ああ、知ってるよ。長田野あすかさん。男子をみくだしている長田野さん。でも僕はそれを承知で君に頼んでいるんだ。僕にはどうしても君の力が必要なんだ」
 始めから駄目もとだ。やらないで後悔するよりも、僕はやって後悔する方を選ぶ。
 僕は確固たる決意を秘めた表情で長田野さんに面と向かう。
 長田野さんはいつもの僕と違う、覚悟を決めた僕の気持ちを悟ったのか。
「……何か事情があるみたいね。いいわよ、手伝ってあげるわよ」
 ケータイをしまいながら、長田野さんは優しい感じの表情になって言った。
「……理由は聞かないの?」
「いらないわよ。だっていつも言ってるでしょ。アタシはアンタの事について興味なんてないって」
 そう素っ気なく答えて、でもどことなく照れているようにも見えた長田野さんの顔。
「興味ないのに、僕に協力してくれるの?」
 いつも邪気眼の実験台に使っていた長田野さん。長田野さんとは邪気眼抜きでは関わることなんてほとんどなかったのに。邪気眼抜きでは関わりようがないと思っていたのに。
「困ったときはお互い様。クラスメイトのよしみよ。今回だけは特別だからね?」
 本当に……邪気眼なんて必要なかったんだ。
 僕はいつから他人を避けるようになって、他人に怯えるようになったんだろう。それは全部、自分から逃げていただけなんじゃないのか。
 邪気眼は、僕の心の弱さが生み出したものかもしれない。だったら、僕にはもうこの力は必要ないものなのかもしれない。
 だけど――最後に僕は邪気眼を使うことになるだろう。今夜の戦いで。


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