僕の邪気眼がハーレムを形成する!

第4章 ハーレム系主人公

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

1

 
 日常生活充実クラブ。通称リア充部のメンバーがついに5人揃った。
 そういうわけで翌日の昼休み。僕は早速、部活動の申請をするために再び生徒会室まで訪れた。
「今日、生徒会長は学校を休んでらっしゃる。俺が代わりに訊こう。何の用だ?」
 眼鏡をかけた七三分けの神経質そうな男――副生徒会長がピリピリした声で言った。
「そうですか……休みなんですか」
 氷河苫が学校を欠席……。僕の魅了に抗おうとして無理がたたったか。
 だが、氷河苫には悪いがその方が好都合だ。僕は部活新設の件を話すと、副生徒会長は顔を曇らせて訝しそうに僕を見たが、規定は全て満たしているので、渋々と了承して証明書に判子を押した。
「だがな、柳木1年生! あと他に生活指導の教師の許可も取らなければいけないのだぞ! 生徒会の許可は規定を満たしていれば取れるが、教師の場合はこう簡単にはいかない! お前達のような部活が果たして認められ……」
「そんじゃ失礼しまーす」
 なんか長くなりそうなので、僕は生徒会室の扉を開けて出て行った。
「って人の話は最後まで聞けえええ!!」
 生徒会室の中から副会長の声が虚しく反響していた。

 というわけで、僕はそのままさっそく部活設立の許可を貰う為に職員室に訪れた。
「ふ〜ん……日常生活充実クラブね。確かに生徒会の許可は貰ってあるようだけど……う〜ん」
 行き遅れと影で囁かれる現国教師・立川先生が首を捻って熟考している。
 彼女は実は生活指導の先生でもあり……僕の邪気眼の記念すべき最初の犠牲者でもある。
 よりによって立川先生か……苦手だな。
「こんな目的が不明瞭な部活……やっぱりなかなか、ねぇ?」
 部員5人という条件はクリアしてるからすんなりOKしてくれるものだと思っていたけど、やはり現実はそこまで甘くないのか。
 でも逆に、この先生が相手というのはやりやすいかもしれない。僕が邪気眼に目覚めて一番最初に犠牲になった人物。僕に心を許してしまった先生なのだから。
「そこをなんとか……ね、先生」
 僕は息を吹きかけるような、囁き声で言った。色仕掛け的な。
 とたん、立川先生は顔を赤くした。
「こ、こほん……ま、部としては残念ながら認められないけど、まずは同好会からっていうなら……」
 立川先生は手で長い髪を軽く払って、チラチラ僕の方を伺う。
 って、なにその気になってるの! やめて、僕をそんな風にみないでっ! で、でもこれもリア充部のためだ……我慢するんだ、柳木九郎っ!
「そ……そうですか。同好会……」
 僕は全身に鳥肌を立てながらも、深刻な顔を作って頷いた。
 ――邪気眼を使っても、時間の経過と共にその効果は消えていく。
 だけど立川先生のように、まれに効果が持続しているケースもあるのだ。それは恐らく元々が僕に対して好意があったのではと推測している。現に立川先生は四十路で行き遅れだから男子生徒を狙っているという噂もあった。だからこの推理は正しいと僕は思っている。
「そ、そんな残念そうな顔しないの、柳木君っ。同好会でも立派な部活動なのよ。それに成果を出せば部に昇格することだって可能なんだからね」
 僕が黙って考えていたら、立川先生はいきなり僕を励ますような事を言って人差し指を立ててウインクした。うっひゃあ! 四十路のウインク! でも美人だからギリギリ許そう。
「ですね……同好会でも認めて貰えただけありがたく思わないとですね」
 よく考えれば、僕はただ自分のハーレムが創れればそれでいいのだ。部でも同好会でも大した問題じゃないのだ。
 くくくく……なんにしても日常生活充実クラブはここに誕生した。もう誰も僕を止められないッ!
「……ん? どうかしたの、柳木君? なんかぼーっとしてるけど……熱でもある?」
 普段生徒に厳しい立川先生のこの優しさが、僕の背筋を凍り付かせる。
「あ、いえ……気のせいです」
 僕は立川先生に礼を言って職員室をそそくさと出て行った。


 そして放課後になって、僕達『日常生活充実クラブ』の面々が立川先生の元に集まったわけだけど。
「ごめんごめんっ。お待たせしたみたいだねっ」
 遅れて到着した弥生ちゃん。そういえばいつも彼女は最後に到着するイメージがあるけど……可愛い女の子はやっぱり身支度に時間がかかるもんなのかな。
「気にするなよ、弥生ちゃん。さ、それより部員も揃ったわけだし……先生」
 僕は立川先生の方を見た。
「そうね。顧問はとりあえずは私がなっておいてあげるって事で……それじゃ部室の方に案内するわ……」
 立川先生はそう言うと、どこかに向かって歩き出した。今は他の生徒がいる手前、デレモードは封印しているようだ。その方が僕にとってありがたい。
 で、僕達5人は立川先生の後を追って進んで行く。ぐんぐん進んで行く。校舎の奥深いところへと足を踏み入れていく。
「って、どこまで行くんだっ」
 ――なんか行ったことのないような場所にまで来てしまった。
「わぁ……学校にこんなところがあるなんて、ボク知らなかったや」
「…まるで迷宮」
「迷いそうですぅ〜」
 まさにダンジョンって感じ。
「なんか出てきそうだね……九郎」
「あんまりくっつくなよ、珠洲」
「ひゃっ!? だれ!? いまボクのお尻を触った人、だれっ!?」
 弥生ちゃんの声が突然響いた。いや、俺じゃないよ。
「…ふふ。ごめんなさい。狭いから偶然当たったみたい…不可抗力ね」
 それは此花さんの声。闇に乗じてなんてことを……。うらやま……いやっ、けしからんっ!
「はわっ! わ、わたしも触られましたぁ〜。誰ですか〜」
 一ノ宮さんまでセクハラ地獄のえじきに!?
「…さぁ、狭いから私には分からないけど…加瀬川さんじゃないの」
 そう言う此花さんが犯人だと僕は思うけど。しかも人のせいにしてるし。
「えっ! わ、私!? なんでここで私なのっ!?」
「…さっきからずっと黙ってるから。…口べた?」
「って、此花さん! それは言わないであげて! 珠洲のか弱い心が傷つくから言わないであげて! これは珠洲にとって禁句なんだよっ!」
 黙って大人しくしていようと思っていた僕も、思わずツッコミを入れてた。しかもよりにもよってクラスで1番無口で存在感がないと言われている此花さんに言われるなんて。
「う、うう……九郎まで……ひどい、ひどいよぉ〜」
「し、しまった! つい僕としたことが!」
 全然フォローになってなかった。むしろ火に油的な?
「く、九郎のばかっ」
「わわっ……加瀬川さんっ。それボクのお尻だよっ!」
「あっ。ご、ごめん、弥生さん! じゃあこっち」
「ひゃあ〜〜っ。わ、わたしの胸を触っちゃ嫌ですぅ〜」
 って、さっきから何をやってるんだ、あんた達!
 だんだん状況がカオス状態になってきた時、立川先生の声が聞こえた。
「あなた達みんな仲がいいのね。どうやらこの同好会、上手くやっていけそうね。でもほら、もう着いたわよ」
 と、徐々に暗闇が光に飲み込まれ、辺りに景色が取り戻される。
 いったい僕達はどんなところを歩いていたのだろうと思うくらいの怪しい場所を抜けて――その先には古びた扉があった。
「ここが部室……ですか」
「そうよ。ほら、入ってみて」
 立川先生に招かれるように僕達が扉を開けて中に入ると。
「うわっ! すっげー汚ねえ!」
 部屋の中は埃まみれで、壁や天井や床は今にも崩れそうなくらいボロボロだった。そして足の踏み場もないくらいに様々なものが散らかっている。
「ふ、不潔ですぅ〜」
「う〜ん、ボクもこれはちょっと……」
 一ノ宮さんと弥生ちゃんの言う通りだ。先生、これはいったいどういうことなんだ!
「誰も使わないからここは長らく物置になってたんだけど……掃除とか適当にこの部屋を掃除して、あとは基本的に自由に使って構わないわ」
「それってただ掃除するのが面倒くさいから僕達に管理してもらおうってだけなんじゃ!?」
 これじゃただ働きだよ! ただの罰ゲームだよ!
「まあまあ、せっかく使ってない教室があるんだから、どうせだし有効活用しないとね」
 立川先生はそう言うと、僕達に手を振って逃げるように去っていった。
 ………………。
 僕達5人はとっても汚い部屋の前に立ち尽くしたまま、しばらく茫然としていた。
「ど、どうするの……九郎。もう帰る?」
 珠洲が心底帰りたそうな空気を出しながら言った。
 というか僕もその他のみんなも気持ちは一緒だろう。
「そうだね……仕方ないけど、みんなも同じ気持ちみたいだし……ね、一ノ宮さん」
 僕は隣に立っている一ノ宮さんに顔を向けると、彼女は、
「さっ。掃除を始めましょお〜!」
 と、拳を振り上げて言った。
「やっぱりそうだな。ここは掃除――掃除〜〜ぃ? するの!? 掃除!? この部屋をっ!? 足の踏み場もないようなこの部屋をっ!?」
「頑張りましょう〜! 九郎くんが」
「って、え……僕がっ!? え、なんで僕だけ掃除するみたいな言い方!?」
「…さすが部長。嫌な仕事を自ら引き受けるとは」
「柳木くん……男の中の男だよ。ボク、見直したよっ」
 なんかちゃっかり便乗している人が約2名。
「ひどいっ! 僕を貶めようとしてる! ちょっとイジメに入ってる!?」
 まずい。なんかこれから先の僕の立ち位置が決定づけされようとしている! ここで僕が折れてしまったら、これから先ハーレムであるはずの集まりがパシリ地獄の日々になってしまう。
 もしや……一ノ宮さんはこの事を見越しての発言だったのかっ!? 最初から計算尽くで、僕を自分の奴隷にしたいと考えてるんじゃ!? いつもホワホワして、無害そうな可愛い顔をしてるのに実はとんでもない悪女!?
 い、いや……そんなことない。きっと僕が気にしすぎているだけだ。一ノ宮さんはそんな事考えるような少女じゃなあないッ!
「ほら、さっさと片付けやがれです。犬」
「人以下の存在として見なされてるううううっ! 怖いっ! 一ノ宮さん怖いよっ!」
「すいません。うっかり間違えました」
「嘘だ! いったい僕の何を間違えて今の台詞っっっ!?」
 くぅ〜……絶対こんど邪気眼にかけてやって、その考えを修正してやるからな!
「九郎、落ち着きなよ。みんな冗談で言ってるだけだよ。ほら、私も手伝うから……一緒に掃除しよ?」
 あまりにも僕が不憫に思えてきたのか、帰りたい帰りたい言ってた珠洲がまさかの方向転換。
「え、そうなの…分かったわ、加瀬川さんが手伝うなら…仕方ないから私も手伝うわ」
「あ……じゃあボクもっ」
「……ち。そうですね〜。みんなで掃除した方が楽しいですから、やりましょ〜」
 みんなもうって変わって急に優しくなった。でも一ノ宮さん。君、いま舌打ちしたよね? 聞こえてたよ。ホントは冗談じゃなくてマジで僕1人に掃除させる気だったんだね。
 ……やっぱり女の子って怖い。邪気眼がなかったら絶対しゃべれない。
「ありがとうみんな――じゃあ掃除……しよっか」
 僕は人間不信度をさらに向上させながらも、ガラクタと埃だらけの部屋に入って掃除する事にした。

 ――約2時間後。太陽がだいぶ傾き、窓の外が暗くなり始めた頃。
 5人もいるから思った以上に掃除ははかどって……くれると思ったのだけど、部屋の中は2時間前とほとんど変わらない有様だった。
 それというのも……。
「夏だからどこか遊びに行きたいですねぇ〜」
 一ノ宮さんがほんわかした口ぶりで頬に手を添えて言った。
「遊びに……って、それって何も活動してないじゃないか。そんな調子じゃ同好会すら廃止だよ?」
 弥生ちゃんが真面目な反論をする。
 でも僕としては真面目に掃除をしてほしい。この部屋を部室として一刻も早く利用できるようにしたいのに……なんで雑談に花が咲いてるの?
「そ、そうだよっ。学校の活動なんだよ。遊んでるんじゃないんだよっ」
 そして人見知りの珠洲までもが会話に参入してるし。なに、もしかして友達作りを頑張ろうっていうのか。だったら頑張れ、珠洲。
 いや……でも珠洲の事だ、そんな考えするはずない。彼女の思惑はもっと違うところにある。
「珠洲。本心は?」
 僕はすかさずそれを問いただす。
「遊びに行くの面倒くさいし、私は引きこもってプンプン動画にアップしなくちゃいけないんだよ――はっ!?」
「内なる思いを全部打ち明けちゃったな」
 やれやれと、僕は苦笑いする。そんな事だろうとは思ってたけど。
「…………」
 一ノ宮さんも此花さんも弥生ちゃんも、みんな表情を引きつらせている。可哀相な珠洲。ますますみんなとの距離が遠ざかる。
 すると弥生ちゃんが空気を変えようと、太陽のような眩しい笑顔を浮かべて僕に言った。
「でも柳木君。リア充部なんだから課外活動ということでそれもいいんじゃないかな。夏だから海とかね」
「う……海っっっ!?」
 僕は弥生ちゃんにみとれながら、ぴこーん、と脳裏に確たる未来の情景が去来した。


 〜〜〜そう、これは確実に訪れるであろう僕達の未来〜〜〜
 そこは夏の海の情景。水着姿の僕と弥生ちゃんが追いかけっこしている。
「うふふ、うふふふふ〜。九郎く〜ん、ボクをつかまえてごらんなさ〜い」
「あはは、あはははは〜。待てよ〜弥生〜。転んでもしらないぞ〜」
「大丈夫だよ〜。転んでも下は砂だし、それに……」
「それに?」
「きゃっ……!」
「大丈夫っ!? 弥生ちゃん! ほらみろ。だから転ぶぞって言ったのに……ほら、つかまれ」
「あ、ありがとう。九郎くん……」
「まったく弥生は世話がかかるな。それで……何を言いかけたんだ? それに、の続き」
「……それに、九郎くんはこうやっていつでもボクを支えてくれるから……九郎くん」
「や、弥生……?」
「九郎くん……」
「……弥生」
 ざざーん。
 〜〜〜2人の唇と唇が優しく重なり、2人の愛と愛が深く混じり合った〜〜〜

「……ねぇ、九郎。九郎ってば。なにぼーっとしてんの」
 気が付けば、僕の体を珠洲が揺すっていた。
「ざざ〜ん……はっ! こ、ここは海じゃない!? あれ? 弥生はっ!? 僕の弥生っ!」
 僕がキョロキョロと頭を動かすと、まもなく視界に弥生ちゃんがいて。
「え、ボクならここにいるけど……? ていうか……え?」
 不思議そうな顔をしている弥生ちゃんは、しかし先程までの水着姿ではなかった。
「あ、あれっ……どうして。弥生……ちゃん」
「どうしてって何がだい? ボクの方こそどうしたんだいって感じなんだけど」
 弥生ちゃんも他の部員も怪訝な顔で僕を見ていた。
 ……ちょっと待て。なにかおかしいぞ。だってここは海なんじゃ……って海じゃねーよ! ここ部室だよ! さっきの全部妄想だったよ!
「い、いや……なんでもないんだ。なんでもないけど……よし! 遊びに行こう! これも立派な課外活動だ!」
 僕は部長として力強く宣言した。今の妄想がみんなに知られたら確実に部長の座を失脚だろう。むしろ部活設立と同時に退部だろう。
「さっすが柳木君」
 弥生ちゃんが嬉しそうに微笑んだ。
 そして他にも微笑んでいる人物が1名。
「…夏の課外活動。そこで育まれる禁断の愛…これはいけるッ!」
 なにを想像しているのか、部屋の端の方で不気味に微笑む此花さん。なにがいけるの? 禁断の愛ってどこにあるの?
「やったぁ〜。なんだか楽しそうになってきましたぁ〜。どこに行くか考えないとですね〜」
 と言って何やら紙に文字を書き始めた一ノ宮さん。予定でも書いてるの?
「……え〜、やだなぁ……」
 みんなとは対称的に、1人だけ不満そうにしている珠洲。テンションが他の3人と反比例。ほんと、協調性というものがまるでなっていない幼なじみだ。逆になんでこの部活に入った?
「できましたぁ〜。あみだくじですぅ〜」
 1人文句言ってる珠洲を放置して、一ノ宮さんは紙きれをボク達に提示した。
「これは?」
 訊くまでもなく、それはあみだくじだったけど。
「夏の課外活動で何するかをあみだくじで決めるんです〜」
「いや、僕まだやるって言ってないんだけど……」
 ていうかこんな事してないで掃除しろよとは思うんだが、僕は空気が読める人間なので渋々ながら一応話にはのってやる事にした。いや……別に下心があるとか、弥生ちゃんの水着姿が見たいとかそんなんじゃないからな!
 勝手に1人で自分を納得させながらラインナップを見てみるとそこには……。
「海、山、合宿、カラオケ、ファミレス、九郎くんの家、ハワイ……ってええ、何個かツッコミたいものが入ってるんだけどっ!? ハワイとか無理じゃね!? それよりも……僕の家ってなんなの!? 全然楽しくなさそうなんだけど!」
「他に思いつかなかったんですぅ。でもハワイなら大丈夫ですよぉ〜。そこに別荘がありますからぁ〜」
「ここで一ノ宮さん、まさかのお嬢様設定! いや、それっぽい感じだけれども!!」
 今日1番の驚き。一ノ宮さんにはこれから注目せざるを得ない。なんて素晴らしき逸材。
「わ、わ……ハワイってホントにいいのかい? くじでこんなこと決めても」
 弥生ちゃんも瞳をキラキラさせて興奮している。
「さぁ、これは部長の九郎くんが選びましょう〜」
 一ノ宮さんはあみだくじの書かれた紙を折り曲げて、僕の前に掲げる。
 責任重大じゃん。
「……見ていてくれ、弥生ちゃん。いま、僕がハワイを引き当てるからな」
 そして2人で浜辺の追いかけっこ。愛を育んでいこうじゃないか。
「ふふふ…ホモォですね、ありがとうございます」
 此花さんも期待してるのだろう。ホモォとかよく分からない言葉を口にして気分を高揚させている。フフ……まったく、それじゃまるで僕がホモみたいな言い方じゃあないか!
「さぁ、いくぞっ! ハワイへッ!」
 僕は気合いを入れてあみだくじをすることに。真剣に選択する。神様……どうか、ハワイを。駄目ならせめて合宿を。海を。僕にアバンチュールをおおおお!!!!!!!!!
「ここだぁああああ!」
 僕は一本の線を選択した。
「それじゃあ、スタートです……」
 そしてみんなが見守る中、線をなぞってあみだくじが進んでいく。
 ハワイでろ。ハワイでろ。ハワイ。ハワイ。海。ハワイ。ハワイ。海。ハワイハワイハワイハワイハワイ――九郎くんの家。
「うっわああああ! よりによって1番引きたくないの引いちゃったよおおおおお!!!」
 あまりのショックで人格が変貌しそうになった。
 なんだよ。僕の家って。これよく考えたら僕にとってみればただの罰ゲームじゃん。
 しかもさらに冷静に考えたら、これ全然夏と関係ないし。別にいつでもいいじゃん、こんなの。学校帰りとかのワンシーンでやることじゃん!
 みんなの期待に応えたかったのに……申し訳ない気持ちでいっぱいだよ。
 僕は恐る恐る後ろを振り返って見てみると。
「…はぁ。ま、柳木君はこんなものね」
 と、此花さんは冷めた目で僕をその辺の石みたいな感じで見ている。
「しょうがないよ、柳木君……はは、あはは……はぁ〜」
 僕を励ます弥生ちゃんは明らかにガッカリしてるし。ああ……ごめんよっ、弥生ちゃん!
「九郎は期待を裏切るのが得意だからね、しょうがないよっ。どんまいっ」
 そして珠洲だけはやけに嬉しそうだった。僕の背中をぽんぽん叩いている。
「く……くぅ〜……なんか僕の扱いが急激に酷くなっていってる」
 このままでは駄目だ……僕の威厳を回復させなくては……そ、そうだ。邪気眼を、邪気眼を使わなければ。
 しかし僕の邪気眼に対し耐性を持つ珠洲の存在と、そして部屋が散らかっていて狭いこと。
 この2つを考えれば邪気眼を使うには少々リスクが高すぎる。
 この状況の中、珠洲以外の3人を同時に魅了状態……。
 ハードルは高い。だけどこれは僕の沽券に関わる問題で、これから先、ハーレム計画に対しての僕の力量が試されているのではないか。神が僕を試しているのだ!
 僕は勝負に出る! 瞳の色を変え、部屋の中にいる珠洲以外の3人の女の子を見つめる。
 いーち、にー、さー……。
「なに変な顔してるんですか、九郎くん」
 と、いきなり一ノ宮さんが僕の頭をぽかんと叩いた。
「いてっ! な、なんで叩くっ?」
「なんか嫌な予感がしたんです。第六感ですぅ」
「なんだ、その第六感は! 僕の頭を叩いたところで何も変わらないし、叩かなくても何も変わらないよっ? ……ほ、ほんとだよっ!」
 僕は内心すっごく焦る。この子の第六感するど過ぎるよ。
「ごめんなさぁい。許してねっ……てことで、それじゃあ明日はちょうどお休みの日だから、お昼に学校に集まってから九郎くんの家に行きましょお〜」
 仕切っちゃってるよ、一ノ宮さん。そして全然悪びれてないよ。……や、実は悪いのは全部僕なんだけどね。
 にしても一ノ宮さん。油断ならない存在だ……でも、おかげで冷静になれた。邪気眼を使わずに済んだ。その場の一時の感情に任せて行動を起こしても、失敗に終わっていただろう。
「はぁ……ホントに僕の家行くんだ。しかも明日って、随分早いよ……いいんだけどさ。はぁ……じゃあ今日はこれくらいにして解散しますか」
 意気消沈した僕はすっかり大人しくなっていた。もしかして僕は、部長なのにこの女子4人に対して頭が上がらないという、悲惨な関係になってしまうのではと少し恐怖を感じた。
「…結局、掃除全然してない」
 端っこの方で、此花さんが実にいい指摘をしてくれた。 
「あはは。掃除ならまた次の機会にやればいいじゃないか。今はボク達の親睦を深める方が大切だよ」
 と、弥生ちゃんが窓ガラスに映る太陽みたいな笑顔でコロコロと笑っている。
「親睦……いらね」
 横で、弥生ちゃん達とは対照に、希望なんて一切感じさせないような暗いコメントを呟いてる珠洲。なに、この見事なまでの反対な性格。陰と陽?
 そういうわけで僕達は、今日のところはとりあえず解散ということにして、翌日の休日に学校に集合して僕の家に行くという事になった。


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