僕の邪気眼がハーレムを形成する!

第3章 ハーレム系主人公

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3

 
 翌朝。夏の日差しがジリジリと体力を削っていく中、僕は久しぶりに珠洲の家の前で彼女の登場を待たされていた。
 それというのも部活メンバーである珠洲が僕に話があるから一緒に登校したいとか言い出したので、僕は一足先に自宅を出たとこで待っていたという訳なのだが……しかし待てど暮らせど珠洲が出てくる気配はなかった。
 暑い……このまま待ってたら夏の陽炎に僕の体が溶けていきそうだ。
「メールの返信もしてこないし、もしかして約束を忘れてて先に学校に行ったとか?」
 と考えるが、すぐにそれはあり得ないだろうという結論に至る。珠洲は確かにどっか抜けたとこがあるけれど、約束をすっぽかす女の子じゃないことくらい分かっている。
 ……でも現に10分以上遅刻している訳だけど――と、考えたところで僕は重大な事実を思い出した。
「そうだよ……あいつ、昔から朝は弱くてしょっちゅう僕が起こしに行ってたんだった」
 小学生くらいの時まで僕達は毎日一緒に登校していて、それで僕はなかなか出てこない珠洲を起こしに行ってたんだった。とても懐かしい日々。いつからか、消えてしまった日常。
「珠洲のやつ、今も寝坊する癖が直ってないのか……これは久しぶりに僕が起こしに行くしかなさそうだな」
 僕はどうして珠洲と登校しなくなったのだろう。何か理由があったような気がする。
 僕は加瀬川家へと足を向け――その時僕に、今まで止まっていた刻が動き出したような感覚が去来した。僕は大切な何かを忘れているような……そんな気になった。
 ……気にするな。少し過去を思い出して、感慨深くなってるだけだろう。
 僕は久しぶりに加瀬川家のチャイムを鳴らし、珠洲の母親に挨拶し、せっかくだから九郎くん起こしてきてと言われて――そのまま僕は珠洲の部屋へと向かった。
 コンコンコン、と部屋の扉をノックして呼び掛ける。
「おーい、珠洲〜。まだ寝てるのかぁ?」
 …………沈黙。まぁ無駄だとは分かっていたけれど社交辞令のようなものだ。
「そろそろ起きないと遅刻するぞ〜。入るからな〜」
 昔の頃のように、断りを入れてから僕は珠洲の部屋へと入った。
「すぅ〜……すぅ〜……」
 ベッドの上では珠洲が気持ちよさそうに熟睡している。暑かったからだろうか、シーツなどは全部蹴っ飛ばしていて、パジャマも少しはだけてヘソが露わになっている。
 これだけ見ればごく普通の可愛い女の子なんだけど……でも、久しぶりに入る珠洲の部屋は……正直、予想から程遠い有様だった。
「話を聞いてて予想はしていたんだけど……これが女の子の部屋と言えるのだろうか」
 いや、言えない(反語)。
 周りを見渡しながら僕はしみじみ考える。昔はもっとファンシーファンシーした部屋だったのに、今ではオタク男子の部屋みたいになっていた。
 多分プンプン動画の為の機材なのだろう、カメラやらマイクやらケーブル類やらがその辺にごちゃごちゃと散乱していて、たいへん生活臭あふれる空間が形成されていた。
「やー……なんと言いますか、僕の幼なじみは思っていたよりも重症みたいというか」
 僕は呆れてベッドの上の珠洲の寝姿を見つめた。
 丁度タイミングよくその時、珠洲が寝返りをうちながら寝言を呟き始めた。
「むにゅ〜ん……これで……またあの日のように……」
 何かの夢を見ているのか? 面白いからしばらく様子を見てみよう。
「一緒に……楽しく……九郎……」
 って、僕? なんで僕の名前がでてくるんだ? って、そうか……珠洲のやつ友達いないから、僕の部活に入ることができたんで嬉しいんだな。
 僕は思わず口元を緩めたくなるが……でも珠洲さん、ちょっとっさっきよりもパジャマが大胆にはだけていて、胸まで見えそうなとこまでいってんだけど。
「うぅ……ん。九郎……ぁ、んっ……ダメだよ、いきなり」
「何がっ!?」
 って、つい叫んじまったよ! でもそれ位にびっくりしたよ! なに今の甘い声っ!?
「もぅ……九郎ったら……そんな事言って…・・これ以上は……恥ずかしくて言えないよぉ……」
「もしかして起きてない!? 微妙に会話が成立しているっ!?」
 普通にツッコんでしまったし。でも、それでも起きないのが珠洲の寝坊スキルの凄さなのだ。
 心なしかさっきよりもっと肌の露出が増えててパジャマの前ボタンも全部はずれてて、意外と豊かな胸が呼吸に合わせて上下させながら、彼女は寝言なのか何なのか分からない事を呟き続ける。
「あっ……は、激しいよ……そんなにしちゃったら、私……ぁぁっ……九郎っ」
「ねぇ、夢の中に僕がいるの!? そしてその僕はいったい何をしているのっ!?」
 もう目のやり場にも困って、起こすべきなのかどうかも迷った僕はその場にただ立ち尽くすしかなくて、でも……僕のツッコミが通用したのだろうか。珠洲の体がぴくんと跳ねた。
「う……? うぅん……ほぇ」
 珠洲がゆっくり目を開いて、そして上半身を起こして――僕と目が合った。
「……お、おはよう……珠洲――ぅぅぅぅううう……?」
 僕は眼前の光景に固まってしまった。
「うぅ〜ん……? なんでここに九郎が……」
 眠そうな半開きの目で僕を見る珠洲は――上半身のパジャマのボタンを全開で、その下は何も付けてなくて、つまり上半身の中身が丸見えになっていた。
「……ああ、そっか、私を起こしに来てくれたんだねぇ。えへへぇ」
 珠洲が手の甲でまぶたをこすりながらあくびをする。自分の姿に気付いていない。
 そして僕が硬直しているのを不思議に思ったのか、珠洲は自分の体を見て――全てを悟った。
「ひぃっ!? わ、わわわわっっ」
 珠洲が慌てて前を隠した。もう完全に遅いんだけど……。
 そう、何もかも遅い。珠洲は下を向いて小さな体をふるふる振るわせている。
 あ、これはまずいパターンだ。
「す、珠洲さん。まずは落ち着いてちょっと待って欲しいんだ。僕の目をみて冷静になろう?」
 ふふふ、だけど僕にはまだ生き延びるチャンスがある。そうだ、僕には邪気眼があるのだ。まずは珠洲を――って、珠洲には効かないよ! じゃん!
「く、く、く……九郎〜」
 珠洲が下を向いたまま不気味な声を発する。表情が分からないから余計に怖いよ。
 ――もういくしかない。駄目で元々。僕は珠洲に邪気眼を試すッ。
「す、珠洲っ。これは不可抗力なんだ。ほら、僕の目を見て落ち着けっ。10秒っ。10秒見つめるんだっ」
 僕の願いが通じたのか、珠洲が顔を上げて、僕をみた。その顔は――全くの無表情。ある意味1番怖い。
「す、珠洲っ。ほら、じっくり見てろよ〜。いーち、にー、さーん、しー、ごー、ろーく、なーな、はーち、きゅー……じゅうっ!」
 さぁ、どうだ!
「……殺す」
「やっぱ駄目だった! ホントなんでだろうね! ……ちょ、ちょっと珠洲さん待って! ほら、もしかして僕に今ときめいてない!? だったら見逃して欲しいんだっ。あれ? それはなに? それはマイクだよね!? 歌を歌う時に使うものだよね!? あ、珠洲が僕に歌を聴かせてくれあぎゃああああっっ!! いぎゃっっ! あだっ! 駄目っ、マイクはそんな使い方しないっ! 駄目っ。痛いっ、そんなとこ入らないっ……だ、誰か助けえええああああ!!」
 そんなこんなで僕は、かつて想像したことすらない地獄の責め苦を味わって、そして一緒に無言の登校をした。
「あ、あの……珠洲さん」
 沈黙に耐えられなくなって僕は途中、珠洲に話しかけてみたりした。
 まだ患部のヒリヒリが治まらない。
「……なによ?」
 珠洲はドスの効いた声をあげた。
「あ、いえ……その……今朝も日傘差してるんだなぁて思って……」
「……分かってないね、九郎は。実は朝こそ日光が強いんだよっ。紫外線に注意なんだよっ」
 なんか意気揚々と語り始めた。浮き沈みの激しい少女だ。
 やっぱり昔と変わらない。こうやって誰かと登下校するのはそれはそれで楽しいものだ。


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