僕の邪気眼がハーレムを形成する!

第3章 ハーレム系主人公

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 放課後になって、僕は廊下を歩いていた。
 既に辺りには人の姿がちらほらと確認できる位しか残っていなくて、大多数の生徒が家に帰るか部活に行ってるかしてた。
 あとは何の用事もないけど、別にただなんとなく帰らずに教室に残って友達と話してるのとか――そういったのがチラホラいた。
 僕が狙うのはまさにそうした、時間が有り余って暇な人間だった。
「あとは2人だけなんだ……でも」
 今の僕の状況は行き詰まったものだった。クラスメイトの女子全員に一通り声をかけていったけれど、リア充部に入ってくれると言う人は他に誰もいなかった。
「そうなんですかぁ〜。5人集めないと駄目なんですかぁ〜。つまりぃ〜、わたしは部員なんばー3番ってことなんですねぇ〜」
 隣を歩く、ちょっと天然入った少女が感心したように言った。
 ――僕と珠洲と一ノ宮さんの3人はひとまず今後どうするかを考えようということで、人気のない裏庭に集合することになったのだ。
 珠洲は日直か何かの用事があるからそれを片付けてからの合流だということだし、まだ中庭には来てないだろう。
「まぁまぁ、柳木くん。そんなに焦ることはないと思いますよぉ。ゆっくり気長にやればいいんじゃないですか〜」
 僕と共に中庭まで一緒に向かっている新メンバー、一ノ宮紅葉が大きな胸をポヨンと弾ませ、言った。ピンク髪の少女は巨乳と相場が決まっている。
「でもやっぱ時期的に言ってももう夏だからね。後になればなるほど入ってくれる人はいなくなると思うから」
 一ノ宮さんが言うくらい気長にやっていたら、学校を卒業するまで多分このままな気がする。
「そうですかぁ〜……でも『急ぐな危険』ってことわざもありますよぉ」
「ないよ。なに、その標識みたいなことわざ!? 一ノ宮さんが言いたいのは『急がば回れ』なのでは!?」
「その言葉にもあるとおり、ぐるぐる回ってみるのも1つの手ってことなんですよぉ」
 垂れ目気味の瞳を中空に向け、1人で納得している一ノ宮さん。
「一ノ宮さん……君、もしかしてただ部員集めが面倒臭いだけなんじゃ……」
 彼女ならなんとなくありそうな事だった。いや、でもまさかな……いくらなんでもそれはないだろう。そんな事を面倒がっていたらそもそも部活自体入るわけないし、部員集めも含めてエンジョイする活動なんだっ。一ノ宮さんはその辺きっちり分かってるはずだ!
「ふ、ふわっ!? な、ななな……なにを言ってるのかなぁ〜、柳木くんは。そ、そそ、そんな事あるわけないじゃないですかーーーっ!」
「思いっきりビンゴだよ! すっごい分かり易すぎるよ! めっちゃ焦ってたし。最後の方ちょっとキャラ変わってたし! 若干キレてたしっ!」
「……き、キレてないですよぉ」
「はぁ……やれやれ。別にいいよ、一ノ宮さん。確かに僕のやってる事は無謀かもしれないし、滑稽かも知れないし、それに一ノ宮さんを強引に巻き込むわけにもいかないからね」
 自分で言っといてなんだが、僕は自分の台詞に皮肉めいたものを感じた。強引に巻き込むわけにいかない? 何言ってんだ。僕のこの力は強引に相手の意思をねじ曲げるものじゃないか。僕は……非情になりきらなければならない。そんな事だから僕は氷河苫に敗北したのだ。
「……? どうしたんですかぁ、柳木くん。なんだか元気ないようだけどぉ」
 一ノ宮さんが僕の前に立って、下から顔を覗き込んでいた。
「なんでもないよ。ただやっぱり一ノ宮さんも一緒に頑張ってくれると嬉しいなって、それだけだよ」
 僕を心配してくれている一ノ宮紅葉。僕は彼女のその好意も、僕の強制的な魅力によって異質に変えられてしまうのだろうか。僕は――それをしなければいけないんだ。これは仕方ないことなんだ。
「なら安心です。わたしも一緒にやりますっ。だから心配しなくて大丈夫ですっ」
「……はは、ははは」
 僕はただただ苦笑いを浮かべるしかなくて、そして僕達はいつの間にか待ち合わせ場所の裏庭へと来ていた。

「用事があった私の方が先に来るってどういう事なの、もうっ」
 中庭に到着した僕達を迎えてくれたのは、屋根のあるベンチに座った珠洲だった。横には白い日傘がたたんで置かれている。
「まぁまぁ、珠洲。そう怒ると体に悪いぞ、ただでさえ弱いんだから」
 僕達はちょっと無駄話をしすぎていたようだ。反省。
「うん、でも私もついさっき来たばっかりなんだけどね」
 ……だったら別にそんな怒ることないだろうに。
「え〜と、それで珠洲。この人がさっきメンバーに入った一ノ宮紅葉さん。で……一ノ宮さん、こっちがもう1人の部員の加瀬川珠洲」
 僕は2人の少女にそれぞれを紹介した。
「あはは。紹介はありがたいんだけどね、九郎。私、一ノ宮さんのこと知ってるよぉ。だって同じ学年だし、隣のクラスだし時々体育の授業とかで――」
「はじめましてぇ、よろしくお願いしますぅ〜」
「…………」
 え……あれ? これは、ちょっと珠洲が可哀相な感じの……あれ?
 少しの間固まっていた珠洲は、顔を引きつらせながら口を開いた。
「あ、あはは……そ、そうだよね。たまに授業で一緒になるくらいじゃ、そうそう別クラスの生徒の名前なんて覚えてないよね、それに私って一ノ宮さんと違って存在感とかないし、友達だって少ないし……」
 まずい、珠洲がネガティブモードに突入しちゃった! この2人もしかして相性よくないかもしれないぞ! 一ノ宮さん、とりあえず珠洲に謝るんだ!
「ほ、ほらっ、一ノ宮さんも何か言って!」
「え……え〜っと、もうあなたの事は覚えたから安心して下さい〜、木村さん」
「ちっげーよっ! 全然覚えられてないじゃんっ! 木村さんって誰だよ!」
 珠洲があまりに不憫に思えて、僕は思わず横からツッコミ。
「木村さんはわたしの近所に住んでるおじいちゃんで……」
「説明しちゃったよ! そしてホントに誰だよそれっ! 確信的間違いじゃん! 近所のおじいちゃんだったの!? なんでおじいちゃんが会話に登場するのっ!?」
 激しい一ノ宮さんのボケに僕のツッコミが追いつかない。その一方で珠洲の精神的ダメージがどんどん蓄積されていく。
「う……うう……やっぱり私はどうでもいい存在なんだ。近所のおじいちゃんと混同されるくらいのキャラクターなんだ……」
 ああ、珠洲がしゃがみ込んで地面に指を這わし始めている。
 やっぱりこの2人、とてもじゃないが馬が合いそうな感じがしない。この先上手くやっていけるのか。
「あの、珠洲ちゃん」
 僕が為す術なく立ち尽くしていると、一ノ宮さんが眠そうな声で珠洲に話しかけた。あ……今度は名前を間違えてない。……ていうかいきなり馴れ馴れしく呼ぶんだね。
「あ……え、な、なに?」
 珠洲は驚いた感じに顔を上げて答えた。
 一ノ宮さんは珠洲を慰めるようにやさしく微笑んでみせている。
 あれ……もしや意外となかなか上手くいけそうかも。
 一ノ宮さんもこれで結構気を遣っている――?
「珠洲ちゃんは〜、神様とか奇跡って信じますか〜?」
 ……いや、初対面でなに言ってんのっ!? 初対面でいきなり何言ってんのおおおおお!? 2回感じるくらいビックリしたよ!
「ええっ、えと。私は……えーっと……」
 珠洲が困ってるよ! それでも健気に答えようと頑張っているよ! 頑張れ、珠洲。友達ゲットのチャンスだぞ!
「私は……いると思うな。だってそう信じた方が前向きに頑張れると思うから」
 おお、珠洲がいかにもそれっぽい答えを返した! すごいぞ、珠洲。少し見直したぞ。
 一ノ宮さんは珠洲の答えを聞いて、ほわわ〜んと笑うと、
「ふぇ〜……そうですかぁ。わたしはあんまり信じてません」
 そう答えた。
 な、なにぃぃいいいいーーーーーっっ!? ここでまさかのトラップだとおおおおおおおお!!!???
「う、ううんっ。そんなことないよっ。神様はいるよっ、奇跡もあるんだよっ!」
 そして何故か珠洲がムキになって食いついてるしっ! なんでだっ! なんなんだ、この話題は。この無意味な応酬は!? いや、これは一ノ宮さんなりのコミュニケーションなんだ! そう、2人が仲良くなるきっかけを自ら作ったんだ! だったら……。
「ええ〜、そんなのないですよぉ〜。ぷぷっ……珠洲ちゃんって子供ですねぇ〜」
 一ノ宮さんはそう言って、鼻で笑った。
 ごめん、僕が見当違いな思い込みをしてただけだった。一ノ宮さん相当腹黒いわ。この子から全然仲良くなろうという意思がみえてこないわ。
「い、いるもん。だって私見たもん……神様見たもん」
 珠洲が泣きそうな顔になって一ノ宮さんを睨みつける。いや、それ出任せだろ。そんなものどこにいたんだ。
「近所の公園で見たもん。午前中なのにスーツ着てたもん……おじさんみたいだったけど」
 それ、無職のおっさんじゃん! みたいじゃなくて、おじさんそのものじゃん!
 そんなんいくらなんでも酷いよぉ〜。これじゃあ一ノ宮さんだって……。
「み、見たんですかっ? す、すごい……くぅ、わたしの負けです」
 自ら敗北を認めちゃったよ一ノ宮さん! なにこの茶番!
 つーか結局僕達、集まったというのにほとんど何もしてないし!
 というわけで……そのあと収集着かなくなった僕達は、半ば強制的に解散となった。
 僕はメンバーだけ集めればいいと考えていたけど、こりゃ問題はまだまだ山積みのようだ。


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