僕の邪気眼がハーレムを形成する!

第3章 ハーレム系主人公

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

1

 
 僕が創設する予定の部活動、『日常生活充実クラブ』のメンバーを探す日々が始まった。
 もっとも僕の邪気眼『魅了』を使えば、人数を集めるのは造作もないことなのだが……そんな適当にメンバーを入れるのも困りものだ。
 魅了の強制解除などのハプニングなど何かあった時に困るし、第一……僕のクラブなのに僕が安心できない状況はお断りだ。
 かといって正攻法でメンバーを集めることは恐らく不可能だろう。誰がこんな部活に入りたがる? 日常生活をエンジョイしようという部活なんて具体性に欠けすぎているし、エンジョイしたいならとっくに他の部に入るだろう。
 だから珠洲みたいに簡単に入ってくれる人間なんていないし、結果、邪気眼は使わざるを得ないのが現実。
 しかし――闇雲やたらには使わないぞ。僕は氷河苫の件でそれを痛感した。出る杭は打たれる。能力の性能チェック程度の使用でも僕は昨日あれだけボコボコにされた。今以上に目立てばもっと事態が大きくなり僕の手に負えないとこまで行ってしまうかもしれない。
 それは困る。もちろん、いずれこの僕が邪気眼を使って世界の中心、地球規模でのハーレム系主人公になるのは決定事項なのだが今はまだ早い。準備段階というものがあるのだ。
 目立つことなく少しずつ拡大すべきだ。ならばこそ邪気眼は使いどころを見誤らずに、できるだけ普通に勧誘してメンバーを集める。

「で〜? アタシにその意味分かんない部に入れって言うの?」
 長田野あすかが眉間に皺を寄せながらつまらなさそうに言った。
「意味ならあるよ。日常生活を楽しく送るんだ」
 本当は長田野さんをメンバーに入れるのはあまり気が進まなかったんだけど、女子のまとめ役的な彼女を仲間に入れたならハーレム実現が容易になるだろう。
「それが意味分かんないって言ってんの。アタシはアンタとは違って、もう既に日常生活を謳歌してるの。間に合ってるのっ」
 相変わらず物言いがきつい。本当は僕だって間に合ってるよと言いたいとこだけど、実際ぜんぜん間に合ってないわけだし、それに長田野さんは普段から男子を嫌っているのに僕の『魅了』にかかると反比例するかのように僕に好意を示すのだ。
 だからこうして勧誘しているわけなのだけど……やめとけばよかったかもしれない。
「でもさ、ほら。長田野さんももっと男子と仲良くやっていけたらさらに楽しくなるだろ? 本当は男子に興味があるはずなんだから」
 興味がなければ僕の魅了にだってかからないはずなんだ。そして実質クラスの女子グループの中心格にいる彼女を懐柔すればこれから先、僕が動きやすくなるというものよ。
 ――なのに、僕の意見を聞いた長田野さんは。
「は……はぁっ!? アンタなに言ってんの? バッカじゃないのっ!? 死ねぇっ」
「あいたっ」
 拳を振り上げて僕に攻撃してきた。
「興味あるわけないじゃん! なに勝手な妄想してんのよ、この童貞っ! そんな胡散臭い部活に入る奴なんて変態ぐらいしかいないわよ!」
 そう言って長田野さんは次にケリを加える。
「ったい!」
 周りにはいつの間にか、長田野さんの取り巻きの女子達が僕を軽蔑するかのような目で睨みつけていた。
「……ご、ごめんなさいっ」
 やっぱ、この人を誘った僕が馬鹿だったのだ。
 この瞬間、クラスの女子を仲間に加えるのはほぼ絶望的になってしまって、僕は途方に暮れる。――やはり邪気眼に頼らざるを得ないのか。
 長田野さんは魅了にかかりやすいから、もしかして元々僕が好きなのかも。いけるかも――と思ったんだけど……もしかして、魅了にかかりやすいからこそ、普段はその逆の感情を僕に持っているということなのかな。だとすると……めっちゃ嫌われてる!?
 僕はちょっと落ち込んだけど……さっきの長田野さんの鬼神の如き荒れようを見て、正直ほっとしている僕がいた。
 長田野さんが仲間にならなくて、ほんとによかった。あんなの部員にいたら地獄の日々だよ。
 焦ることはない。まだ勧誘は始まったばかりだ。昼休みもまだまだ始まったばかりだし、とにかく目立たないように声を掛けていこう。
 まずは敵だらけとなってしまったこの教室を離脱しようと、僕が視線を廊下に向けた。
 その時――クラスメイトの1人が廊下に出て、窓から外の景色を見ているのを発見した。
 ……チャンスだ。声を掛けよう。周りの冷ややかな視線を受け止めながら、僕はクールに廊下に出て、
「あの……一ノ宮さん。そこで何を見てるの?」
 僕の声に、窓の外を見ていた一ノ宮紅葉がこちらに振り向き、眠そうな垂れ気味の瞳をまばたきさせて、舌っ足らずに声をあげた。
「え〜っと……ナンパ?」
 クラスで1番の大きさを誇ると噂される豊かな胸がポヨンと揺れた。おお……って、違う。
「い、いやっ! 違うよ! これはナンパじゃないよ! ただ一ノ宮さんがずっと窓の外を見てたから気になっただけなんだ! 僕はそんな……ナンパとかしない人だから!」
 って、なに僕はこんなに必死で言い訳してるんだ? もろ童貞丸出しみたいな感じの人になっちゃてるよ。
「え〜と、わたしは、なんだか今日は空が青いな〜って、外を見ていたんだよ〜」
 僕の言い訳を無視して、一ノ宮さんはマイペースに僕の質問に答えた。ていうか相変わらずのんびりした人だな。
「一ノ宮さん、本当はただ声を掛けただけじゃないんだ。僕と一緒にある事をやらないかって誘いに来たんだ」
 自然と僕の口から勧誘の言葉が流れ出ていた。彼女は悪い人間じゃなさそうだし、きっといい仲間になれそうな気がした。
 僕の言葉を受けて、一ノ宮さんはしばらく「う〜ん?」と視線を斜め上に上げながら考えて、
「あ、マルチ商法ならお断りだよぉ〜?」
「誘わない誘わない! そんないかがわしいものじゃなくてもっと健全なものだよ!」
「みんな最初はそう言うんだよぉ〜」
「君は僕をどんな目で見てるんだよ!? 僕はただ部活動のメンバーを探しているだけなの! というより一ノ宮さんのこのマルチに対する警戒心はなに!? もしや被害者なの!?」
 普段から僕はそんな怪しい人間だと思われていたかと思うとショックを隠しきれない。
「部活動の……メンバーですかぁ? それはいったいどんなもうけ話なんですかぁ」
「いや、僕が一ノ宮さんを勧誘したいって言ってるのは怪しい商売とかじゃなくて、部活なの。学校内の健全な活動なのっ。意外と金にがめつい人だねっ!?」
 というわけで――一ノ宮さんが見当違いな勘違いをしているみたいなので僕はここでリア充部について一ノ宮さんに詳しく話して聞かせた。

「あぁ……う〜ん〜、ごめんなさいですぅ〜……ちょっと今は間に合ってるかもぉ」
 ぺっこりと頭を下げて、桃色の長い髪がばっさり揺れた。
「あ、いや……いいんだ。別に。君はどうやら部活に入っていないようだからさ、それで一応声をかけただけだから」
 正直いって、内心とても残念。彼女はちょっと天然入ったところがあるけど、おっとりマイペースな少女で基本誰からも好かれている。特に可愛らしい外見で男子生徒からの人気は高い。それに胸も大きいし。胸が大きい人間に悪い奴はいないし。
 しかし予想通りというかやっぱり断られたか。その気になれば邪気眼で僕にメロメロにさせて言う事きかせられるんだけど……今は水面下で穏便に事を運びたい。大人しく引き下がるか。
 僕が諦めてその場を去ろうとしたら、一ノ宮さんは、
「ごめんねぇ……でも何だっけ? その部活……アル中部?」
「うん。惜しいけど全然違うね。その名前だとちょっと法律的にまずいよね。意味が分からないよね。ま、意味が分からないで言えばリア充部もたいてい分からないのは否定しないけど。つまりリアル充実部だよ。分かりやすく言えばエンジョイするんだよ」
 つーかさっき説明したんだけど人の話ぜんぜん聞いてないんだね。
「え……エンジョイ? それはもしかして〜……エンジョイしようぜ、のエンジョイ?」
 なぜか一ノ宮さんは驚いたような顔になって僕をまじまじと見つめて言った。
「エンジョイしようぜ、が何を意味するのか分からないけど、うん。リア充部は一度しかない青春をエンジョイしようぜ、っていう部さ」
 ていうか2回説明するほど虚しいものはない。すっかり興ざめした僕は適当に答えながら、次は誰に声をかけようかと考えてみる。
 すると。
「ふえ〜……青春をエンジョイかぁ。面白そうだねぇ〜。それじゃあちょっと入ってみようかなぁ〜」
「分かった……また気が変わったら僕に言ってよ。いつでも歓迎するよ……って、ええっ? ええええええっっっっっ!? いま、なんてっっ?」
 僕の聞き間違いだろうか。一ノ宮さんが態度を180度急変させたような気がしたんだけど。
「マルチ商法ならお断りだよ〜」
「いや、いくらなんでも戻りすぎ! もうその話覚えてないし、引っ張りすぎだし! そうじゃなくてもっと後だよ!」
「九郎くん……わたし、できちゃったかも……」
 お腹をさすりながら一ノ宮さんがはにかんだ。
「いつの話っ!? そんな台詞あったっけ!? もしかして未来!? 未来視なのっ!!? 君の未来では僕達どんな関係になっちゃってるのっ!!!? てか何ができたのっ!? なんでもいいけどとにかく違うっ! 未来じゃなくてついさっき言った言葉だよ! もう僕も忘れそうだよ!」
「マルチ商法なら――」
「え、ええ〜っ!? 部活に入ってみようって、此花さんっ……ホントにリア充部に入ってくれるのかいっ!?」
 埒があかないので僕は強引に話を進めた。
「え? わたし、そんなコト言いましたっけ……?」
 一ノ宮さんが不審そうな顔で首を傾げた。
「話振っといてまさかの裏切りっ! 僕は君が怖くなってきた! やっぱ駄目なのっ!?」
 ま、そりゃこんな簡単に入ってくれるわけないもんな。
「あう……冗談です。ちょっと……入ってみたい、かも」
「!!!!???? どっち!? ねぇ、どっちなの!? もう僕は疑心暗鬼だよ! さっきから天国と地獄の繰り返しだよ! なんだかもうわけが分からなくなってきた!」
「さぁ〜……どうしよっかなぁ」
 一ノ宮さんは、無邪気な笑顔を見せる。からかうように僕を見つめている。
 く……なんだ、この子。何がやりたいのか全然分からない。意図が読めない。
 どっちなんだよ。僕はどうすればいいか分からない。…………。
 君が……君が悪いんだよ、一ノ宮さん。
 僕は静かに――瞳の瞳孔を開いて、一ノ宮さんの澄んだ瞳を見つめた。
「うふふっ。面白いね、九郎くんは〜。この部活も楽し……えっ」
 そして、目を細めて僕を見ていた一ノ宮さんの表情が、ガラリと変わった。
 僕はなにも悪くない。僕は使う気なんてなかった。君が使わせたんだ……邪気眼を。
「あ……あ。わ、わたし……入りたい……入りたい……ですぅ」
 まるでトイレを我慢する小学生のような声で、懇願し始めた一ノ宮さん。
 そうだよ。最初っからそう言っとけばいいんだよ。僕を焦らせるからこんな事になるんだ。
 とはいえ、さっきとはまるっきり違う一ノ宮さんに僕はドキリとしながらも、
「……じゃあ一ノ宮さん、一緒にエンジョイしてくれるんだね! ありがとう! これからよろしくねっ」
 またどんでん返しが発生する前に、彼女が僕の虜になっているのをいいことに、話を強引に完結させて、一ノ宮さんの両手をとって上下にぶんぶん振った。
 結局勢いで邪気眼を使ってしまったが……いいさ。1人確保した。
 でも……邪気眼を発動させる前も、既にリア充部に興味があるような素振りをみせていたけど、それはどういう事だったのか、僕はさりげなく一ノ宮さんに聞くと。
「わたしは楽しい事がないかいつも探しているんですぅ。ここってなんだか楽しそうじゃないですかぁ……何か見つかりそうじゃないですかぁ。キラキラしたもの。わくわくできる何かがぁ」
 聞いていたら眠りに誘われそうな声で説明する一ノ宮さん。窓の外から差し込む真昼時の陽光を受ける彼女の姿は、さながら不思議の国の妖精みたいだった。
「そうか。なんだか嬉しいな。それが僕の部活に見えたというのは」
 楽しい事か。うん、だったら一ノ宮さんの期待に応えられるような楽しい部活にしないとな。
「そうです。わたしは気持ちいいことが大好きなんです。人はわたしを快楽探求者と呼んでますから、ここはピッタリです。妖艶な空気を感じます」
「最悪だ! 一気に汚れてしまったよ! 爽やかな空気が一瞬にして真っ黒になったよ!」
 言葉のマジックだ。ていうかそのキャッチコピーほとんどいやがらせレベルじゃん。
「いや……まぁこっちとしては部員になってくれるならいいんだけどね」
 一ノ宮さんの言う事がいまいち分からなかったが……なんにしてもこれで2人目の部員ゲット。残るはあと2人。
 これでいいのかな。


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