姫の夢を叶える要
epilogue 〜ソラ〜
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
Atmosphere
ぽっかり穴の開いた気分――これが喪失感というのだろうか。
最近ずっと何かをなくした気がしていた。いや、もしかしたらこれまでもずっとそれを感じて生きてきたのかもしれない。
だからなのかどうなのだろうか、私はついさっき見ず知らずの男――といっても同じ学校の制服を着ていたが――に声を掛けてしまった。というかなんてことを口走ってしまったのだ……私とした事が不覚だった。
でも不思議だった。あの時はああする事が正しかったような、まるで始めから決められていたような、そして確かにあれは本当の私の気持ちだったような……。分からない……。
まぁ、いいか。考えていても仕方ない……と、私はいつの頃から持っていたのだろうか忘れたが、首にさげたお守りのペンダントを手にとってロケットの蓋を開け、鏡に映った自分を見つめる。こうする事でなんだか私は勇気づけられるのだ。
ふと私の視界になにやら黒い影が横切ったのが見えた。なぜかは分からないが無性に気になり、私は黒い影が横切った方へ向かってその後を追うことにした。
私が路地を曲がると、また黒い影が路地を通り過ぎるのが見えた。私は後を追う。不思議な事に、私が路地を曲がる度に黒い影も同じように路地を横切っていく。そのため姿がはっきりと見えない。
そうこうしている内に黒い影は遊歩道へと入っていった。私もその後を追う。なぜだか懐かしい気持ちになった。
遊歩道内は人の姿がほとんどなく、遠くの方で子供が一人サッカー遊びに興じている姿が見えるのみだった。そこに黒い影が姿を現した。とうとう追いついた。黒い影は錆付いたベンチの上に飛びのった。
ようやく黒い影を追い詰め、その正体を知った私は不思議な感覚に捉われた。
――目の前には黒いネコがいた。
私は動物を飼ったことがないし、ましてネコが好きというわけでもない。普通ならこんなネコを見ても特別何かを感じたりなどしないはずだ。
けれども目の前のネコを前にしてなぜか私はとても懐かしいような愛おしいような、なんとも形容しがたい気分になった。
ネコの方も私に何かを感じ取っているというのか、私をじっと見つめたまま動かない。
私はネコに近づいた。そしてネコの首に掛った首輪に目がいった。飼い猫だろうか。しかし私はこの首輪にも見覚えがあるような気がする。首輪には開閉式の小さな鏡が付いていた。それは私のペンダントのロケットととてもよく似たようなものだった。
このネコには飼い主がいないことを直感的に悟った。
なぜだろう、私はずっとこのネコを探していたような気がする。私はこのネコを決して手放してはいけないような気がした。
私はネコを優しく抱き抱えた。ネコはにゃあと一声鳴くと私に頬ずりをする。
その時、私のずっと抱えていた喪失感がようやく埋まったような気がした。
私は――決心する。
「あなたの名前はかなめよ。私にとって必要不可欠の要。よろしくね、かなめ」
かなめはにゃあと鳴いて、私の頬を舐めた。
私とかなめの、新しい生活が始まる――。
――fin――