姫の夢を叶える要

epilogue 〜ソラ〜

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

Blue Sky High

 
 目が醒めた時、そこはどこかの森……いや山の中だった。
 土の上で気絶していた。砂にまみれた体を起こそうとするが上手く動かない。
 太陽は高く、空は青々としていて、辺りは生き物達の息吹で満ち満ちていた。
 頭がズキズキと痛む。目がクラクラする。今の状況を整理しないと……そうだった、思い出した。オレはなんでここにいるんだ?
 オレの体は世界から消滅したはずだ。いや、そもそもここはどこなんだ? あの世界も消滅したのか? 役目を果たしたオレは何故まだ存在している?
「……目覚めた?」と、頭の上から声が聞こえた。
「だ、誰だ?」オレはいうことを聞かない体を、それでも無理やり起こす。
 オレを覗き込んでいた顔は鳳仙舞亜のものであった。
「安静にしてた方がいい、スカイハルト」

 街を一望できる岬で、オレ――つまりスカイハルト……だよ、な――は鳳仙舞亜に世界がどうなったのかを尋ねてみた。正体不明の奴に聞きたくなかったがこれも不可抗力だ。
「世界は今、正しく機能を果たしてる」これが答えだった。
「そうですか……苦労は報われた訳ですね」
 そうか、やってくれたんだな……あいつ。
 学校の方に目を向ける。けれどオレは疑問に思う事があった。
「……なぜ私はまだ存在していられるのでしょう」
 さらに言えばこの世界で……。
「あなたにはまだ果たすべき役割があるとしたら」
 鳳仙舞亜は独り言で言ったつもりのオレの呟きに意外な答えを返した。
「役割……? それは、どんな?」
 世界は本来の姿を取り戻したはずなのでは……?
「その時になったら分かる。人はみな役割がある、それまで運命は誰にも分からない」
 鳳仙舞亜は学校の方を見て答えるとこの場を立ち去ろうとした。
「どこにいくんです?」その後ろ姿に尋ねる。
「用は済んだ、私はもう行く。……でも、またいつか会うことになると思う」
 振り返らずに答える。
「だって世界はまだ始まったばかりだから」
 涼やかな空気によって鳳仙舞亜の髪がなびいた瞬間、彼女が微笑んでるように見えた。
「あと一つ」オレは駄目元で聞いてみる。「あなた一体何者なんです?」
 立ち止まりこちらを振り向いた鳳仙舞亜は、首を少し傾げて答えた。
「それはお互い様」

 鳳仙舞亜が去った後もオレは街を見下ろしながら立ち止まっていた。オレはこれからどうすればいいのだろうか、オレはこの世界にとっては完全なイレギュラーでしかない存在だ。こんな不安定なオレに価値なんてあるのだろうか。
 その時地面に何か光るものを見つけた。そこまで近づいて見てみるとそれはガラスの破片のようだった。だいぶ汚れている。
 ガラスの破片を手にとってみると、自然と今回の夢のような物語が想起された――。
「……彼女はどうなったんだろうな」
 共に世界を救った少女の事を想う。
 一人の少女が、大切に想う者と共にありたいと願った世界――叶わなかった願い。
「オレがやってきたことは正しかったんだろうか……」
 オレの目的はその願いの阻止。
 けれど少女達は最後まで純粋だった。ただ奇跡を信じていた。
「……。ああ、そうですね。きっとあなた達は幸せになりますよ……この世界でも」
 オレは様々なしがらみから吹っ切れたような気分になった、なんだか清々しい。もしかしたらオレもこの世界で、ただの人間に生まれ変われたのかもしれないと思えた。
 その時、遠くの空で一羽の白い鳥が大空を羽ばたいていったのが見えた。
「おかえり、新しい世界へ」
 7月の空は青く、高く、晴れ上がっていた。

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