姫の夢を叶える要

 第一章 廻る世界 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

7.  7/3 現在

 
 奏目が目を覚ますとそこはまたもや歩道橋の上だった。先程と違うところは空の色だけ。
「……も、戻ってこれた……? ……ってまたここなの!? まさか……」
 もしかしてまた別の時間に飛んだのかもしれない。だが、今の空の色は闇色で、それは過去へ飛ぶ前にビルから見た空だった。
 奏目がとにかく今がいつなのかを知るすべを考えていた時、夕闇の中に灯る赤を見た。
「あれは……?」遠くにみえる赤い光――あれは、炎だ。「もしかして……」
 何かを感じ取った奏目はその場所に近づく。サイレンの音が聞こえてくる、消防車だ。
「やっぱりそうだ」奏目の考えが確信に変わった。
 これで本日……? 一応3度目となる目的地に到着した。例のビル――鳳仙ビルだった。
 最上階あたりから炎が勢いよく猛っている。火事だ。
 消防車やら救急車やらパトカーやら野次馬らで辺りはごった返していた。奏目はその中で野次馬の一人となって呆然と炎のゆらめきを見ているだけしかできなかった。いや、もう一つできることがあった。奏目の近くにいる野次馬達が話している情報を耳に挟むこと。
 それによると火事の原因は爆発であったらしい。
「まったく、不吉だねこのビルは。3日前にも誰かが飛び降り自殺したっていうし」「でもあれは見間違いかなんかじゃないの? 遺体はどこにも見つからなかったっていうし」「でも大勢が飛び降りるとこ見たって……」「じゃあ幽霊だ、きっと」
 そこらを飛び交う話を聞きながら、奏目はふと自分と同じく共にビル内部にいた緒姫とスカイハルトの事が脳裏に浮かんだ。――が、どうすることもできないのでそのまま家に帰る。
 度重なる非日常な出来事の数々に奏目の精神はもう限界だった。ちなみに本日の日付は7月3日であり、つまり桑崎奏目は元の時間に戻っていた。
 そして、今夜も夢をみる。

 ……まただ、一体何回みせる気なんだこの悪夢を。
 夢なのにまるで現実であるかのようなリアルさ。夢というよりはそう、もっとはっきりしたものを見ている感覚。……そして最も重要な事実はこの夢が現実になるということ、且つその直後時間を超越する事。
 これは予知だ、危険を知らせている。そしてその通りに時間を飛ばされているのだ。多分夢にも現れるように、スカイハルトの手によって――。
 ――だがしかし、今回の夢にスカイハルトが出てくることはなかった。

 学校の裏山の岬にいた。目の前にいるのは鼎緒姫。
 昨日のデジャヴでもみているようだった。街を見下ろしてみる。
 だがそこには何もなかった。真っ暗でまるで生命が感じられない。
 世界は奏目と緒姫だけを残して消滅したように感じた。再び緒姫をみるとその姿はもうなかった。だが確かに感じた。緒姫が奏目に向かって何かを囁いていたことを。
 奏目は転落防止用の柵を乗り越え、真っ直ぐ歩み出す。崖の一歩手前で立ち止まり、
「    」
 何か言ったような気がした。いや、もうそんな事はどうでもいい。
奏目は大空に飛び込むように一歩踏み出して――、

 目が覚めた。ここ最近みる奇妙な夢よりさらに奇妙な感じがした。もっと不思議だったのは、気分は最悪なはずなのに心はなぜか清々しかったこと。

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