姫の夢を叶える要

  

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

prologue

 


 ……何か、夢を見ていたような。
 目を覚ませばそこには窓があって、向こう側には少しオレンジがかっていたけれども、青空が続いていた。その中を白い鳥が一羽飛んでいるのを確認できた。なんていう鳥だったっけ……名前を知っている気がしたんだけれど。
 でも頭がぼんやりしていたので、あまり考えないようにしようとなんとなく視線を下に向けると、体操服を着た生徒達がランニングをしている姿が見えた。
 発信源は裏山からであろうセミの声がジリジリ聞こえていた。そう、もうすぐ本格的な夏がやってこようとする季節だった。
 やがてグラウンドに体操服を着た生徒がまた一人遠くから現れた。そのままランニングしている集団に加わる。
 今日も世界は相も変わらず平和そうだ。
 ……3年5組。なんとなくランニングに加わった生徒の正体は3年5組の人物であるような気がした。ぼけーっと様子を眺め続けていると、やがて脳が徐々に目を覚まし始めて正常さを取り戻したのか、自分の今の状況を考える余裕がでてきた。
 ……ああ、そうか。授業中に、いつの間にか居眠りしてしまったんだろう。それで、えーと……何か夢を見ていた気がする、なにか大事な……駄目だ、思い出せない……。
 とりあえず辺りを見回す。するとここは教室なわけで、そこには授業をしている先生と授業を受けている生徒がいると思っていた、んだけど教室の中には他に誰もいなかった。
 ……そうか、誰も起こしてくれなかったんだな。
 辺りは既に放課後で、勿論授業は既に終わっていて、先ほど窓から見たグラウンド上の体操服の生徒達は授業中だったのではなく部活動でのランニングだったのか。
 しばらくしてからオレンジ色に染まった一人きりの教室の中で、帰ろうと決意する。
 誰もいなくなった教室の中はとても静かで、まるで時間という概念がなくなった異質な空間であるかのようであった。
 何か、とても大切なことを忘れてしまったような……そんな気がした。
 白い鳥はもう窓からも、どこからも見えなくなっていた。

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