引き継がれる物語

終章 君が歩くのと同じ速さで

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

※※※

 
 ――後日。俺は久しぶりに家の近くにある神社に訪れた。
 寂寥とした神社に相変わらず人の姿はない。
 だけど、今日は俺一人じゃなかった。
 にゃお、と俺のななめ後ろから声――。
 最近、俺の傍には名もない黒猫がいるのだ。どういうわけかこの猫は俺に懐いてしょっちゅうついてくる。影のように真っ黒な猫は、まるで影みたいにどこにでも俺についてくる。しまいには学校の中までもついてくる始末でとても困っていた。
 そのくせこの猫、俺が触ろうとしたりすると嫌がるし、気付けばどこかに姿を消してたり謎なところが多いのだが……普段エサとかはどうしてるのか心配になったりする。
 それで今日も歩いていた俺に、いつの間にかこうしてついてきたわけなんだが……。
 まぁ、いいかと俺は神社の中をさっと見る。
 こうしてみると、まるでこの神社はあの頃の廃墟のようだった。
 時が止まったかのような静けさと退廃的な空気。かつての誰かさんのように、今はここが俺の居場所。
 こんなところに来たって何かあるわけでもないし、誰かがいるわけでもない、ましてや敵から隠れているわけでもない……俺はここが1番落ち着くのだ。だから遠くに行っても、ずっと離れていても、最後はここに帰って来る。
 あの廃墟と同じように、もしかしたらこの神社も、あまり居続けていい場所ではないのかもしれない。もしかしたら、廃墟と同じ属性を持った場所なのかもしれない。
 だからあまり長居するわけにはいかない。俺はこの何もないけど素晴らしい田舎町を散策しよう。いや、今度はもっと遠くに行こうか。世界は広い。俺の知らない場所はどこにだって存在する。時間はいくらでもあるのだ。
 さぁ、そろそろ新たな旅に出よう。幸い元々散歩が趣味だから全然苦にはならない。
 決意を新たに、俺はこの神社を出ようかと踵を返しかけた。
 すると――。
「あなた――私の姿が見えるかしら?」
 と――とても懐かしい声が俺の耳に届いた。これは……俺の幻聴じゃない。
 すぐに声のする方に振り返った。
 そこには、1人の少女の姿があった。
 まるでこの世の存在じゃないような神々しい雰囲気をまとった少女。
 その少女は儚なげだけど、優しい微笑みを浮かべて言った。
「おかえりなさい」

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