引き継がれる物語

終章 君が歩くのと同じ速さで

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

○ 事象0の世界 ○

 
「――おしまい」
 少女は長い長いお話をようやく終えて、長いため息を吐いた。
「お疲れ。今日のはまた大作だったね、さすがだよ」
 少年は少女にねぎらいの言葉をかける。
 ここはとある廃墟の中。かつてアミューズメント施設だった建物に少年と少女はいた。
 少年にとって少女は1番の人だったし、少女にとって少年は1番の人だった。
 ここは2人の秘密の場所。夜になると2人は、誰にも内緒で2人だけの世界で特別な時間を過ごすのだ。
「今のお話どうだった? 面白かったかな?」
 干からびたプールサイドで、隣にいる少年に感想を尋ねる少女。
「少し悲しいお話だったけど、なかなか面白かったよ。でも男の子が現実だと思っていた世界が、実は夢の中の世界だったとは驚いたよ」
 そう言って、ふと少年はこの話をどこがで聞いたことがあるような気がした。
 少女は得意げな顔をして解説する。
「確かに少し悲しく聞こえるかもしれないけど……実はこのお話、ハッピーエンドなんだよ」
「ハッピーエンド? 確かに終わり方はそれっぽいけど」
 少年は納得できないような顔を少女に向ける。
「男の子は長い夢から目覚めたんだよ。これは現実に向き合ったって事なの」
 と、少女の言葉を受けて少年は少し考え込んで、口を開いた。
「そうなんだ……それって、なんだかボク達みたいだね」
「え? それはどういう事?」
 少女は少年の顔を見つめた。
「いや……上手く説明できないんだけど。ほら、ここってなんだか現実じゃない感じがするだろ? 夢の中みたいな……だからひょっとするとボク達も夢を見てるのかもしれないな、って」
 照れくさそうに少年は言って、そして少女の顔をみた。
「ふふ。意外とロマンチストなんだね」
「君の話をずっと聞かされていたら誰でもそう言うよ」
 まるで夢のような時間が流れる。現実から切り離された少年と少女の世界。2人が築きあげた世界。
 2人はお互いの顔を見つめ合っている事に気が付いて、恥ずかしくなって目を逸らした。
「夢じゃないよ」
 少年は満月を見上げながら言った。
「え?」
 少女も同じ月を見上げ疑問の声をあげる。
「夢も現実もボク達が感じ取っていればそれは真実なんだ。だから偽物なんてない。全部繋がっているんだ」
「……そうかもしれないね。うん、私もそう思ってるから、こうしてお話を創り続けてるのもしれない」
 そう。もしかしたら世界は繋がっているのかもしれない。
 そして心がそれを求め続けているのなら、きっと新天地への扉は開かれるのだ。希望も絶望も至るところにあるし、それを選び取る権利は誰にでもあるのだ。人はみんな幸せになれる。
「だから私、創り続けるから……たとえ離ればなれになっても、お話を創ってずっと一緒にいられるようにするから」
「……うん。ありがとう。ずっと一緒にいようね」
 だから、あまねく物語は全て幸せな結末で終えるのだ。


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