アンノウン神話体系

第4章 来訪者

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

―― 幕間劇 その1 ――

 
「なんてこったぁあああ……俺様がここまで追い詰められるなんてッッ! クッソがッ!」
 そこは町の外れにある、人が寄りつかなくなって久しいとある廃工場。
 夜の闇の中にまぎれるように建つ建物は、人間世界からその身を潜めているようだった。
 その工場内の地下を降りたところにある、夜の闇にも増してひときわ薄暗い場所にある一室の暗がりに、1人の男性の姿があった。
 その男性は一見すると、何の特徴もないごく平凡なサラリーマンのような、30代のスーツを来た男性という風体であった。
「使い魔はことごとく消滅……頼みの綱だった分身も、魔術師なんてふざけた連中に解放されてしまった。正直言ってかなりヤバイ……かなりヤバイが、俺様は簡単には諦めない」
 それは悪という概念を体現した、この世界の外なる存在――暴食の悪魔・グラットンであった。
 異端の神・アノンに徹底的にやられ続けた彼は、この廃工場で体の傷を癒していたのだ。
「だがもう準備は整ったぜぇ。ここはもう俺様の城だ。トラップはそこら中に仕込んだし、ここにいればチカラの心配だってねえ……万全の状態になるまでここで様子を見るとしよう」
 完全とはいかないまでも、ある程度のチカラ――つまり、魔力――も回復できたし、アノンとの戦いで失った右足もなんとか再生することができた。
 それに彼には秘策がある。この町に来たとき真っ先に手に入れたこの廃工場、彼の隠れ家それ自体である。
 グラットンは自分の魔力の多くをこの場所に固定させたのだ。それによりこの場所自体がグラットン専用のチカラを生み出す魔城となっている。
「おかげで最大パワーをだいぶ損なうことになったが……結果的に正解だった。ここにいる限り俺様は安心して待ち構えることができる」
 工場内には現在、生存範囲はこの建物内のみではあるが、溢れ出る魔力から創りあげた無数の魔獣が存在している。一歩中に踏み込めば群れを成してたちまち襲ってくるだろう。
 さらに念には念を入れてあらゆる場所に設置した、魔力仕掛けの殺人トラップまであるのだ。到底グラットンの元まで辿り着くことは不可能だ。
「どうやら天使の奴までもが来てるらしいが……俺様の目的をもう嗅ぎつけてきやがったか……。しかし幾重にも張り巡らされた罠と俺様が丹精を込めて創りあげた魔獣……果たして俺様を処刑することができるかなァ?」
 悪魔が、その名のとおり、悪魔のような笑みを浮かべた時――。
「え――?」
 グラットンは突然、もの凄い衝撃と揺れを感じた。そして地響きのように鳴る轟音。
 グラットンは咄嗟に判断した。
 この工場で――大爆発が起こったのだ。


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